2026/7/1
現役保育士さんに伺った、東京都の子育て政策の「次の一歩」
2025年9月、東京都では全国に先駆けて、0~2歳児を含む認可保育所等の「第一子からの保育料無償化」が始まりました。国の制度では3~5歳児は無償、0~2歳児は住民税非課税世帯などが対象ですが、東京都は所得制限なく第一子まで対象を拡大しました。東京都は約6万人が新たに無償化の対象になると見込んでおり、子育て世帯の経済的負担軽減と少子化対策を目的とした、全国でも先進的な取組です。
私はこの制度は非常に意義のある政策だと考えています。子どもを持ちたいと思っても保育料が家計の重い負担となり、出産や復職をためらう家庭は少なくありません。現役世代を支えるという意味でも、この方向性は一定程度理解ができるものです。
一方で、制度開始から約1年が経ち、現場では新たな課題も見え始めています。今回はホームページから問い合わせくださった練馬区で働く現役保育士さんにお話を伺い、保育現場で何が起きているのか、東京都が次に取り組むべきことは何なのかを考えました。
まず注目したいのは、保育需要の変化です。練馬区では2026年4月時点で、6年ぶりに21人の待機児童が発生しました。全員が1歳児で、そのうち17人は大泉地域に集中しています。区は背景として、共働き世帯の増加や女性就業率の上昇に加え、第一子保育料無償化による保育需要の増加などを要因の一つとして説明しています。この点については我が党所属の区議会議員も区議会の現場で質問を行なっています。
もちろん、これだけで「無償化が待機児童を増やした」と結論づけることはできません。しかし、利用者が増える政策を実施するのであれば、受け皿となる保育現場へのヒアリングや投資、本当にリソースが割けるのかといった再設計も同時に進める必要があります。
今回お話を伺っていて、保育士さんが何度も口にされていたのは、「現場は本当に大変です」という率直な言葉でした。
保育士不足は以前から課題となっていますが、子どもが増えれば、その分だけ保育士の負担も増えます。東京都の福祉人材への支援策は手厚くなりつつあるものの、保育士の仕事は単純に「子どもの人数」に比例するものではありません。子ども一人ひとりの発達や個性に合わせた保育、保護者との丁寧なコミュニケーション、日々の記録、安全管理、アレルギー対応、発達支援、医療的ケア児への対応など、求められる役割は広がっています。
「子どもが一人増えたら仕事が一人分増える、という話ではない。」
「頑張る人が自分の生活を犠牲にしている。時には人の子のために自分の子どもを泣かせている。」
「辞めていく人を見送る時も、『良かったね』とか『そりゃそうだよね』が増えた。」
そんな言葉がとても印象に残りました。
さらに、近年は保育園に求められる役割そのものも変わっています。家庭環境が多様化し、育児相談や保護者支援の重要性は高まり、今後は「こども誰でも通園制度」への対応も本格化していきます。第一子からの保育料無償化は「保育が必要な家庭」の経済的負担を軽減する制度ですが、こども誰でも通園制度は、就労要件に関わらず子どもを一定時間預けられる仕組みであり、子どもの育ちや家庭の孤立防止を目的としています。制度の目的は異なりますが、どちらも保育現場が支えることになります。
つまり、保育士さんの仕事は「子どもを預かる」ことから、「子どもと家庭を支える」ことへと大きく広がっているのです。
次世代の育成は、誰かの善意や使命感だけで成り立つ仕組みであってはならないと思います。子どもの安全を守るという極めて重要な仕事だからこそ、その責任に見合う環境を整えることもまた、行政の責任です。
保護者の立場から見ても、保育料が無償になればすべて解決するわけではありません。希望する園に入れない、兄弟で別々の園になる、自宅や職場から遠い園しか空いていない。そのような状況では、保護者の負担は依然として大きいままです。
東京都は現在、保育士の処遇改善や人材確保に力を入れています。令和8年度予算でも、保育士等キャリアアップ補助や宿舎借り上げ支援事業、保育サービス推進事業など、多額の予算を計上し、全国でも手厚い支援を続けています。それでもなお現場から「人が足りない」という声が上がるということは、制度の有無だけではなく、その効果を検証しながら改善を重ねる段階に来ているということではないでしょうか。
私は、これから東京都がさらに力を入れるべきなのは、「利用者への支援」と同時に、「保育そのものへの投資」だと考えます。支える人を支える仕組み、とりわけ危険の多い子どもたちを見守る仕事をする保育士さんたちが心に余裕が無くなってしまう状況は、持続可能性が高いシステムであるとは言えません。
保育士の処遇改善や住宅支援の充実、保育補助者の配置、ICTによる事務負担の軽減、専門人材の確保、地域ごとの保育需要を踏まえた定員整備など、「制度をつくること」と「制度を支えること」を両輪で進めていく必要があります。
今回、保育士さんのお話を伺って改めて感じたのは、保育政策は数字だけでは語れないということでした。保育料が無償になったことも、待機児童数も、もちろん重要な指標です。しかし、その数字の向こう側には、毎日子どもたちと向き合う保育士さんがいて、安心して働きたい保護者がいて、一人ひとり異なる成長を続ける子どもたちがいます。
制度には必ず現場があります。そして、現場を支えているのは「人」です。
今回話を聞いた彼女もまた、自分のライフステージに悩む同世代でした。
制度をつくるだけではなく、その制度が現場で本当に機能しているのかを見続けながら、子ども、保護者、そして保育士の皆さんがともに安心して過ごせる東京の実現に向けて、これからも現場の声を都政へ届けていきます。
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ホーム>政党・政治家>山口 花 (ヤマグチ ハナ)>東京都「第一子からの保育料無償化」で見えてきた課題「練馬区の現役保育士さんに聞いた保育現場のリアル」