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怖すぎる!本当にあった東京都知事選挙の怖い話…第1話『幽霊が立候補』

2016/12/27

宮澤 暁(Actin)

宮澤 暁(Actin)

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選挙に立候補した人が投票日の前までに死亡するということはかなり珍しいですが、あり得ないことでなく、実際そのような事例は見られます。

では、立候補した人が実はそれ以前に死亡していたというのはどうでしょうか? これは確実にありえないように思われますが、実はそんな事件が過去に起こっていました。
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まさか、死人が立候補?

舞台は1963年の東京都知事選挙です。当時の選挙は告示日を過ぎても、しばらく立候補の届出が可能で、届出最終日の4月2日に「橋本勝」という1人の人物がやってきました。
橋本氏は必要な書類をそろえ、選挙管理委員会の職員に選挙公報の提出を求められると、その場で筆を取り出してさらさらと記入して提出しました。彼の立候補は受理され、候補者一覧に橋本勝の名前が並びました。

選挙管理委員会は規則に従い、立候補資格の審査をすべく、橋本氏の本籍地である大阪市福島区に問い合わせをしましたが、ここで驚くべき回答が返ってきました。その回答とは橋本勝氏は約2ヶ月前の2月17日に病院で死亡しているというもの。

立候補届出をした人物が死んでいたのですから選挙管理委員会は大騒ぎです。「立候補した橋本勝」は一体何者なのか? 選挙管理委員会は戸籍上の親戚や大阪に職員を派遣して調査をしました。

親戚は死亡したと聞いたので、世話をしてくれた人に香典を送ったと話し、都知事選に立候補した橋本勝氏の顔や経歴、家族、選挙公報に書いてある筆跡などから、都知事選に立候補した橋本勝は「親族の知っている橋本勝ではない」と述べました。また、大阪で橋本勝氏の面倒を見ていた民生委員は「戸籍を売ったのではないか」と話し、こちらも別人であると述べました。

一方、立候補をした「橋本勝」にも事情を聞きましたが、自分がその戸籍の橋本勝本人であり、戸籍の記載が間違っていると述べ、これは謀略であるとも主張しました。

この事態に選挙管理委員会は対応に困りました。当然、このようなことは日本で初めてのできことで、法的にも想定されていない事態でした。そして、最終的に選挙管理委員会は投票日の4月17日までに死亡となっている「橋本勝」の戸籍が候補者「橋本勝」のものであることを立証するか、候補者「橋本勝」が死亡となっている「橋本勝」の戸籍とは別の戸籍があることをはっきりさせないと、「橋本勝」への投票は無効になるということを告知しました。しかし、候補者「橋本勝」はいずれも行うことはなく、投票は全て無効となり、得票数0と記録されました。

 

「死人が立候補」の狙いは選挙妨害?

この都知事選は自民党などの保守勢力が支援する現職の東竜太郎氏と社会党や共産党などの革新勢力が支援する阪本勝氏の激しい争いとなっていました。翌年に東京オリンピックを控えていたことや前回の東京都知事選では保守勢力と革新勢力の差が小さかったことから、自民党は特に大きな力を入れていました。

このような環境の中で行われた選挙であったため、阪本氏に対する選挙妨害が相次ぎました。さらには東陣営の買収やポスターに貼る証紙の偽造などの事件も起き、選挙後に自民党の選挙対策本部の事務主任が逮捕されて組織的に選挙違反が行われていたことが発覚するなど、様々な選挙の中でも悪い意味で特筆すべき選挙になりました。

そして、この「橋本勝」の立候補も阪本勝氏に対する妨害の一環であると考えられました。名前の似ている人を立候補させ、誤認させる戦術は選挙妨害でまれに取られる手段です。実際、戸籍上死亡していることが分かった後に社会党は「橋本勝」は「阪本勝」と名前が似ていて、作為的に演出された候補者であるとして当局の措置を求める声明を出しています。

 

 

候補者「橋本勝」は何者だったのか?

選挙終了後、戸籍の「橋本勝」と候補者「橋本勝」は別人であると判断され、立候補した橋本勝氏は選挙違反で逮捕されました。
その罪状は他人の戸籍を使って立候補した事ではなく、居住地の選挙人名簿に登録されている「橋本勝」であると偽って、投票をしようとした詐偽投票の容疑でした。そして、その後の捜査でこの候補者「橋本勝」は『1938年に上京した時点で「橋本勝」を名乗っていた』ことや『1939年からこの時まで横領や選挙違反などで10回起訴され、2回裁判を受けているが、裁判時はいずれも「橋本勝」で通していた』ことなどが判明しました。これらのことから、阪本勝の妨害を目的とした立候補であったとはしても、今回だけのために戸籍を流用した可能性は薄いことが分かりました。

しかし、いくら捜査を続けても最後までこの候補者「橋本勝」が何者であるかが分かりませんでした。結局、この時の裁判も「橋本勝」で通したこの人物は詐偽投票で禁固1年の判決を受けましたが、正体が最後まで分からなかったため、立候補の件については立件することができず、前代未聞の戸籍上死んでいる人が立候補した事件はついに解明されることはなかったのです。

 

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宮澤 暁(Actin)

宮澤 暁(Actin)

1984年東京都出身。個性あふれる候補者が多数出た1999年の東京都知事選に衝撃を受けてインディーズ候補(いわゆる泡沫候補)にはまり、そこから変わった選挙・政治事件に興味を持ち、現在に至る。著書に『ヤバい選挙』(新潮社)。

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