衆議院選や参議院選といった国政選挙において、大きな政党や組織の後ろ盾の無い人が「無所属」として立候補することはよくあります。しかしながらよく見てみると、こういった立候補者は「小選挙区」と呼ばれる比較的狭い地域から立候補しているケースがほとんどで、「比例区」と言われる広い地域から投票してもらえる制度を使って立候補している人はほぼいません。
これはなぜなのでしょうか? また「比例区」から立候補したい場合はどうすれば、そして、いくらお金を用意すればいいのでしょうか?
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国政選挙において選挙区の供託金は300万円です。一方、比例区の供託金は選挙区の倍の600万円となんと2倍にもなっています(衆議院で選挙区と重複立候補する場合は300万円)。
このような金額の違いが大きな政党や組織の後ろ盾の無い人が「比例区」で立候補せず、「小選挙区」で立候補する理由なのでしょうか?
実は大きい組織の後ろ盾が無く、特に政治家ともつながりのない人が供託金600万円を調達する事ができたとしても、比例区の立候補には大きなハードルがあるのです。公職選挙法第86条の2第1項と第86条の3第1項には衆議院と参議院の比例区に立候補できる条件が規定されています。ここには
候補者となる衆議院名簿登載者の数が当該選挙区における議員の定数の十分の二以上であること。(第86条の2第1項一部抜粋)
当該参議院議員の選挙において候補者(この項の規定による届出をすることにより候補者となる参議院名簿登載者を含む。)を十人以上有すること。(第86条の3第1項3号)
と記されています。つまり、一定以上の候補者を用意しないと比例区に立候補できないのです。
ではもし、あなたが衆議院の比例区に立候補したい場合、何人用意する必要があるでしょうか?
衆議院の比例区は全国で11のブロックに分かれています。
どこでも良いから比例区に立候補したいのであれば、定数の最も少ない四国ブロックが第1候補となります。
この場合、6×2÷10=1.2で最低でも2人立候補者を用意する必要があり、供託金が600万円×2=1,200万円必要になります。
もし、定数が一番多い近畿ブロックから立候補したい場合、29×2÷10=5.8で最低6人立候補する必要があり、供託金が3,600万円必要になります。
さらに全国規模で自分の政策を訴えたいとして、全てのブロックで候補者を擁立する場合は41人も立候補する必要があり、供託金の金額は2億4,600万円という莫大な金額になります。なお、2017年の衆議院選では幸福実現党がこのようにして比例区で41人立候補させて、全てのブロックに候補者を擁立しています。
ただ、全国規模で国政選挙に出たい場合、参議院は選挙区と比例区合わせて10人立候補すればよく、選挙区9人、比例区1人で供託金は300万円×9+600万円×1=3,300万円で済みます(それでも高額ですが)。
衆議院の小選挙区の場合は有効投票数の10%以上獲得すれば、供託金は全額返還されることはよく知られています。一方、比例区の場合にも供託金の返還制度が存在します。比例区の供託金返還は小選挙区よりかなり厳しく、当選者を出すことが条件となっています。この供託金の返還額は具体的には以下の式の範囲で受けられることになっています)。
衆議院の場合:(重複立候補して選挙区で当選した人数)×300万円+(比例区で当選した人数)×2×600万円
参議院の場合:(比例区で当選した人数)×2×600万円
前述したように衆院選で最も立候補のハードルが低い四国ブロックに立候補するためには最低2人擁立する必要があります。この場合、1,200万円の供託金が必要ですが、2人立候補させ、1議席でも獲得できれば、1議席×2×600万円=1,200万円で供託金が全額返還される事になります。なお、当然ですが、2人立候補させて、2議席獲得した場合は2議席×2×600万円=2,400万円となるものの、支払った供託金は1,200万円なので、返還額は1,200万円となります。
比例区の立候補は高いハードルが設定されていますが、もし、あなたに国会議員の友人が複数いれば話は変わってきます。
比例区に立候補する条件を規定した公職選挙法第86条の2第1項と第86条の3第1項には、前述した以外にも「団体に国会議員が5人以上所属している」という条件を満たしていればよいと規定されています。つまり、あなたに国会議員の友人が5人おり、その人たちがあなたの作った政治団体に入ってくれた場合、衆議院、参議院のいずれでも比例区に1人だけで立候補する事ができます。
また、この比例区の立候補条件には「直近の衆議院か参議院の選挙で選挙区あるいは比例区で全国2%以上の得票した団体」というものもあり、自分の政治団体が過去の選挙で健闘をした場合も多数の候補者を用意する必要はなくなります。
このように国会議員が一定数いる団体は有利なシステムになっていますが、有利な点はこれだけではありません。自分の所属団体が前述した「国会議員が5人以上」あるいは「直近の衆議院選か参議院選で全国得票率2%以上」の条件を満たさないと、衆議院の選挙区と比例区での重複立候補ができない上に衆議院の選挙区では政見放送を流すことすらできないことになっています。その他、様々な部分で上記の条件を満たしている団体は有利になっています。
また、この2つの条件は政党助成金がもらえる条件とほぼ一致しており(違いは「得票率2%」を満たしていても、国会議員が最低1人必要)、政界に新規参入しようとする組織・個人に対して、既存組織が極めて有利な条件におかれていることを示しています。
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