先日の記事でご紹介しましたが、去る12月12日に、高校生によるマニフェストの進捗評価ならびに市長とのパネルディスカッションが行われました。
18歳投票権の実現に向けては、模擬選挙などの選挙を対象とした取り組みが多く報じられ、注目を集めています。模擬選挙は政治への関心を喚起する有力な機会となりますが、実施できるタイミングが選挙に左右されるなどの課題もあります。そのような中で、本イベントは、選挙ではなく、当選後の活動を踏まえた若者の政治への参画の試みということで、広く注目を集めています。
イベントから日にちが経ってしまいましたが、当日の模様を紹介するとともに、今後の課題について考えてみたいと思います。
一般社団法人川崎青年会議所主催「福田紀彦川崎市長マニフェスト検証会 1年2組福田君の通信簿」では、専門家(自治創造コンソーシアム)は、専門家と若者のコラボレーションによって中身の濃い議論が行われました。
専門家としては、非営利活動法人自治創造コンソーシアムがマニフェスト達成状況の第三者評価を、株式会社PMlabが市長マニフェスト評価を対象としたインターネット調査による川崎市住民意識調査分析報告を行いました。特に、PMlabによる調査は、通常、選挙時にしか使用されていなかったインターネットを用いた政策マーケティングの手法を選挙時以外にも活用した事例として注目されます。評価の情報は多様な主体・観点から行われることで、立体的な理解が可能になります。
今後も様々な技術などを活用しながら多様な評価が各地で行われることが期待されます。
続いて、高校生による評価では、5校10名の生徒が登壇。福田川崎市長と暑い議論を繰り広げました。
今回登壇した高校生は、事前に第三者評価を行った自治創造コンソーシアムと川崎青年会議所のメンバーによる勉強会を経て、当日に臨んでいます。市長と高校生の間で白熱した議論が行われたのですが、その様子を少し見てみましょう。
高校生:市長のマニフェストは具体的な取り組みも書かれており、わかりやすかったです。その中で、私は防災政策について提案します。川崎市には、様々な国から来ている人がいます。発災時に日本語が得意でない人もわかるように、イラストの活用によって文字が読めなくても必要な情報が伝わるような工夫をしたり、防災資料の多言語化などを行ってみてはいかがでしょうか。イメージとしては「東京防災」の川崎市版などを作ってみるのもよいと思います。
市長:市としても「備える。かわさき」を配布し、わかりやすい情報発信に努めている。けれども、どれだけ読んでもらえているのかということについては課題を感じている。
先日、9都県市の集まりで舛添知事と同席した際、東京防災の発行コストについて話を聞いた。東京都が発行した際のコストは、川崎市が負担するには費用がかかりすぎるが、近隣市と共同で発行することでコストを抑えることなどができないかは考えていきたい。
いずれにせよ、災害が生じた際は、市による公助の前に、市民の間での自助や互助の取組みがまず必要になる。そのことをしっかりと伝えていきたい。
マニフェストで「中学校給食をスタートさせ食育に力をいれます。」としたことについては、市が2017年9月までの全中学校での給食導入を決定し、取組みを進めていることを評価したうえで、市長とのやり取りが行われていました。
高校生:市長は、お昼休みの内、食事にあてられる時間がどれだけあるかご存知ですか?
たった15分です。中学校に上がったばかりの子どもには時間が足りないことだってあります。お弁当から給食に代わることで、食事にあてられる時間が減ることも想定されるため、配慮してもらいたいです。
市長:先日、すでに中学校給食を実現している千葉市の取組みを視察してきた。喫食の時間として20分間を確保していたが、女子学生などは「あと5分あればよいのだけど」と言っていたのを聞いている。今のままの時間配分では問題があると思うので、よい方法を考えていきたい。
生徒達は、学校の先生やご家族など、周囲の大人のサポートを得て質問を準備してきたものの、壇上で新たな学びを得ることもありました。
例えば、市長の退職金廃止の取組みを取り上げた生徒に対して、当日コメンテーターを務めた北川早大名誉教授から「退職金を廃止することで、優秀な人が市長を目指すのをやめてしまう、そんなことはないだろうか。退職金を廃止することは、手放しで良い事なのだろうか。どう思いますか?」といった問いかけがなされる場面もありました。突然の問いかけに、生徒はしばし考え込んでしまいましたが、社会には多様な価値観・考え方を持つ人たちがいるなかで合意形成を図っていくことが政治であるといったことの一端を垣間見るきっかけとなったのではないでしょうか。
当日は、まだまだ多くの討論が行われ、数多くの貴重な情報が発信されたのですが、ひとまず今回のイベントの意義をまとめてみたいと思います。
1.生徒たちの学習効果
先述した市長退職金のやりとり以外にも、たとえば学童保育に関する提言について、市長が高校生に事実関係の認識誤りを説明する場面がみられるなど、マニフェストを媒介として市長と高校性が具体的な議論をしている姿が見られました。
マニフェストの検証は、生徒たちが自分たちの暮らすまちについて知り、興味や愛着を持つきっかけとなる可能性があります。
2.ガイドラインの必要性
高校生から、「18歳投票権をきっかけに主権者教育を強化してほしい」との発言があった際、市長から「学校で車座集会を行いたいが、政治的中立性の観点から現状では難しい」旨の発言がありました。日本では政治的中立性を強調するあまり、非政治的な教育が実現されているとの指摘もあります。現実の政治を扱う際、先生方も、政治家をはじめとする大人も、なにより生徒たちが不安や不自由なくふるまえるようなルール・体制づくりが求められることが改めて明らかになりました。
3.若者をゲストから当事者へ
ご紹介してきたように、当日参加した学生たちは、真剣に、そして熱心に市のことを考えていました。当初、「今どきの高校生は」といったスケールで、彼らを見てしまっていた自身の姿勢に気づき、恥じ入るところもありました。そして、そのことに気付くと同時に、はっとすることもありました。
これまで、未来の有権者たちがまちの将来を考える内容を発言した場合、発言の質よりも発言をしてくれた姿勢を重視して、手放しで肯定的な評価のみが行われてしまっていることがなかったでしょうか。もちろん、そのような場面ばかりではありませんが、少なからずそのような場面に出くわしてきたことに思い至りました。未来の有権者といえども、選挙権を得た際には、同じ権利を持つ有権者となります。その際に、ある種の特別扱いをしている限り、彼らはゲストであり、当事者としての感覚を得ることは難しくなってしまうのではないでしょうか。実際、若者の政治参画に熱心な北欧のある国では、若者が具体的な発言力を得るためのトレーニングを積極的に行っている事例もあります。18歳投票権が注目を集める今だからこそ、当事者としての厳しさも学ぶ場面も重要になってきそうです。
ここまで見てきたように、主権者教育は模擬選挙以外の場面でも行うことが可能です。民主主義の社会では、対話が政治の基礎となります。マニフェストを活用した対話は、立場を超えて具体的な議論を促すことが伺われました。
18歳投票権が大きな注目を集める状況だからこそ、これからも主権者意識の醸成に向けた様々な取り組みをみつけ、それらの活動が広まることを願いつつ、発信していきたいと思います。
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