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浮上する年末・年始衆議院解散総選挙

2016/9/16

児玉 克哉

児玉 克哉

2016年末、あるいは2017年始めの衆議院解散総選挙があるかも知れない。断っておくが、私は首相が恣意的に総選挙の時期を決めることが出来る現在の仕組みは問題があると思っている。衆議院は任期を全うすることはほとんどない。1年くらいを過ぎたら、いつ解散総選挙になるかわからない状態になる。政治家は落選したらただの人。とにかく当選することが第一だ。まともに国政のことを考えられなくなるのも当然だ。2~3年ごとに総選挙を繰り返すのは大きなロスだし、選挙のための政策ばかりになってしまう。しかし、現実は衆議院解散は「首相の伝家の宝刀」とされており、極めて政治的に解散総選挙は行われる。まずはこの枠の中で考えるしかない。

安倍首相は今年の参議院選挙前に衆議院を解散して衆参同時選挙を行うつもりであったと思われる。安倍内閣支持率も高く、伊勢志摩サミットの直後となれば、さらに支持がアップすると期待できた。この夏までは消費税増税は2017年春からの実施の予定であった。消費税増税後は景気も悪くなり、これまでの経験からも与党は支持を失う。そして、民進党(民主党)の代表選は9月に予定されているので、「新しい顔」の民進党(民主党)と戦うよりは、「旧来の顔」の民進党(民主党)と戦うほうが戦いやすい。「新しい顔」の民進党代表に期待が集まれば、これまでのような自民の大勝は難しくなる。憲法改正のためにも、自民党・公明党の与党と改憲派とで、3分の2を確保することが必要だ。7月の衆参同時選挙は踏み切れば、衆議院も参議院も自民党は大勝し、改憲派が3分の2以上を確保できる予想があった。

しかし、熊本地震が4月に発生し、大きな被害をもたらした。しかも、その後も余震が頻発し、状況が定まらなかった。衆議院解散に踏み込むことはできなかった。また舛添東京都知事(当時)の一連の問題も騒がれた。自民党が舛添氏を擁立した経緯もあり、安倍自民には決して順風ばかりではなくなった。イギリスのEU離脱決定で、世界経済への不安も生じた。仮に衆参同時選挙となっていたら、自民党が衆議院で大勝していたかは分からない。ぎりぎりの勝利で改憲派で3分の2は難しかったかもしれない。

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私は、これで近々の衆議院解散はなくなったと思った。安倍氏の自民党総裁としての任期は2018年9月までだ。消費税増税は2019年10月まで引き延ばし、影響が当分ない状態にした。衆議院議員の任期は2018年末まであり、それまでに解散すればいい。2018年夏まで解散せずに、それまでの間に憲法改正まで一気に持っていきたいというのが新たなシナリオになったと思われた。早期の解散をすると、の民進党の代表選で決まる「新しい顔」で民進党が善戦したら全てのシナリオが狂うというリスクもある。

政治の世界は一寸先が闇と言われるが、状況が一気に変わっている。民進党の新しい顔に蓮舫氏が選出されたが、この選挙戦の最中に蓮舫氏の二重国籍問題が浮上した。民進党は「つまらない男」から「ユニークな女」への交代で一気に再生を目指す目論みであったが、このシナリオは大きく壊れた。代表辞任や議員辞職を求める声さえある。民主党政権が崩壊してから4年近くが経ち、厳しかった批判もやや和らぎ始めていたが、また波に乗るのは難しくなった。蓮舫氏はこれまでもスキャンダル報道で苦しんできたが、民進党代表となるとさらに注目を浴びる。この二重国籍問題だけでもダメージは大きいが、舛添氏のように次々と批判報道が続く可能性もある。

2年以内に憲法改正を行うのは非常に難しい。強権的に進めて、国民の反発をかったら、国民投票で否決される。安倍首相としては、時間はほしいところだ。現在、自民党総裁の再選を3期、あるいはそれ以上に延ばすルール改定が議論されている。早々の衆議院解散総選挙でまた自民党が大勝するなら、総裁の任期のルール改定も賛同が得られやすくなる。今、解散しておけば、次の解散総選挙は東京オリンピック前か直後でも構わない。オリンピックの高揚したムードの中で総選挙をすればいいのだ。憲法改正までの時間も十分取れることになる。

民進党は新代表を選出したが、大きな方向性が定まったとは言えない。「勢い」で方向性議論を進めて、打ち出すということだったのだろうが、その勢いが弱まった。すぐに総選挙となると、候補者擁立も準備不足だし、野党連合も微妙な状態になっている。代表選では、前原氏と玉木氏は共産党との選挙連携に否定的であった。蓮舫氏も慎重にする態度を示していた。この冬までに方向が明確になるのは難しい。

また日本維新の会も全国展開を目論んでいる。小池知事との連携、つまり小池新党との連携がなされると、かなりの勢力になる可能性がある。しかし、年内・年始の解散総選挙となると、日本維新の会の準備も整わないし、小池新党に関しては形が自体ができていないだろう。小池氏はあくまでも来年6月の都議選を睨んでの展開だ。国政選挙に関しては自民党本部の対応を見ながらの展開となるだろう。まだまだ時間がかかる。

年末・年始の総選挙となれば、野党は準備不足である。この年末には、安倍首相はプーチン大統領との日露首脳会談を山口で持つことが予定されている。北方領土問題での進展もあるかも知れない。オバマ大統領が広島を訪問したことに対して、今年は安倍首相がパール・ハーバーを訪れることも提案されている。オバマ大統領との最後のツーショットやもし可能なら、新大統領予定者との対談などができれば、日米間の関係強化をアピールできるだろう。そうした余韻のもとに年末・年始のいきなりの衆議院解散総選挙は「ありうるシナリオ」になった。これからの蓮舫代表や民進党の支持率なども注目される。

安倍政権は超長期政権となるかもしれない。

※本記事は「児玉克哉-個人 Yahoo!ニュース」の9月16日の記事の転載となります。オリジナル記事をご覧になりたい方はこちらからご確認ください。

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児玉 克哉

児玉 克哉

三重大学副学長・人文学部教授を経て現職。トルコ・サカリヤ大学客員教授、愛知大学国際問題研究所客員研究員。専門は地域社会学、市民社会論、国際社会論、マーケティング調査など。公開討論会を勧めるリンカーン・フォーラム事務局長を務め、開かれた政治文化の形成に努力している。「ヒロシマ・ナガサキプロセス」や「志産志消」などを提案し、行動する研究者として活動をしている。2012年にインドの非暴力国際平和協会より非暴力国際平和賞を受賞。連絡先:kodama2015@hi3.enjoy.ne.jp

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