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若者の投票離れは深刻。18歳選挙権ボーナスが終わって低投票率に苦しむ選挙

2016/12/25

原口和徳

原口和徳

70年ぶりの選挙権年齢の引下げとなった今夏の参議院議員選挙では、全国各地で若者の政治参画に向けた取組みが行われました。その結果、参議院議員選挙における10代の投票率は45.45%と、全年代の平均値を10%ほど下回ったものの、20歳~34歳までの各年代よりも高い投票率となっています。
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さて、18歳選挙権は国政選挙だけではなく、参議院議員選挙の公示以降の地方自治体における選挙でも適用されています。「地方自治は民主主義の最良の学校である」とは、イギリスの政治家ブライスによる有名な言葉ですが、実際のところ、新聞やテレビなどであまり取り上げられることのない地方自治体での選挙では、18歳選挙権はどんな様子になっているのでしょうか?

投票したのは4人に1人。埼玉県内の若者投票事情

筆者が活動の拠点を置く埼玉県では、18歳選挙権が実現されてから7つの首長選挙が告示され、そのうち5つの自治体で選挙が行われました。今回はこれらの選挙を対象として、最も身近な存在である基礎自治体(市町村)における若者の投票事情を確認してみます。

【選挙ドットコム様】図表①_埼玉県内の首長選挙と参議院議員選挙の投票率

図表①は5つの首長選挙の結果をまとめたものです。参議院議員選挙の結果と合わせてその特徴を確認してみましょう。

1つ目の特徴は、10代の投票率は全年代の投票率よりも低いものとなっているということです。この点は、参議院議員選挙での年代別投票率と同様の傾向となっています。

2つ目の特徴は、参議院議員選挙と同時に行われた選挙では投票率が高くなっているということです。
市長選挙が単独で行われた場合に投票率が下がるのは、10代に限った現象ではありません。実際、参議院議員選挙とは別日程で行われた3市の市長選挙では、全年代の投票率は30%台半ばとなっています。そして、10代有権者の投票率はさらに下がり、実に4人に1人程度しか投票をしていない状況が明らかになります。

さて、国政選挙と一緒に行われない首長選挙では、なぜ10代の有権者も含めてその投票率が大きく下がってしまうのでしょうか。

そもそも、選挙が盛り上がっていない?

考えられる理由の1つが、何らかの理由により選挙戦が盛り上がらなかったことです。そこで、過去の「選挙の投票率」と選挙戦の激しさを表す指標として「総投票数のうち当選者が獲得した票の割合」をまとめたのが図表2です。

【選挙ドットコム様】図表②_首長選挙の投票率の推移

富士見市(平成20年と平成24年)などのように、接戦であった選挙の方が高い投票率となっている事例もみられますが、それ以上に参議院議員選挙と同時実施となった新座市長選挙や鳩山町長選挙での投票率の高まりが大きなものとなっていることが目に付きます。

また、平成25年に執行された参議院議員選挙と同日選挙となった1市1町も同様に比べてみましたが、やはり参議院議員選挙と同日に行われたかどうかが投票率に与えた影響が大きくなっていることが読み取れます。

低投票率の陰に潜んでいるのは「地域への関心の薄さ」?

埼玉県も含む県内自治体の選挙における投票率が低水準にあることの要因として考えられるのが、「有権者の地域への関心の薄さ」です。

例えば、埼玉県選挙管理委員会による「投票率向上に関する報告書(平成28年5月)」では、県知事選挙や県議会議員選挙の投票率が、国政選挙の投票率や他の都道府県での投票率と比べても極めて低い水準にあることの理由として、埼玉県は転入、転出をする人が多く、埼玉県政や居住地域への愛着度が育まれにくいことが背景にあるのではないかとの見解が示されています。

加えて、時に「埼玉都民」と呼称されることもあるように、昼夜間人口比率(夜間人口100人当たりの昼間人口)が88.6と全国で最も低く、東京のベッドタウンとして、日中に県外で活動している人が多く居住しているという埼玉県の地域特性もあります。

このような状況では、有権者に自身が暮らす地域への関心を育んでもらうことが難しく、国政選挙のついでに投票できるかどうかで投票率に大きな差が生じているといった推測が説得力を増してきます。

三大都市圏をはじめとする都市部への人口集中傾向が指摘されることの多い昨今の状況では、埼玉県と同様の状況が全国各地で生じている可能性もあります。

民主主義を学ぶ若者を増やすためにできることは?

冒頭のブライスの言葉の背景には、私たちは地域における身近な共同の問題には関心を持ちやすく、地方自治を通じて他者と協力して問題を解決する方法や公共的精神を養成することができるという考えがあります。

私たちの暮らしを起点に考えてみると、分析の対象とした市町村は、ごみ収集や、生活道路や街灯の整備、地域のお祭りなど、私たちの暮らしに身近な様々な活動を行っています。この点に着目をして、政治家と若者の話し合いの場を作っていくことで、若者たちが地方自治を民主主義の学校として活用していくことが考えられます。
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地域を変える高校生ロビイスト! 身近な問題解決に若者を巻き込んでみること

筆者がこれまで携わってきた事例では、マニフェストを題材にした市長と高校生を交えたパネルディスカッションにおいてまちの魅力発信の方法を提言した高校生に対して市の担当者の方が次回のシティセールスに関する市の会議への出席をオファーしたり、通学路における防犯灯の不足を訴えた学生に対して、自治会との話し合いの材料にするからと白地図片手に職員の方がヒアリングを行う-。そんな地域の問題解決に向けた若者と政治家や行政担当者の対話の場が生み出されています。

公開討論会を活用した事例もあります。公開討論会を学校で開催することで若者と政治の接点を半ば強制的に作りだしてみることや、質問の素材を学生たちから集め、政治家に提起してみることなどが試みられています。なお、公開討論会の前身となった立会演説会は、昭和58年まで公営で行われていたように、しかるべき配慮をすれば、公開討論会は公平、中立なイベントとして実施できます。

もちろん、若者が政策を提案したとしても他の人の課題解決が優先されることや、若者による提案の未熟さが指摘されることもあります。しかしながら、そのような体験も含めて、他者と協力して問題を解決する技能や公共的精神、なにより自身が暮らす地域とのつながり、関心を育んでいるということが言えるのではないでしょうか。

18歳選挙権をきっかけに、教育関係の方々からこのような活動への協力を得やすくなってきています。まだまだ投票率等の結果には結びついていませんが、若者の意識が自らの暮らす地域にも向けられていくためのきっかけを様々な形で作り出していきたいものです。

地方自治への参加状況も踏まえた主権者教育を

有権者が自らの意思を反映した投票をしていくためには、投票の対象となる候補者や政党を吟味するための能力が必要になってきます。地方自治、特に地方自治体での選挙への参加はそのための格好の学び舎となりますが、埼玉県内の事例では、4人に1人の若者しかその機会を活かしていないことが明らかになりました。

ほかにも、全国で初めて18歳選挙権が適用された福岡県うきは市長選挙(7月3日執行)では、全年代の投票率56.10%に対して、18、19歳の投票率は38.38%にとどまっています。このことからも、埼玉県に限らず若者が地方自治体だけの選挙には関心を持ちにくい状況にあるであろうことが推察されます。

参議院議員選挙の結果だけを見て、若者(特に10代の有権者)の政治参加は十分になされるようになったと受け止めてしまうのではなく、若者の政治的教養を育んでいくような取組みがこれからも各地で行われていくことが期待されます。

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原口和徳

原口和徳

けんみん会議/埼玉ローカル・マニフェスト推進ネットワーク 1982年埼玉県熊谷市出身。中央大学大学院公共政策研究科修了。早稲田大学マニフェスト研究所 議会改革調査部会スタッフとして、全国の議会改革の動向調査などを経験したのち、現所属にて市民の立場からのマニフェストの活用、主権者教育などの活動を行っている。

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