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18歳選挙権ボーナスは全国で終了。それでも◯◯は投票率を確実に押し上げる!

2017/2/12

原口和徳

原口和徳

Boy voting on democratic election.

先日の記事では、埼玉県内での首長選挙を事例として、「民主主義の最良の学校」とも言われる地方自治への10代有権者の参加状況を探りました。その結果、地方自治体単独の首長選挙では、10代有権者の4人に1人しか投票に参加をしていない状況にあることが明らかになりました。
【参考】若者の投票離れは深刻。18歳選挙権ボーナスが終わって低投票率に苦しむ選挙

しかし、埼玉県の事例だけでは、全国的な傾向までは分かりません。特に、埼玉県は県知事選挙や県議会議員選挙の投票率が他の都道府県と比べても極めて低いことが知られているだけに、慎重な検討が求められます。
そこで、全国的な傾向を把握するために、都道府県知事選挙を対象に調査してみました。

埼玉県だけではなかった! 若者の投票離れ

18歳選挙権が実現されてから、2016年に都道府県知事選挙は6カ所で行われています。その結果をまとめたものが図表①です。埼玉県内の首長選挙の事例も踏まえて、その特徴を確認してみましょう。

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なお東京都知事選挙は7月31日に執行されましたが、本稿執筆時点(2017年2月6日)で年代別投票状況の調査結果が明らかになっていないため、参考事例としての紹介にとどめています。

さて、埼玉県における事例には、2つの特徴がありました。

特徴1:10代の投票率は全年代の投票率よりも低いものになっている
特徴2:参議院議員選挙と同時に行われた選挙では投票率が高くなる

これらの特徴は、いずれも東京都を除くすべての事例で確認できます。単独で行われた県知事選挙における10代有権者の投票率は、最も高かった新潟県でも32.04%。約3人に1人しか投票に行っていないことが分かります。
全国的に見ても、「民主主義の最良の学校」とも言われる地方自治への若者の参加意識はそれほど高まっていない状況にあることが分かります。

なお、参考事例とした東京都は、全国で唯一、参議院議員選挙における10代有権者の投票率が全年代の投票率を上回りました。今回分析の対象とすることができませんでしたが、東京都知事選挙では他県とは異なる傾向が示されている可能性があることも付言しておきたいと思います。

18歳選挙権によって強調される「20代有権者の投票離れ」

18歳選挙権の導入をきっかけに、より深刻さが強調されることになった課題もあります。それは「20代有権者の投票離れ」です。

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図表②は、今回取り上げた県知事選挙並びに埼玉県内の首長選挙の事例について年代別投票率をまとめたものです。(全年代での集計を行っていない事例は除く)

ほとんどの選挙において、10代有権者よりも20代有権者の投票率が低くなっていることが分かります。また、いずれの事例でも、概ね70代前半を頂点として、年を重ねるごとに投票率が上がっていることが確認できます。

選挙を通してより多くの有権者の政治的選好を明らかにし、政治に反映していくためには、年代の偏りなく、投票が行われていることが重要になります。そのためにも、若い年代への投票参加の働きかけが一層重要なテーマとなっていることが分かります。

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また、10代の有権者においても、留意したいことがあります。図表③は分計可能な事例に対して10代有権者の投票率を18歳と19歳で分計してみたものです。

いずれの事例でも18歳の有権者に対して19歳以上の有権者の投票率が低いこと、参議院選挙と同日選挙となった新座市長選挙を除くと19歳~20代有権者の投票率は20%前後、5人に1人の有権者しか投票に行っていないということが明らかになります。これらのことからも、10代の有権者の中でも、18歳有権者と19歳有権者には異なる対応が求められることが分かります。

若者の政治参加と主権者教育の実施内容

文部科学省が2016年にすべての高校を対象に行った「主権者教育(政治的教養の教育)実施状況調査」において、学校での主権者教育の内容が変化してきていることが明らかにされています。
例えば、「現実の政治的事象についての話し合い活動」の実施状況は2015年度20.9%→2016年度30.3%、「模擬選挙等の実践的な学習活動」は2015年度29.0%→2016年度39.7%へと、それぞれ10%程度高くなっています。

7月に執行された新座市長選挙や富士見市長選挙(共に埼玉県内の自治体)よりも、10月以降に執行された首長選挙の方が18歳と19歳の間の投票率の差が大きくなっています。同じ18歳の有権者でも、選挙の実施時期が遅くなるほど、学校で実践的な主権者教育を受けた者の割合が高くなります。このことからも、学校で行われる実践的な主権者教育の経験の有無が若者の投票参加に影響を及ぼしていることが推察されます。また、先ほど取り上げた19歳の有権者は、「実践的な主権者教育」を経験しているかどうかという点では、18歳よりも20代の有権者と一緒に対応策を考えた方がよいであろうことが想定されます。

今回取り上げた選挙において19歳~20代有権者であった人たちは、今の高校生に比べて実践的な主権者教育を受ける機会が限られていたことが想定されます。これらの世代に対して投票参加を呼び掛けていく上では、「実践的な主権者教育」が10代有権者の投票参加に積極的な影響を及ぼしたであろうことを念頭に取り組んでいくことが求められます。

若者が政治から疎外されたと感じてしまうことがないように、今、できること

総務省は、若者から高齢者まで、常に学び続ける主権者を育てることを目指して「主権者教育のための成人用参加型学習教材」を公開しています。筆者が所属する団体でも、短時間(45分以内)の実践でも、投票参加の意識づけに加え、どの政党や候補者に投票することが自らの意思に適った行動となるのかを考えていくための補助教材を作成しています。

非正規雇用や長時間労働、待機児童など、近い将来、若者たちが就労や結婚、子育てといったライフイベントにおいて直面する可能性のある社会的問題は様々なものがあります。その時、若者たちが「自分たちは、何故これまでに政治を通して社会的問題を解決するという政治参加の重要性を学ぶことができなかったんだ。社会によって政治から疎外されてきたのではないか」と感じてしまうことがないように、若者たちを政治へと取り込んでいく働きかけが求められています。

高校生有権者が当たり前に投票できるようになった次の段階として考えたいこと

今回の調査では、若者の投票離れは全国的な傾向であることが明らかになりました。そして、その傾向は、18歳の有権者よりも19歳以上の有権者にはっきりと表れ、その背景に「実践的な主権者教育」の学習経験の有無が伺われています。

18歳選挙権の導入では、当初は高校生による公職選挙法違反が生じないか、高校生が主体的な判断、投票をできるのかといった点が注目されましたが、様々な主体による活動の結果、高校生有権者が当たり前のように投票できる状況になっています。

若者の投票離れが進む現状から、選挙をより多くの有権者の意識(政治的選好)を政治に反映していくための機会としていくために、高校生などの未来の有権者への主権者意識の育成に加えて、すでに高校を卒業するなどしたかつての18歳も政治に取り込んでいくための取組みを、今後一層充実させていくことが期待されます。

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原口和徳

原口和徳

けんみん会議/埼玉ローカル・マニフェスト推進ネットワーク 1982年埼玉県熊谷市出身。中央大学大学院公共政策研究科修了。早稲田大学マニフェスト研究所 議会改革調査部会スタッフとして、全国の議会改革の動向調査などを経験したのち、現所属にて市民の立場からのマニフェストの活用、主権者教育などの活動を行っている。

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