2017年はヨーロッパで選挙が盛りだくさんの年でした。元々、オランダ総選挙、フランス大統領選挙・議会選挙、ドイツ連邦議会選挙が開かれることが決まっており、それだけでも十分に選挙イヤーでした。しかし、それだけでなく、イギリスやオーストリアでも解散(選挙の前倒し)が行われ、重要な選挙が立て続けて行われました。
2017年の上半期の重要選挙を振り返ってみましょう。
2017年最初に世界から注目を集めたのは、3月のオランダ下院選挙でした。
「反イスラム」を掲げる極右政党「自由党」がルッテ氏率いる与党「自由民主党」に勝利し、ヨーロッパにおいて極右政党が躍進するきっかけになるのではないかという懸念から、注目が集まっていました。オランダでは連立政権による既存政治への不満が一定程度高まっていたのに加え、イスラム圏移民の流入によるオランダ文化が脅かされるのではないかという不安が高まっていたため、極右政党「自由党」の躍進が現実味を増していました。
結果は、与党「自由民主党」の勝利で終わり、心配は杞憂に終わりました。ルッテ首相は「イギリスのEU離脱の後、そしてアメリカ大統領選後、オランダがポピュリズムという誤った流れを食い止める夜になった」と勝利宣言しました。一方で、「反イスラム」を掲げる「自由党」も議席を伸ばし、別の反EUを掲げる政党も2議席を獲得するなど、依然として反既成政治の世論は残っており、油断はできません。
また、いずれも過半数の議席を獲得していないため連立交渉をしていましたが、この連立交渉は困難を極めました。結局、連立合意にまでかかった日数は、これまでの戦後最長208日を超えて「220日」かかり、10月10日に4党で連立政権を発足させることとなりました。
5月には2017年最大の政治イベントとも言われるフランス大統領選挙が行われました。
フランスでは、2015年にはパリで、2016年にはニースで移民によるテロが発生するなど治安が問題になっている他、2009年アメリカのリーマンブラザーズ破産による恐慌以来の不況が問題になっていました。そのため、反移民の機運が高まり、反EU反移民を掲げる極右政党「国民戦線」のルペン氏に支持が集まるのではないかという懸念がありました。
もし仮にフランスで極右政権が誕生すれば、その影響はオランダの比ではありません。特にイギリスは、昨年の国民投票以来EUを離脱する路線を堅持しているので、さらにもしフランスがEUを離脱すれば、EUはその存在意義を大きく損なうことになると言われていました。 結果として、新興政党「前進!」(現在の「共和国前進」)党首で、オランド政権で経済担当大臣を務めた親EUのマクロン氏とルペン氏が決選投票に進み、マクロン氏が60%超得票して圧勝しました。
さらに続く国民議会選挙でも、マクロン氏率いる「共和国前進」は577議席中306議席を占める大勝利を果しました。その結果、共和国前進は大統領ポストも議会多数派も握ったことになり、マクロン大統領は立法から外交まで影響力を行使することのできる強い大統領となりました。
現在マクロン大統領はアメリカのトランプ大統領に強く物を言う姿勢など外交で注目されていますが、一方で、内政において不調の経済を立て直すかが問われています。
6月にはイギリスで下院選挙が行われました。メイ首相は、野党がEU離脱に反対しており、そのことが対EUの交渉力を損なっているとして批判し解散理由としましたが、実際には労働党の支持率が低いうちに解散総選挙を行うことで、EU離脱以外の政策においても自身の影響力を強めることが目的であるという見方が強くなっています。
当初は、労働党は「ジェレミー・コ―ビンのイギリスを改革する10の誓い」と称するマニフェストを発表したものの支持には結びつかず、メイ首相率いる与党保守党が大幅に議席を増やす見込みでした。しかし、テロの後、メイ首相自身が内務大臣時代に警察予算を減らしたことなどについて批判され、さらにはメイ首相を「嘘つき」であるとひたすら糾弾する歌がイギリスの音楽チャートで1位になるなど、保守党への批判が高まっていきました。
その結果、メイ首相率いる保守党は、当初の330議席から単独過半数を下回る317議席(全650議席)まで減らしてしまいました。その後、北アイルランドの保守派地域政党、民主統一党(DUP)と閣外協力で合意し、一応過半数を確保しました。しかし、統率力を強化するどころが逆に統率力を落とす結果となり、EU離脱も、国内の様子を伺いながら進めることになりそうです。また、地域紛争を抱える北アイルランドの片方の党派を連立に迎えたことについては、批判も上がっています。
2017年の上半期では当初心配されたような、昨年のイギリスEU離脱やトランプ当選といった世界に衝撃を与えるような選挙結果はなかったと言えるでしょう。
しかし、オランダでは極右政党が第二党に躍進し、フランスでは新興政党が極端な圧勝、イギリスでは紛争を抱える地域政党との閣外協力が締結されるなど、将来に禍根を残すような結果になったのもまた事実です。2018年も海外の政治情勢が大きく動くかもしれません。
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