コロナ禍の下でも、議員の不祥事は起こります。一般常識に照らして、「え、なんでよ!」と叫びたくなるような形のものまでも起こります。
春先からの国内コロナウィルスの猛威は、4月に入っての「緊急事態宣言」を頂点に、この原稿を書いている6月10日の時点でも東京都などを中心に、まだ収まったといえる状況にはありません。
その3か月を超える期間で、地方議員の“不祥事”は、3月初旬の静岡県会・諸田洋之議員の「マスク転売」に始まり、5月終わりの石川県金沢市議会の松村理治議員の「コロナウィルス感染療養中のパチンコ打ち」にとどめを刺したような気がします。
私が不祥事に“”を付けたのには理由があります。この二人の行動は、法律に照らし合わせた場合、刑法に触れる部分がない。つまり、道義的な責任なのです。
諸田議員の「マスク転売」は発覚直後に法律で禁止事項となりましたが、遡及して、処罰しないのが日本の法律である限り、罪には問われません。松村議員の「パチンコ打ち」も同じです。
メディアが報道する必要があると考えて取り上げたのは事実ですが、公人ならではの“不祥事”であるのもまた事実なのです。公人でなければ、報道そのものが「名誉毀損罪」にあたる可能性が出るものでした。
しかし、公人は事実と認定されたものに対する「表現の自由」、つまり道義的責任の追及からは逃れられないのです。「マスク転売」も「パチンコ打ち」も諸田、松村両議員は事実である、と認めています。
こうなると、今の刑法(詳しくは刑法第230条の2の3項「公共の利害に関する場合の特例」を)に照らし合わせて、両議員は「マスク転売」や「パチンコ」について書かれたことを名誉毀損と訴えてもほぼ成り立たちません。
公人でなければ、事実であろうがなかろうが、名誉を棄損すれば、名誉毀損なのですが、議員は違うのです。
刑法230条(名誉棄損)
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
刑法230条の2(公共の利害に関する場合の特例)
前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
つまり、諸田、松村両議員の行動は、犯罪ではないのですが、それでも道義的責任を問われざるを得ない行動だったのです。報道する側も「これはあかん!」と感じたから報道し、それに対する反応も、各々の議会がきちんと示しています。
諸田議員に対しては、3月19日に諸田議員を除く静岡県議全員の賛成による「問責」決議が可決され、松村議員に対しては、今月22日の議会最終日までに「議員辞職勧告」の採決が行われる見通しになっています。
法律は許しても、有権者は許さない、という姿勢を有権者の選んだ代表の集う議会が示しているわけです。しかし、この「問責」や「議員辞職勧告」は、犯罪を弾劾するものではないですし、法的拘束力もありません。
なので、これまでもこういった決議を議会で出された議員の大半は、「すみませんでした」の謝罪だけは様々な形で行いこそすれ、議員を辞めることはしていません。
私も地方議員時代、“不祥事”を起こしたとされ、全国メディアをはじめ追及される日々を送ったことがあります。身に覚えのないことだと、声明文を出したりしましたが、一度、弾劾の波ができると、風評に抵抗など出来なくなります。
ただ、それでも丁寧に、議会に説明し、メディアに反論となる明確な証拠を出していけば、理解は得られるものです。私の場合も、結局、所属していた都道府県レベルでの議会からは、「問責」や「議員辞職勧告」を含めて、処分といえるものは一切、受けませんでした。
それだけに、辛抱強く真相を訴えて、議会に再度、受け入れられた自分の経験も踏まえて、議会から「問責」や「議員辞職勧告」を出された議員が、そのまま議会に居続けるのには抵抗を感じます。
「私たちは、あなたとは仲良くできないです」という議会の、つまりは有権者代表の意見の集約が、これらの決議です。その有権者の意見の集約を無視して、議員を続けられるのですから、「どないなっとんねん」と思ってしまうのです。
ここに挙げた2つ以外にも、政令指定都市の京都市で「政務活動費二重計上」で同議会史上2人目の「問責」決議がされた森川央京都市会議員、あるいは選挙区での居住実態を疑われていた最中にメディアになされた不倫報道を認めて辞職した井上将勝元埼玉県会議員など、地方議員の“不祥事”と呼べるものが、この時期ありました。
議員辞職した井上元県議は、居住実態疑惑に丁寧な説明を行っていませんし、森川市議も「管理能力に問題があった」では、万人の納得を得られる説明とはいえないでしょう。
今回挙げた、いずれのものも、刑法の範ちゅうでは罪に問われないかもしれません。しかし、議員は、有権者が選んだ一般国民の代表なのです。“”がついていても、不祥事と指摘された時、国民の模範として、多くの人が納得のいく説明は必要とされてしまうのです。
私自身、2期目の出馬を断念したように、有権者の目はそれほど甘くない。疑われたら、そして、“不祥事”を指摘されたら。誠実に、説明するしか方法はなく、説明がついても、信頼が完全に元に戻ることはない。
これが、“不祥事”に巻き込まれた、あるいは起こした議員を待つリアル、だと私は思っています。
(オフィス・シュンキ)
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