地方議員選挙に相次ぎ超高齢の候補者が立候補し、話題となっている。宮城県では87歳の現職町議が史上最多となる16回目の当選を果たし、千葉県では91歳の現職市議が落選した。高齢者の奮闘には頭が下がるが、世代交代が進まないことも気がかりだ。
1月24日に投開票された宮城県色麻町議選には当選15回の現職、田中一寿氏(88)が立候補。220票を獲得し、16人中12位で16回目の当選を決めた。全国町村議会議長会などによると、地方議員の最多当選記録。在任期間はなんと通算55年9か月にもなる。
田中氏が初めて当選したのは1959年。今上天皇、皇后両陛下のご成婚やキューバ革命、シンガポールの独立など大きな出来事がたくさんあった年だ。王貞治氏の第1号ホームランや東海道新幹線の起工もこの年だと聞くと、ずいぶん昔のことだなとわかる。
一方、1月31日の千葉県潮来市議選では橋本きくい氏(91)が3期目に挑戦したが、落選した。得票数は244票で、22人中21番目。前回2012年の市議選より得票数を半分以下に減らした。90歳超という年齢も得票結果に影響したのかもしれない。
ちなみに国政では「憲政の神様」ともよばれる尾崎行雄氏が当選25回、在職63年という記録ホルダーだが、最後は1953年のバカヤロー解散で落選、引退を余儀なくされた。落選時の年齢は94歳。さすがの神様も年齢には勝てなかったのである。
地方議員全体を見渡しても、高齢議員は少なくない。総務省の調べによると、全国の政令市議会議員の平均年齢は2011年時点で53歳。一般市は57、町村は61と規模が小さくなるにつれて年齢層が高くなる。町村議では70歳以上が1割超を占める。
平均年齢を8年前と比べると政令市は変わらないものの、一般市では1歳、町村では2歳上がっている。地方ほど世代交代が進まず、議員の高齢化が進んでいることがわかる。
年齢と地方議員としての能力は必ずしも比例しないだろうが、こんな調査もある。
全国町村議会議長会が2013年に行った議員の意識調査によると、住民との意見交換の頻度は若い議員の方が高く、高齢ほど低いという結果が出た。住民からの苦情相談も年齢層が上がるにつれて頻度が下がるという。若手ほど積極的に活動する様がみてとれる。
地方議員の高齢化が進む背景には、2つの理由がある。1つ目は報酬の低さ。国会議員や都道府県議などは高額な報酬が批判されることも多いが、規模の小さな自治体の月額報酬は数万円から十数万円ほど。しかも低額化が進んでおり、議員だけでは生活できないために若い人が立候補しようとしない。
もう1つは政治への関心の低下だ。若い世代ほど自治会などへの参加率が低く、投票率も低下する一方。議員になろうという若者もどんどん減っているのが実態である。自治体によっては明確な争点がなく、「議会は必要なのか」という声も少なくない。
こうした事態を打開しようと、長崎県小値賀町議会は昨年、月額18万円の議員報酬を「50歳以下に限り30万円に引き上げる新しい条例」を可決した。条例が適用されると、50歳以下の議員の報酬は議長の報酬(25万5000円)を超える。
若手議員を増やしたいという前向きな意図は理解できるが、金銭で解決しようという手法には疑問もある。年齢差別という批判もあるだろう。年齢を問わずに報酬を上げるとともに、週末・深夜議会を導入して兼業しやすくしたり、情報発信によって自治や議会の意義を広く住民に発信したりする手法もあったのではないか。
議員は若ければ若いほどいいというものでもない。住民の声を反映させるためには経験、知識の豊かな老人から、行動力やアイデアのある若者まで、老壮青のバランスが取れた年齢構成が理想だろう。もちろん、女性議員も増やさなければならない。
多様な議員を生み出すための、各自治体による「アイデア競争」に期待したい。
写真著作者: Nicolas Alejandro Street Photography
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