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邦楽ミュージックビデオを約300分流した夏休みの話【実録】僕がテレビマンだった頃

2026/3/16

夏休みサウンドスペシャル「宮原学のMVツアー」。
テレビ愛知のこの番組の企画者は私だった。
正確にいえば、私とレコード会社のF氏による共作である。

当時、テレビ神奈川に「ミュージックトマトJAPAN」という番組があった。
邦楽アーティストのMV(ミュージックビデオ)だけを流す番組だ。

「これの名古屋版を制作し、放送できないか?」

私は簡潔な企画書を書き、レコード会社のF氏に持ち込んだ。

「邦楽MVをガンガン流す番組を、一緒に作りませんか?」

時は1980年代半ば。
レコード会社はプロモーションビデオを次々に制作していたが、大きな悩みがあった。
「流す場所がない」のだ。

今ならYouTubeがある。
だが当時、MVをまとめて見られる場所は、ほとんど存在しなかった。

F氏は元ミュージシャンで、京都にちなんだ名曲の作曲者でもある。
当時はレコード会社の、一見普通のサラリーマンだったが、私の提案に目を輝かせた。

「いいね、村上君。やろう」

二人で、巨大な放送枠をこじ開ける作戦を練った。

企画の内容はこうだ。

「夏休みサウンドスペシャル」
平日、月曜から金曜までの連日、午後4時から1時間。
5日連続、合計約300分。

夏休み期間中、学生たちがテレビの前にいる時間帯を狙い撃ちにした。
内容はすべて、邦楽のMVで埋め尽くす。

番組MCには、当時人気急上昇中だったロックミュージシャン、宮原学を起用した。

スタジオセットは組まず、サブ(副調整室)を背景に、ベータカムでシンプルに撮影するだけ。
あとはひたすらMVを流す。

制作費は驚くほど安く、レコード会社のプロモーション予算でまかなえる程度だった。

番組のテロップに名前が出る「正式な」プロデューサーやディレクターは別にいた。
彼らは届けられた素材を並べ、番組の形に仕上げる実務を担う。

だが、番組そのもののスキームを作ったのは私とF氏だ。
MVの供給はもちろん、MCの選定もレコード会社側。
実質的な差配は、すべて我々で行った。

私は当時、肩書きは「営業部員」だったが、仕事の中身はプロデューサーそのものだった。
営業だったためテロップに名前は出なかったが、現場を動かしている自負はあった。

いざ番組が始まると、面白い現象が起きた。

ビデオリサーチが出す視聴率の数字は、決して特別に良いわけではなかった。
しかし、社内の若い連中は釘付けになっていた。

夏休みの夕方。
テレビから尾崎豊、渡辺美里、レベッカ、久保田利伸のMVが次々と流れてくる。
当時の中高生にとって、それはたまらなく刺激的な時間だったはずだ。

そして、もう一つ、目に見える反応があった。

ハガキが、文字通り「山のように」届いたのだ。

番組内でアーティストグッズのプレゼント告知をしたところ、応募ハガキが殺到した。

放送の直後、社用車の運転手さんが大きな郵便袋を抱えてやってきた。
彼は、この番組が私の仕掛けであることを知っていた。

「村上さん、大変だよ! これを見てくれ」

差し出された袋の中は、レンガのような厚みのハガキの束だった。

「こんな光景、見たことないよ」

そんな日が、5日間続いた。

だが、社内の評価は微妙だった。

若い社員は面白がっていたが、上層部はあまり関心を示さない。
売り上げの規模が、彼らの評価基準に達していなかったからだ。

「村上はクジラばかり釣りに行こうとする。もっと目の前のハゼを釣れ」

上司には、よくそう小言を言われたものだ。

ところが、期末などで会社の売り上げが目標に届かないとなると、風向きが変わる。

「村上、例の『MVツアー』行けるか?(売ってこられるか?)」

上司からそう声がかかる。
そんな立ち位置だった。

(その後、この番組は特番として何度か放送することができた)

番組の中で最も衝撃的だったのは、やはり尾崎豊のMVだったと思う。

「15の夜」「十七歳の地図」「卒業」……。

尾崎のMVを3本立て続けに特集した日があった。

YouTubeなどない時代、テレビの画面で尾崎の代表作をぶっ続けで見られる。
名古屋中の中高生が、テレビ愛知の画面に釘付けになった瞬間だった。

あの番組を作った経験は、本当に面白かった。

邦楽MVを流す場所がなかった時代に、300分という放送枠を自ら作り出したのだから。

当時の社内では、こんなふうに囁かれていたらしい。

「あれは、どうせ村上の仕業だろう」

……まあ、だいたい当たっている。

あの頃から、自分は「仕掛け人」であり、「オレ流」のスタイルだったのだなと、今になって思う。

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