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ひとり3万円給付 品川区でできて、なぜ目黒区でできない?(かいでん和弘・東京都目黒区議ブログ)

2020/6/5

選挙ドットコム編集部

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東京都目黒区議のかいでん和弘氏が自身のブログで、品川区民に支給される給付金ひとり3万円(中学生以下はひとり5万円)について、なぜ目黒区ではできないのか?について詳しく解説しています。

かいでん氏のブログ全文は以下の通り。

 

品川区でできて、なぜ目黒区でできない?(区民への給付金3万円)

こんにちは。26歳の目黒区議、かいでん和弘です。

 

6月1日、品川区から驚きの発表がありました。

品川区HP「(仮称)しながわ活力応援給付金」

 

それによると、品川区民約40万6千人全員に対して、ひとり3万円(中学生以下はひとり5万円)を品川区が独自に給付するとの内容。このニュースを聞いて、私はただただ驚くばかりでしたが、やはり目黒のお隣の区ということもあり、発表があって以来、目黒区役所にも私たち議員のもとにも様々なご意見や「目黒区でもぜひ」というご要望をいただいております。

 

そこで、「今回品川区で発表されたことは、果たして目黒区でもできるのか」ということについて、きわめて個人的な意見を書き記します。

 

以下の内容は、目黒区役所の公式見解でもありませんし、あまつさえ品川区へ取材の上で書いているわけでもありません(※注1)。むしろ品川区さんにとっては本当に“大きなお世話”の内容になっておりますので、ご迷惑をおかけすることをあらかじめお詫び申し上げます。また、この内容についてのすべてのお問い合わせは、私までお願いいたします。

 

さて、いきなりではありますが、もう宣言してしまいます。品川区のような現金給付は…

「目黒区でもかなり無茶をすればできないことではない。でもやるべきではない。」

そう考える理由を本記事にてご説明いたします。

 

(※注1)
各区役所職員の負担を軽減するために、現在、議員が他区へ調査や聞き取りを行うことは禁じられているのです。

 

お金はどこから?

 

やっぱり、私も一人の目黒区民としての感想を言えば”うらやましい”です。そりゃ、もらえないよりはもらえた方が助かりますもの。けれども、議員として、ここは一時的な思考や感情論に流されるのではなく、それがどういう影響を今後に及ぼすか、しっかりと吟味しなければなりません。

そこでまず気になるのは品川区の財源。今回品川区で計上した135億円余というのは、目黒区の年間の予算のおよそ10%に相当する大金です。それを全額、品川区では「財政調整基金」から計上しているとのことでした。そこでまず、この「財政調整基金」の説明から始めます。

「基金」とはわかりやすく言うと、「区の貯金」のこと。区民の皆様から頂いた税金は多くがその年のサービスを行うために使っていきますが、一部を使わずにとっておいて、将来使うためにコツコツ貯金しているのです。「財政調整基金」は、そんな区の貯金の種類の一つです。

(出典)品川区HP『平成30年度品川区財政状況資料集』より筆者一部改変

 

上の表は、品川区の基金を一覧で示したものですが、数字は気にしなくて大丈夫です。お伝えしたいのは、基金にもいろいろな種類があるということ。表の一番上の「財政調整基金」のほかにも、「減債基金」や、「その他特定目的基金」として、品川区では5つの基金が設定されています。

そして、表の一番下に書いてありますが、これらの基金は使い道が決まっていて、決められたこと以外には使ってはいけないことになっています(条例で決められているのでそこのところはかなり厳格です)。これが基金の説明になりますが、イメージとしては、「子どもがおこづかいを複数の貯金箱にためている」感じでしょうか。青色の貯金箱はお菓子を買う用、赤色の貯金箱はおもちゃを買う用というふうに。

 

その各種ある基金のなかで、最も使い道が緩く設定されている(つまり何にでも使える)のが、今回品川区が給付金の財源として使った「財政調整基金」です。どういう決まりになっているかというと、例えば目黒区の条例では以下の通り。

 

赤線部にありますが、要するに「区長が必要と認めたら好きに使っていい」ということになっているんですね。ゆえに今回コロナ対策として各区が政策を打ち出すときには、その多くの場合、不足する財源をこの「財政調整基金」で賄うことになります。

今回の品川区の場合、もともと積み立ててあった「財政調整基金」180億円ほど(※注2)のうち、135億円余を取り崩して給付金に充てました(積み立てた基金の約75%を大放出!)。この判断はとりもなおさず、『これからもどんなに第二波の影響が拡大しても、残った45億円だけを使って乗り切らないといけない』という状況に身を置くことにを意味します。正直言って、かなり肝の据わった判断をされたものだと、決断力に感服しております。

 

(※注2)
上の品川区の表では財政調整基金の額が190億円余となっていますが、これは平成30年度のデータですので、最新では180億円余となっているようです。

 

目黒区でやるとどうなる?

 

しかしこれは、品川区でできたから目黒区でもできる、というような単純な話ではありません。目黒区で品川区と同じ条件で実施した場合にどれだけのお金が必要か、超ざっくり試算してみました。(※注3)

中学生以下   33,201人 × 5万円 = 16億6,005万円

中学生以上   250,049人 × 3万円 = 75億0,147万円 

合計    91億6,152万円

 

この超アバウトな計算によると必要なお金は92億円ほどということになります。そして現在、その財源を賄うべき目黒区の「財政調整基金」には、約182億円程度の用意があります。

 

「あれ?品川区よりも多い!?」。

 

そうです。品川区では180億円の中から135億円を使っていますが、もし目黒区で行う場合、182億円のうち92億円ほどを投入すれば、計算の上では給付することが可能と言えます(貯金のほぼ半分を放出することにはなりますが)。ただそれでも私は、目黒区での一律現金給付には消極的です。その理由を2つの点からご説明します。

 

(※注3)
中学生以下の人数は、計算を簡単にするため15歳までの人口で計算しています。超ざっくりの試算ということでご容赦願います。また、人口は令和2年5月1日現在です。

 

理由1 目黒と品川の違い

 

「目黒区の方が、財政調整基金が多くて、給付する人口は少ないんだから、むしろ品川区よりもやりやすいはずでしょう?」という意見には一定の説得力があります。でも実はこんなデータが。

(出典)目黒区財政課作成資料『令和2年度上期 財政状況の公表(資料)』

 

表は各区ごとの基金(貯金)の額を示しています。目黒区は濃い黄色、その一つ上が品川区の欄です(といっても見えないと思いますので拡大!)。

 

財政調整基金の欄を見ると、確かに財政調整基金の金額(目黒区16位・品川区17位)も、それを人口で割った一人当たりの基金残高(目黒区11位・品川区20位)も、目黒区の方が上回っています(※注4)

 

しかし、目線をそのまま大きく右へスライドして「合計」の欄を見ると(見えないので拡大!)

 

「財政調整基金」以外の基金をすべて足した金額で見てみると、目黒区は424億円で21位に対して品川区は1,015億円で8位、一人当たりでみても目黒区は16位に対して品川区は8位というように、大きく水をあけられています。

(参考)各区のすべての種類の基金残高を区民の人数で割って比較した図。

また、下の表をご覧ください。これは目黒区と品川区にどういう種類の基金があるか(つまりどういうラベルの貯金箱があるか)を比べたものですが、

 

品川区には災害時に使える「災害復旧基金」という基金が設けられていますが、これは目黒区にはありません。一方、目黒区は老朽化した桜を植え替えるための「サクラ基金」が特徴的ですが、それぞれの基金の金額は品川区のそれに到底及びません。

(一見数字が目黒の方が大きく見えますが、それぞれの表の右上に記載がある通り、数字の単位が違います。目黒区の数字の下3桁を消してみると品川区とそろいます。)

 

このように品川区では、災害が起きた際の財源を別立てでプールできているということも大きいかのではないかと推察します。これが目黒区の場合、今年度中に地震や台風などが発生した場合もこの「財政調整基金」から出さないといけないので、近年の災害の多さからすると今年度中に大きな出費が必要になることも十分考えられますから、あまりに大胆すぎる支出は行いづらいのです。

 

(※注4)
順位は23区中。また、基金の金額は平成30年度末時点ですので、これまでに出た数字と若干相違があります。とはいえ、平成30年時点と現在とで、両区の関係(差)に地殻変動は起きていないと思います。

 

こういったことは関係ありません

 

こうして目黒区と品川区との財政状況を比べていると、ただただ目黒区が苦しいことを思い知らされる(これでも一時期の財政難(いわゆる「目黒ショック」)に比べればずいぶんマシ)わけですが、なかにはこんな誤解も聞きます。

 

「品川区は大企業が多いから法人税がたくさん入っているんでしょう?目黒区は住宅街ばっかりだから仕方ないかもしれないね。」

 

実はこれ、全くもって違うのです。

 

ちょっと本筋とそれてしまいますが、「法人税」と呼ばれるもののなかには、①法人税、②法人住民税、③法人事業税と、3種類の税金が含まれます。実はこれが23区の場合だと、①法人税は国に、②法人住民税と③法人事業税は東京都に収められていますので、いくら区内に大企業があったところで区には一銭の足しにもなっていないのです。

 

(参考)税金をどこに収めるかの一覧

(出典)港区HP『特別区民税・都民税と主な税金の種類』

 

特に、②法人住民税については、一般の市町村の場合には都道府県と市町村の両方に収めることとなっているのですが、東京23区の場合は特別に、区と都との取り決めによって全額が都に収められてしまいます(水道や下水道など本来は区が行うべき業務を東京都がまとめてやっているので分からなくはありませんが…涙)。

ただもちろん、税金を東京都に取られっぱなしではありません。東京都に集約された②法人住民税と③法人事業税その他もろもろの税金はその後、“各区の需要と供給に応じて”23区に振り分けられます。このとき、配分を決める基準には、企業の所在などは入っていないので、企業数の多い少ないで目黒・品川の差が出ているわけではありません。

下のフジテレビ系のニュースでは、大学教授の方が「法人数が多いから品川区ではできる」とおっしゃっていますが、明確に誤りですね。

Yahoo!ニュース「全区民に3~5万円給付」 品川区“太っ腹”都内ざわつく

 

なお、この配分を巡って、お金を自分たちで使いたい東京都と、本来得られるはずだった税金を都に持っていかれてしまった23区の間で、予算を巡る壮絶な闘争が続いていたりするのですが、それは別の話……。

 

理由2 リーマン・ショックから

 

もう一つ、私が目黒区での給付金に消極的な理由は、平成20年に発生したリーマン・ショックを振り返るとどうしても慎重にならざるを得ない、ということがあげられます。

 

まず前提をば。すでに現在のところ、目黒区が「今年中にやろう」と思い描いていたプランの多くが崩壊してしまっていますが、実は一番の財政的な危機は来年以降に迎えます。なぜかと言えば歳入(=収入)の大半を占める住民税(目黒区の場合は収入全体の45%)が区民の前年1年間の所得をもとに算出されるためで、今年の経済活動自粛の影響が税収に反映されてくるのは来年以降になるからなのです。

そうすると、ツケが必ず来年に跳ね返ってくることはほぼ間違いありません。今年大盤振る舞いしすぎてしまうと、今まで当たり前に受けてきた区のサービスでさえ、来年は続けられなくなるということになりかねません(実際にリーマン・ショックの後、サービスの大幅な見直しが行われました)。

 

さらに問題なのは、その影響してくる金額の多さ。リーマン・ショック時を振り返ってみると、平成20年に発生した不況によって、翌平成21年には、目黒区の収入が100億円(区の予算の10%!)減るというとんでもない事態が発生しています。

「なんだ、10%か」と思われるかもしれません。しかし区役所には、区有施設の維持管理費や職員の人件費など、一朝一夕には削れない既定経費が少なくありません(ただし議員報酬は削るべきであること、明確に態度表明させていただきます)。

したがって、この10%の減収は、主に区が創意工夫のもとにやってきた住民サービスの部分にそのまま降り注ぐことになってしまいかねないのです。ましてや今回は、リーマン・ショックを超えるダメージが…という推測もいくつも出ています。来年以降も区として最低限の行政サービスを存続させるには、よくよく今年の出費のバランスを考えねばなりません。

 

そんな区の財政の緊急事態に頼りになるのが何かというと、それがまさに「財政調整基金」(貯金)なのです。リーマン・ショックの時には、区の行うサービスへの影響をできるかぎり少なくするために、財政調整基金(※注5)がフル稼働しました。その結果、基金の残高は5年間で…

平成20年 172億円 → 平成25年 78億円

 

と、94億円も減少(=区の貯金が減少)しています。

(参考)目黒区の、財政調整基金以外も含めたすべての種類の基金の積立額推移です(下段の地方債は区の借金)。丸で囲んだ平成20年度以降の期間に大きく減少しています。

 

そして「今回のコロナ・ショックはどうなのか」ということについても、すでに財政調整基金への影響が出始めています。それはつまり目黒区がこれまで、当初予算(4月)、第一号補正(5月)、第二号補正(6月)と毎月、財政出動を行っており、かつその財源には財政調整基金を多く投入しているということを意味しますが…

これまで減った財政調整基金の額、

なんと55億円!!

(出典)目黒区作成『令和2年度目黒区補正予算(第2号)案 プレス発表資料』

(上の表の見方)表に直接記載はありませんが、今年の4月時点では基金は237億円(208.5億+28.5億)ほどありました。それを、28.5億円だけ取り崩して208.5億円分の貯金を残しておこうと考えていましたが、5月、6月と補正予算を組むためにどんどん取り崩していった結果、累計55億円の支出、残る貯金は182.1億円まで減っています。

 

つまりこういうことです。リーマン・ショック当時、5年間かけて切り崩してきた分の半額を、今回はわずか3か月で食いつぶしてしまっているというのが今の状況なのです。これがどれだけ危機的状況か、また、さらに来年区税収入が減った場合にどういう状況になってしまうか、区役所としては本当に慎重に判断しなければなりません。

 

(※注5)
厳密にいえば、財政調整基金+施設整備基金+減債基金の一部で94億円の減ですが、当時と今とでは制度も変わっているので、ざっくりと、財政調整基金が減ったんだと思っていただいて問題ありません(区長もそう答弁していましたし)。

 

おわりに

 

さて、こうして長々と「できないと考える理由」を書いていて、なんとも嫌味なブログになっているなぁと自覚しているわけですが、一つアピールさせていただきたいのは、「あくまで私は、“区民の方全員に”現金を給付することに対しては、消極的」ということです。なぜなら、今の区の財政状況からすれば、そのような大規模な財政出動をしてしまっては安心して来年を迎えられる余力があるとは言えないから。

 

とはいえ現実として、コロナ禍によって生活に窮しておられる方は大勢いらっしゃるわけで、そうした方々への、一定程度対象を絞った支援策までケチるべきだ、などとは全く思っていません。

むしろ、本当に必要としているそれぞれの方にターゲット絞った支援策を、いろいろな角度から何本も打つべきです(例えば明石市などは本当にそこのバランスがうまいなぁと思います。なお、この点に関しては、以前議場で「私の思い」として演説させていただいております。)。

 

 

そしてまた、区役所としても、ただ守りの姿勢に入っているだけではありません。現に本日、公開された目黒区の新たな補正予算案では、

目黒区HP『令和2年度目黒区補正予算(第2号)案 プレス発表資料』

 

・50%のプレミアム付きの商品券の発行
・学校給食費の7月までの全額免除
・幼稚園、こども園、小・中学校に通う子どもたち全員に図書カード配布
・ひとり親家庭に子ども一人当たり5万円を支給(まさに品川区の行う現金支給を、より対象を絞った形で実施するものと言えます)

 

など、まだまだ全員をカバーすることはできていませんが、さまざまな状況にある区民の皆様にあった形で支援メニューを用意できるよう、日々、検討を続けています。

 

私も、議員として、「今はどういう支援策が必要か」ということを、現場の状況や他自治体の事例なども研究しながら、役所へ提案し続けます。

しもこの記事をお読みいただいている方のなかで、「こういう状況にあって、特に困っているので助けてほしい」といったご要望をお持ちの方がいらっしゃいましたら、私のメール、LINE、Twitter、電話番号はすべてHP上に公開しておりますので、ぜひ、お知らせください。私なりに「何かできないか」とお力添えさせていただきます。

 

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2023年に年間1億PVを突破した国内最大級の政治・選挙ポータルサイト「選挙ドットコム」を運営しています。元地方議員、元選挙プランナー、大手メディアのニュースサイト制作・編集、地方選挙に関する専門紙記者など様々な経験を持つ『選挙好き』な変わった人々が、『選挙をもっとオモシロク』を合言葉に、選挙や政治家に関連するニュース、コラム、インタビューなど、様々なコンテンツを発信していきます。

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