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元祖・選挙プランナー曰く「昔の選挙は暗かった!」(小池みきの下から選挙入門 .12)

2015/9/15

小池みき

小池みき

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「なんだあれ。もともとはただの選挙プランナーだろ」

「いるんですよねえ、政治をメシのタネにしてるうっさんくさいヤツが!」
――『CHANGE』第五話「総理休日の大事件」より

木村拓哉主演のTVドラマ、『CHANGE』に出てくるやり取りである。突然総理大臣にさせられた主人公の朝倉(木村拓哉)、その彼を衆議院議員選挙から支えてきた“選挙プランナー”の韮沢(阿部寛)を、総理秘書官たちが揶揄するひとコマだ。ドラマが放映されていた2008年当時、選挙プランナーという職業は、まだ世間的にはほとんど知られていなかった――。

「僕らの仕事も、『CHANGE』でだいぶ知名度が上がったかなと思います。僕が選挙プランナーって名乗り始める前は、『選挙プロ』どころか、『選挙請負業』とか『選挙ゴロ』とか、『選挙ブローカー』って呼ばれていた時代なんですよ。うさんくさい感じですよね。ま、本当に昔の日本の選挙は暗かったのは事実で。ははは」

私の前でそう笑うのは三浦博史氏。選挙プランニングを中心に、様々なPRキャンペーンやコンサルティングを手がけるアスク株式会社の代表。そして、日本における“元祖”選挙プランナーである。

選挙プランナーとは
立候補者が選挙で当選できるよう、様々な戦略・戦術を立てる参謀的存在。こちらの記事もご覧下さい。
選挙界の孔明・選挙プランナー曰く「選挙は毎週行われている」(小池みきの下から選挙入門⑤)

三浦氏は1951年生まれ。銀行員を経て、故・椎名素夫衆議院議員の公設秘書を9年つとめた経験を持つ。そして1989年、38歳の時の、米国国務省招聘後にアスク株式会社を設立。以来、数多くの国政選挙・首長選挙で圧倒的勝率をほこってきたカリスマだ。実は、前述の『CHANGE』でも番組の選挙関連のアドバイザーをつとめている。阿部寛演じる韮沢は「200戦中199勝1敗の敏腕選挙プランナー」だが、彼のタイトルは三浦氏からとったものだ。

私とマツダ参謀長は今回、三浦氏に、選挙の“現場”の話を聞きに来ている。三浦氏の選挙プランナー歴は実に26年。選管事務歴40年の小島さんとはまた違う方面で“現場の後方支援”を知り尽くしている。ちなみにマツダ参謀長の師匠なんだという。つまり上官の師匠なのであり、私は引き続き緊張しまくるしかなかった。

【小池】
「昔の選挙って暗かったんですか?」

私は有権者歴8年、選挙勉強歴は一ヶ月くらいの幼虫的存在である。まあ、「誰それさんに投票してほしい」という電話くらいはちょいちょいもらうこともあったが、昔の選挙がどんな様相だったかなんてまったく知らない。

【三浦氏】
「そうですね。特に地方選挙は、悲壮感があることを是というより美学とする傾向がありましたね。たとえば候補者が選挙事務所で笑っていると、『あんな(油断して)笑っているような奴は落ちる』って、すぐ陰口を叩かれる。戦況が優勢でも、『選挙は水もの。明日はどうなるかわからないのに真剣さが足りない』なんて諌められてしまうわけ。今ではそんなことは少なくなりましたが。昔は見るからにうさんくさい輩もうようよしていたし、とにかく全体的に暗かったね」

【小池】
「うさんくさい輩……」

【三浦】
「さっき『選挙ブローカー』っていう呼び方もあったってことをお話しましたけど、なんでそんなうさんくさい名称があったかというと、一昔前までは実際に票を売りつけにくる輩がいたからなんですよ」

三浦氏は愉快そうに言う。

【三浦氏】
「例えば小池さんが市長選挙に立候補中だとするでしょ。で、情勢調査の結果、どうやら対抗馬の三浦候補に800票くらい負けていると。そういう時に、怪しい輩が訪ねてくるんです。『ここに、度々布団を買ってくれているズブズブの関係の市内の顧客リストがある。最低でも1000票あって、俺が声をかければ8割はカタい。ただしタダじゃちょっとねえ……』とまあ、こういう世界。それで、小池さんが断ると今度は僕のところに来るわけ。『三浦さんが優勢って言うけど、まだ100票200票のリード。このままじゃひっくり返されちゃいますよ。うちの票を買ったら圧勝できますよ』って(笑)。もちろん完全に撲滅されたわけじゃないけど、そういうタカリみたいな輩は、選挙名物みたいに結構いましたね。今はほとんど見かけませんが、松田さん、どうですか?」

【マツダ参謀長】
「僕が選挙に関わるようになって10年目ですけど、タカリが来たのは1回だけですね」

三浦氏の“弟子”筋であるマツダ参謀長が頷く。業界でも最若手の一人であるマツダ参謀長は、デビュー戦である2006年の滋賀県知事選挙において、三浦氏が書いた『最新選挙立候補マニュアル―選挙参謀はいりません』を参考に闘った結果、大金星をあげることができたという。「選挙プランナー」を名乗るにあたって三浦氏に挨拶に行き、そこから2人の師弟関係が始まったそうだ。

【小池】
「へ〜〜、本当にブローカーみたいなのがいたんですね。でもそれってもちろん公職選挙法違反ですよね? バリバリの」

【三浦氏】
「もちろん。でも、8〜90年代まではまだそういう輩がいたし、そういう連中が『自分こそが選挙のプロ中のプロだ』と自称していたんです。しかもその頃の“選挙屋”の間では、『公職選挙法なんか関係ない。そんなモン怖がってたら選挙になんか勝てねえ!』っていう考え方が主流だったんですね。でも僕は秘書時代からずっと、それはおかしいと言い続けてきた。だって政治家は立法府で法律をつくるのが仕事なのに、政治家になるための選挙戦で法律違反しているっておかしいでしょ?だから僕が今も厳守しているモットーのひとつは、『選挙プランナーが入った以上、違反者は一人も出さない!』ということなんです。クリーンに、フェアに戦わないとね」

【小池】
「その、暗いと思っていた選挙の世界に、どうして三浦さんは足を踏み入れたんですか? しかも、『選挙プランナー』なんて新しい名称まで考えて」

そう聞くと、三浦氏はニヤリと笑った。

【三浦氏】
「それは僕が、アメリカの選挙戦を生で見て、“感動”したからです」

選挙で感動!? しかもアメリカ? ハテナ顔になった私に、三浦氏は、二十数年前の思い出を語り始めた。

→次回へ続く

 

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小池みき

小池みき

ラ イター・漫画家。1987年生まれ。郷土史本編集、金融会社勤めなどを経てフリー。書籍制作を中心に、文筆とマンガの両方で活動中。手がけた書籍に『百合 のリアル』(牧村朝子著)、『萌えを立体に!』(ミカタン著)など。著書としては、エッセイコミック『同居人の美少女がレズビアンだった件。』がある。名前の通りのラーメン好き。

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