候補者が有権者に自身の政見などを伝えるためのツールとして、選挙管理委員会が発行する選挙公報という文書があります。選挙公報は基本的に与えられたスペースに対して、候補者が自由に記載できます。ですので、何とかして有権者に自身の主張を読んでもらおうなどの意図を持って、普通のものとは毛色の違う特色あるものが出ることがあります。今回は昨年2019年の特色ある選挙公報を紹介します。
選挙公報は公職選挙法で規定されているもので、選挙管理委員会が発行する候補者の氏名、経歴、政見等を掲載した文書です。前述したように選挙公報は候補者が自身の政見等を有権者に伝えるためのツールですが、選挙公報が通常の選挙活動と異なる点として、それなりの金銭や人手を必要とする選挙カーを使っての演説やポスター、ビラと異なり、公的機関である選挙管理委員会が発行して、有権者に配布してくれるという候補者の負担が極めて少ないシステムである事が挙げられます。このため、組織力や資金力の乏しい候補者にとって、選挙公報は有権者に自身の政見等を伝える極めて重要なツールとなっています。
このように候補者にとっても有権者にとっても有用なツールである選挙公報ですが、実は全ての選挙で発行されているわけではありません。公職選挙法では国政選挙(衆議院選、参議院選)と都道府県知事選では、無投票でない限り、選挙公報を発行しなくてはいけないことが規定されていますが、それ以外の選挙では選挙公報の発行は各自治体に任せることになっています。現在、都道府県議会選は全ての都道府県で条例が定められ、選挙公報が発行されることになっています。しかし、例えば愛知県のような人口の多い県でも2016年までは選挙公報を発行する条例がなく、それまでは県議会選で選挙公報が発行されていませんでした。
選挙公報は他の候補者を妨害しようとして嘘のことを記載したり、商品の宣伝など選挙とは関係のない広告宣伝をしたりした場合に罰則が定められていますが、冒頭で述べたように基本的には各候補者が与えられたスペースを自由に使ってよいことになっています。そのため、いかにして有権者に選挙公報を読んでもらえるかという創意工夫をする候補者も散見されます。次節からは2019年の特色ある選挙公報をいくつか取り上げます。
選挙公報を有権者にじっくりと読んでもらい、政見等を知ってもらうためにはどうすればよいでしょうか。この難しい問題に対して、ユニークな形で対応した候補が見られました。
2019年1月27日に投票が行われた京都府の亀岡市議会選に立候補した小松やすゆき氏は、スペースの大部分にクロスワードパズルを掲載し、自身の主張する政策をパズルのキーワードと絡め、有権者にクロスワードパズルを解いてもらうという手法を取りました。
また、2019年4月21日に投票が行われた和歌山市議会選に立候補した山本ただすけ氏もクロスワードパズルを掲載し、キーワードと政策等を絡めていました。
選挙公報の与えられたスペースに自身の政見を全て記載することはまずできません。そのため、候補者によっては自身のウェブページに誘導するように、サイトアドレスを記載するなどする人もいます。また、アドレスなどは入力の必要がありますが、QRコードはスマートフォンなどで読みとれば、すぐその候補者のサイトに行くことができます。ただ、このようなウェブサイトへの誘導も有権者がその候補者のスペースに注目し、サイトを見てみたいという気持ちにさせなくてはいけません。このようなことを目的にしたものなのか、2019年の選挙公報でも有権者に強いインパクトを与えるものが散見されました。
例えば、2019年7月21日に投票が行われた新潟県の妙高市議会選に立候補した堀川よしのり氏は、選挙公報自体は抱負を述べる程度にとどめ、詳しくは自身のfacebookやLINEを見るようにと、一般的にはQRコードを配置しないスペース中心部にQRコードを掲載しています。
また、2019年11月10日に投票が行われた福島県議会選の郡山市選挙区に立候補したたかはし翔氏は、自身の名前と写真以外は「あなたは目撃する。YouTubeで真実を。」という文章と大きなQRコードのみを掲載するというインパクトの強いものとなっています。
極端なものになると、2019年4月21日に投票が行われた高知市議会選に立候補した中島やすはる氏のように、自身の名前と顔写真以外はスペースいっぱいに大きなQRコードを掲載するといったものすらありました。
今回、このように様々な創意工夫をし、有権者に自身の政見をできる限り伝えようとした2019年の特色ある選挙公報を紹介しました。他にもこれは特徴的だ!という公報をご存知の方がいましたらぜひ編集部までご連絡ください。
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