2026/4/27
私は、4月18日に七飯町で開かれた寅沢風力発電計画の住民向け説明会に参加しました。
会場で地域住民向けのメリットとして繰り返し語られたのは、突き詰めれば2つでした。
ひとつは、固定資産税が地元に入ることです。もうひとつは、地域に雇用が生まれることです。
建設時には工事関係の仕事が発生します。稼働後には保守メンテナンスが必要になります。関連して物流や警備の仕事も生まれるかもしれません。人口減少が進む地域にとって、一定の税収と仕事が落ちること自体は、たしかにプラスの材料です。私も、そのこと自体を否定したいわけではありません。
ただ、説明会から帰る道すがら、頭の中にはいくつかの違和感が残りました。
第一に、「固定資産税が地元に入る」と言われましたが、再生可能エネルギー発電設備には固定資産税の課税標準を軽減する特例があります。しかも、この軽減をどの程度にするかを最終的に決めるのは、国ではなく、設備が所在する市町村です。この点は、後でもう一度立ち戻ります。
第二に、「雇用が生まれる」と言っても、建設期と稼働後では雇用の人数も質もまったく違います。
第三に、そもそもこの事業を進めている「函館寅沢ウインド合同会社」とは何者で、誰のお金で事業が動き、万が一事故や災害が起きたときに、誰がどこまで責任を負うのか、という点です。
そしてもうひとつ、説明会では一切触れられませんでしたが、地域住民にとって本質的に重要なことがあります。この事業のお金の流れの上流には、グリーンローンを出す銀行と、TK(匿名組合)出資を行う投資家がいる可能性が高く、そこには再エネ事業者・銀行・出資者の三者にとって、それぞれ甘い果実があるということです。
誰がリスクを取り、誰が果実を取り、誰が見送るのか――これを整理しないまま、地域だけが「税収」と「雇用」を理由にうなずくのは、明らかにバランスを欠いていると感じます。
この記事では、説明会で語られたメリットの裏側を、会社法・税務・プロジェクトファイナンスを知らない人にもわかるように分解しながら、函館寅沢風力発電事業が地域にとって本当にフェアな事業なのかを考えます。そして最後に、住民として打てるアクションを、相手別に整理します。
まず、公開情報を整理しておきます。
北海道庁の環境影響評価ページによれば、事業名は「(仮称)函館寅沢風力発電事業」、事業者は「函館寅沢ウインド合同会社」、事業の種類は風力発電所、規模は最大47,300kWです。事業実施区域は函館市、関係市町村は函館市と七飯町です。
現在は環境影響評価の方法書段階で、縦覧期間は2026年4月10日〜5月15日、一般意見の提出期限は2026年5月29日です。Invenergy日本法人のウェブサイトでも、函館寅沢ウインド合同会社名義で方法書の公表・縦覧と住民説明会の案内が出されており、4月17日に函館市、4月18日に七飯町で説明会が開かれました。
現時点で公開情報から確認できるのはここまでです。誰がどれだけ出資しているか、どの銀行が融資するか、TK出資が組まれているかは、まだ公表されていません。だからこそ、この後に書く「再エネ事業の典型的なお金の流れ」は、本件にどう適用されるかを地域として確認すべき重要論点になります。
「合同会社」と聞いてピンと来ない方も多いと思います。ここでは会社法の話をできるだけ使わずに、生活感覚に近い言葉で説明します。
会社の形には、よく聞く「株式会社」と、その親戚にあたる「合同会社」があります。合同会社は2006年の会社法改正でできた比較的新しい形で、米国の「LLC(Limited Liability Company)」を参考に作られたため、「日本版LLC」とも呼ばれます。Apple Japan、西友、ユニバーサルミュージック、DMM、Amazon Japanなども、実は合同会社の形をとっています。
合同会社の特徴は3つに集約できます。
1つ目は、有限責任です。出資者の責任は、出資した金額までで止まります。あなたが100万円を出してその会社が1億円の借金を残して倒産しても、追加で1億円を払う義務はありません。失うのは出資した100万円までです。
2つ目は、身軽さです。株式会社のように株主総会を開かなくてよく、決算を新聞や公告で発表する義務もありません。役員人事も内部で機動的に決められます。
そして3つ目――この記事ではここがいちばん重要ですが――「利益の分け方を、出資した金額の比率に縛られず、関係者の合意で自由に決められる」ということです。
これが何を意味するか、丁寧に説明します。
株式会社では、利益の配当は原則として株主の持ち株比率に従います。10%出資した株主は、配当のうち10%を受け取ります。これがルールです。お金を出した量に、利益が比例します。
ところが合同会社では、ここが違います。
「Aさんは10%しか出資していないけれど、利益の60%を受け取る」
「Bさんは70%出資したけれど、利益は20%でよい」
このような配分を、関係者の合意、つまり定款や社員間契約で自由に決めることができます。
これは、合同会社の母法である米国LLCの考え方を引き継いだもので、「人的会社」、つまり「人と人で作る会社」という発想に基づいています。出した金額ではなく、事業への貢献度や、その人が持ち込む価値に応じて利益を分け合えるようにしよう、という制度設計です。
では、こうした「自由な利益配分」は、もともと何のために設計されたのでしょうか。
経済産業省などが当初想定していた典型例のひとつは、大学発ベンチャーです。たとえば、こんなケースを想像してみてください。
大学のある研究室の教員が、画期的な技術の特許を発明しました。この技術は、製品化すれば大きな市場を生み出す可能性があります。けれども、教員自身にはその特許を事業化するための資金もなければ、工場を建てるノウハウもありません。一方、ベンチャーキャピタルや事業会社には、資金もノウハウもありますが、肝心の特許や技術はありません。
このとき、株式会社のルールでお互いに会社を作ろうとすると、どうなるでしょうか。資金を出した投資家側が、出資比率に応じて配当の大部分を受け取ります。発明者である教員は、知的財産という最も重要な貢献をしているのに、資金がないために少数株主にしかなれず、配当もわずかしか受け取れない、ということになりがちです。
これでは、肝心の発明者が事業化に乗り気になりません。
そこで合同会社の出番です。たとえば、投資家が9,000万円を出資し、発明者である教員が技術と特許で「現物出資」または「労務出資」として参画します。お金の比率では投資家が圧倒的に多いものの、定款で「利益の60%は教員に、40%は投資家に分配する」と定めることができます。資産を持たない発明者にこそ、事業の果実が厚く回るように設計できます。
これが合同会社の本来の使い道のひとつです。
ほかにも、たとえば次のような使われ方が想定されていました。クリエイターや脚本家が労務とアイデアで参加し、出資者がお金で参加する映像制作プロジェクト。技術者と投資家が組むITスタートアップ。職人と工房の経営者が組む工芸事業。
「お金は出せないが、価値あるものを持っている人」と「お金は出せるが、それだけでは事業にならない人」を、フェアに組ませるための仕組み――これが、合同会社の制度設計の根っこにある思想です。
ところが現実には、合同会社のこの「利益分配の自由度」は、本来の趣旨とは異なる使われ方も多くされています。
特に再エネや不動産のプロジェクトファイナンスでは、合同会社はSPC(特別目的会社)の器として使われます。投資家・スポンサー・TK出資者の間で、「税務上もっとも有利な配分」「ファンド組成側の取り分が最大化される配分」を合意で設計するための、便利な道具として機能しています。
利益分配の自由度は、本来は「資産を持たない発明者にこそ厚く配る」ための仕組みでしたが、いまや「資金構造の中で誰の取り分を最大化するか」を最適化するための仕組みになっている、と言ってもいいかもしれません。これは違法ではありません。
けれども、制度の本来の趣旨と、現実の使われ方の間には、少なくない距離があります。
ここまでの話を地域住民の立場でまとめると、こうなります。
合同会社は、有限責任の壁を持ち、開示義務が軽く、利益分配を関係者間で自由に設計できる、極めて柔軟な器です。
この柔軟性は、本来は発明者やクリエイターのような「資産を持たない貢献者」を救うために設計された美しいものでした。
けれども、いま再エネ事業で広く使われているのは、その柔軟性の別の側面――「上流の関係者間で果実をどう配るか、もっとも有利に設計するための器」としての機能のほうです。
そして、この器の中で交わされている取り決めの内容は、住民には基本的に見えません。
だからこそ、地域の側は次のように尋ねる権利があります。
この合同会社の中で、利益はどう分配される設計になっていますか。もし合同会社の資産で足りない損害が出たとき、誰が、どんな契約や保険で補ってくれるのですか。
もうひとつ、再エネ事業で必ず出てくるのが「プロジェクトファイナンス」という言葉です。これも生活感覚で説明します。
普通、銀行がお金を貸すときは、借りる人の収入や持っている財産を見て判断します。住宅ローンなら、あなたの年収、勤務先、自宅の担保価値を見ます。会社向けの融資でも、その会社全体の財務を見ます。
ところがプロジェクトファイナンスは、これとは違う発想で組み立てられます。
「この事業から、将来どれくらいお金が入ってくるか。そのお金だけを返済に充てる前提で、貸す」という発想です。
風力発電所であれば、20年間の売電収入を計算し、運営費を引き、銀行への返済に回せる金額を見積もります。その見積もりに基づいて融資します。
ここで重要なのが「ノンリコース」という言葉です。意味は単純で、「この事業がうまくいかなくても、親会社にまでは取り立てに行きません」ということです。
銀行は事業会社、つまり合同会社からのお金の流れだけを当てにし、親会社、たとえばInvenergyなどの財布には原則として手を出しません。親会社も、有限責任の壁の中で、出資した分だけしか失いません。
地域住民が知っておくべきポイントは、合同会社の話と同じです。
事故や災害で合同会社の資産を超える損害が出ても、有限責任の壁とノンリコース融資の壁の両方によって、親会社や銀行に負担は届きにくいということです。
ここから、本記事の核心のひとつに入ります。
再エネ事業の資金の出し手として、近年もっとも目立つのが、地銀・メガバンクによる「グリーンローン」です。
グリーンローンとは、環境省・国際資本市場協会(ICMA)等が示すグリーンローン原則に準拠して、環境課題の解決に資する事業、たとえば再エネ、省エネ、グリーンビルなどの資金を調達するためのローンです。借り手は調達資金の使途を「グリーン」に限定し、借入後も使途実績を報告する義務を負います。
その代わりに、非常に低い金利で融資を受けることができます。
ここで多くの人が見落としていることがあります。グリーンローンは、借り手だけでなく、貸し手である銀行側にとっても極めて美味しい商品であるということです。
理由は3つあります。
1つ目は、サステナブルファイナンス実行額のIRアピール材料になることです。地銀もメガバンクも、いまや自行のサステナビリティレポートで「サステナブルファイナンス実行額○○兆円」「再エネ向け融資○○億円」を主要KPIとして掲げています。グリーンローン1件ごとにプレスリリースを打ち、自行サイトに事例として掲載します。
実際、ENEOSや伊藤忠商事など、借り手側もグリーンローン契約締結を「SDGsへの取組をステークホルダーに認知してもらう機会」と位置づけて発表しており、借り手と貸し手の両方が「我々はESGを実践している」という看板を共有して掲げる構造になっています。
2つ目は、経済合理性も悪くないことです。借り手にとってグリーンローンは通常融資より金利が低くなる傾向がありますが、銀行側から見ると、再エネは長期で安定したキャッシュフローを生む固い融資先です。ノンリコースであっても、20年の売電契約やFIP/PPAが裏付けにある案件は、貸し倒れリスクの読みが立てやすいものです。
「金利は通常より低いが、リスクも低く、ESGの看板も同時に得られる」という、銀行から見て三方良しの商品なのです。
3つ目は、規制と投資家の圧力です。日本の金融庁、海外ではTCFD・ISSB等の枠組みのもと、上場金融機関は気候関連リスクと機会の開示を強く求められています。海外の機関投資家からも、ESGポートフォリオの開示を厳しく問われます。グリーンローン残高は、これらの開示において「我が行は気候変動の機会側にきちんと張っています」と語るための、もっとも分かりやすい数字になります。
つまり銀行は、再エネ事業者に低金利で貸すことを、慈善活動としてではなく、IR・規制対応・収益性の三拍子そろった経営判断として行っています。
グリーンローンが出るのはこの構造のおかげであり、再エネ事業者にとっては「銀行が低金利で貸してくれる」という追い風が、構造的に吹き続けています。
ここから次のような問いが立ち上がります。
もし、グリーンローンを受けた事業が、別の環境破壊、水源・森林・生態系への影響や地域コンフリクトを引き起こしたら、銀行のサステナビリティレポートはどう書かれるのでしょうか。
銀行が「ESG実践」の看板を掲げて低金利で融資した結果、その先で地域住民との合意形成不全が起きていれば、それは銀行のレピュテーションそのものに跳ね返ります。
だからこそ、地域住民が銀行に問いを投げる意味があります。
次に、お金の流れの上流側、つまり再エネ事業者、スポンサー側のメリットを解剖します。
再エネ事業の資金構造は、ざっくり言えば次のような層になっています。一番下に銀行からの融資、ローンがあります。その上にスポンサー自身のエクイティ、つまり出資があります。そしてその間に匿名組合出資、TK出資を挟むケースがあります。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所(AMT)の解説でも、再エネプロジェクトファイナンスの典型的な資金構造として、スポンサー、つまり事業会社がGK(合同会社)に対してTKで資金を入れ、GKが事業を行う形が説明されています。
ここがやや込み入っているので、再エネ事業者の立場で見たときの3つの旨みを順番に説明します。
ここがTK出資のいちばん特殊で、いちばん効く部分です。難しい話ですが、生活感覚で言い換えてみます。
普通の会社は、稼いだ利益にまず法人税を払います。残ったお金を株主に配当として渡します。株主側でもそこに課税されます。これがいわゆる二重課税の問題です。
ところがTK出資の場合、法人税基本通達14-1-3により、営業者であるGK(合同会社)は、TK出資者に対する利益分配額を損金、つまり経費のようなものとして算入できます。
PwCやEYなどの大手会計事務所の解説でも、匿名組合契約に基づき匿名組合員へ分配される利益・損失は、営業者側の損益計算に反映される、つまり営業者側で損金または益金として計上されると説明されています。
何が起きるかというと、こうなります。
GKが100の利益を出したとします。そのうち90をTK出資者に分配すると、GKの帳簿上は「利益100−TK分配90=残り10」だけが課税対象になります。法人税は10の利益に対してしかかかりません。残り90はTK出資者の手元に流れ、TK出資者の側で課税されます。
つまり、GK段階でほぼ法人税が出ない構造を、合法的に作れるのです。これが「パススルー課税と同様の効果」と言われる理由です。
実際、TK出資者は多くの場合、海外法人や繰越欠損金のある法人、課税優遇のあるファンドなどであり、TK出資者の側でも実質的な税負担がほとんど出ないように構造設計されることが多いです。
結果として、事業全体で見たときに、税負担が劇的に圧縮されます。
そして、ここで第2章で説明した合同会社の「利益分配の自由度」が効いてきます。合同会社は、利益をどう分けるかを契約で自由に設計できます。本来は発明者にこそ厚く配るために設計された自由度が、ここでは「税務上もっとも有利な分配」を組むための道具として使われます。
「GKの利益のうち何%をTK出資者に流せば、全体の税負担が最小になるか」を計算して設計する、ということです。
2つ目は、資金構造上のレバレッジです。
再エネ事業に必要な資金が仮に100億円だとします。スポンサーが100億円すべて自己資金で出すなら、自分のリスクは100億円です。ですが、銀行のグリーンローンを70億円受けられれば、自己資金は30億円で済みます。さらに、その30億円のうち25億円をTK出資者に出してもらえれば、スポンサー本体が出すのは5億円で済みます。
スポンサーが5億円のエクイティを出し、利益のかなりの部分を自社に集約できれば、自己資本に対するリターン、つまりIRRは劇的に跳ね上がります。これが「レバレッジを効かせる」ということです。
ここでグリーンローンのありがたさが効いてきます。グリーンローンは通常融資より金利が低い傾向にあります。借入金利が低ければ低いほど、売電収入から金利を引いた残りが大きくなります。借入金利と売電収入の差こそが、スポンサーとTK出資者の取り分になります。低金利のグリーンローンは、スポンサーの利益を膨らませる燃料そのものです。
つまり、グリーンローン、TK出資、合同会社の自由な利益配分の3つを組み合わせると、スポンサーから見れば、自己資金を最小化しつつ、税金を圧縮しつつ、ESGの看板も同時に得られる、極めて効率の良い設計が完成します。
3つ目は、地味に効きますが、決して小さくない話です。
近年、再エネ事業への参画は、それ自体が企業のESG広報の素材になります。事業会社、商社、リース会社、地銀、メガバンクなどが、TK出資や共同出資のかたちで再エネ案件に参画した際、「当社は○○風力発電事業に出資し、年間○○トンのCO2削減に貢献します」といったプレスリリースを打つのは、もはや定番です。
TK出資者にとって、出資自体が広報素材になり、自社のサステナビリティレポートに「再エネ事業○件、合計○MWに参画」と書けます。投資のリターンに加えて、ESGの看板まで手に入るのです。
つまりTK出資者にとっては、金銭的リターン、税務メリット、ESG広報という、三重のごほうびがあります。
スポンサー側もそれを知っているから、TK出資者を集めやすくなります。
ここで、説明会で語られた地域メリットと、いま整理した上流のメリットを、同じ平面に並べてみます。
地域住民が受け取るメリットは、固定資産税、ただし軽減特例の対象であり、評価額は年々下がるものと、雇用、建設期に厚く、稼働後は限定的なものの2つです。
スポンサー、つまり事業者が受け取るメリットは、低金利のグリーンローンによる調達、TK出資との組み合わせによるレバレッジ、合同会社の自由な利益配分を活かした税務圧縮、20年の売電収入、ESGプレスリリースによる広報効果です。
銀行が受け取るメリットは、サステナブルファイナンス実行額のKPI積み上げ、IR・サステナビリティレポートでのアピール、長期で安定した利息収入、規制対応スコアの積み上げです。
TK出資者が受け取るメリットは、税務メリットを享受した実質高利回りの分配、ESG出資としての広報効果、有限責任による下振れの限定です。
それに対して地域住民が引き受けるリスクは、水源かん養保安林への影響、景観変化、低周波音への不安、火災・土砂災害リスク、撤去・廃棄問題、事業譲渡時の責任の不透明性、合同会社の資産を超える損害が起きた場合の補填の不確実性、そして上記のデメリットが20年〜30年単位で続くことです。
並べてみると、構造の非対称性は一目瞭然です。上流側は税・レバレッジ・低金利・広報という多層的なメリットを得る一方で、地域は「税収」と「雇用」という2つだけを受け取り、そのかわりに長期かつ広範のリスクを引き受けます。
ここで思い出していただきたいのは、合同会社という器が本来は「資産を持たない発明者にこそ厚く果実が回るように設計された」ものだった、という第2章の話です。本来なら、ここで「資産を持たない地域住民にこそ厚く果実が回る」設計があってもおかしくありません。
けれども現実には、合同会社の自由度は上流の関係者間で果実を最大化するために使われ、地域には「税収」と「雇用」だけが定型句として手渡されます。
これは違法でも陰謀でもありません。GK-TKスキームも、グリーンローンも、固定資産税の特例も、すべて合法であり、現在の日本の再エネ政策の枠内にあります。
ただ、合法であることと、地域にとってフェアであることは別の問題です。そして、合同会社という器は、本来の趣旨に立ち返れば、もっと違う使い方もできた器です。
ここで、地域メリットの片方である固定資産税の話に立ち戻ります。
固定資産税は、設備が所在する市町村が課税する地方税です。函館市に風車が建てば、その固定資産税は函館市に入ります。これは事実です。
ただし、再エネ発電設備には、固定資産税の課税標準、つまり税額計算のもとになる金額を軽減する特例があります。
資源エネルギー庁の資料によれば、太陽光・風力・中小水力・地熱・バイオマスを対象に、新たに固定資産税が課される最初の3年度分、課税標準を一定割合に軽減する仕組みがあります。
ここで多くの人が見落としがちな、しかしこの記事のなかで一番大事なポイントを書きます。
この軽減率は、国が一律に決めるのではありません。最終的にどの軽減率を採用するかは、設備が所在する市町村の条例で決められます。
これは「わがまち特例」と呼ばれる仕組みで、国は軽減率の幅を示し、その範囲内で各市町村が独自に決定します。風力発電設備も同様です。
つまり、寅沢の風力発電に対する固定資産税をどの程度軽減するか、それとも幅の中で最も軽減を抑えるかは、函館市の議会と行政が決める権限を持っています。
「再エネだから自動的に税金が割り引かれる」のではなく、「函館市が割り引くことを選んでいるから割り引かれる」のです。
地域がリスクを引き受けるのに、自治体がさらに税収を割り引くべきかどうか――これはまさに、住民が議会と行政に問える論点です。しかも固定資産税は、設備の評価額が年々下がっていくため、税収は建設直後をピークに、時間とともに細っていきます。
初期は特例で軽減され、長期では減価で目減りしていくという二重構造になっています。
問うべきなのは、固定資産税が入るかどうかではありません。初期には軽減され長期的には減価していく固定資産税と、地域が引き受けるリスクが、本当に釣り合っているのか。この一点です。
ここまで読むと、「結局、風力発電に反対なのか」と思う人がいるかもしれません。私の考えは違います。
北海道にとって、再エネは必要です。
ラピダスのような次世代半導体工場、大型データセンター、GX産業の立地が進めば、北海道の電力需要は中長期的に増えていきます。
ラピダスについては、4棟がフル稼働すると最大で約60万kWの需要が見込まれるとの試算もあります。北海道電力自身も、半導体・AI関連の需要増加に対応するため、2025〜35年度に2.4兆円規模の投資計画を示しています。
日本経済新聞は、原発の再稼働状況によっては北海道は「ちょっと需要が伸びた瞬間に停電する」水準にあると、専門家コメントを引いて報じています。
最先端の製造業にとって、電力は単なるインフラではありません。事業継続の前提そのものです。
このことは、海外を見ても明らかです。ベトナムでは、電子機器・部品メーカーの集積が進む一方で、2023年に北部で電力不足が発生し、サムスン電子やフォックスコンといった外資系製造業の生産活動に支障が出ました。JETROや日本総研の資料でも、ベトナムが対内直接投資をさらに伸ばすうえでの3つの課題のひとつに「電力不足」が明確に挙げられています。
私自身がベトナムへの出資を検討するなかで痛感したのは、電力は単なるユーティリティではなく、国の製造能力そのものであり、外資の進出意思決定の決定変数になるということでした。
電気が止まる国には、最先端の工場は来ません。
そして同じ論理は、いま北海道に跳ね返ってきています。半導体・データセンターの集積地として北海道が選ばれた最大の理由のひとつは、再エネポテンシャルの高さです。
逆に言えば、再エネが計画通りに整備されなければ、北海道は半導体集積地としての立場を維持できません。
だからこそ、立地や合意形成が雑な再エネは困るのです。
水源や森林への影響を十分に説明しないまま進め、地域と対立し、訴訟や反対運動で長期化し、結果として事業も止まる。
これは、地域にとっても、電力供給にとっても、再エネ業界にとっても最悪の展開です。
再エネを増やす必要があるからこそ、地域に対してフェアな再エネでなければなりません。
風力発電所は、建設して終わりではありません。稼働中の保守管理、事故対応、災害対応、そして事業終了後の撤去まで含めて、数十年単位の責任が発生します。山地や森林に近接する風力発電では、火災、落雷、土砂流出、道路造成による水系への影響など、地域が懸念する論点は多くあります。
このとき住民が確認すべきなのは、次のような点です。
事故時の損害保険はどの範囲までカバーするのか。保険で足りない損害が出た場合に親会社はどこまで責任を負うのか。合同会社の資産を超える責任が発生した場合に誰が補填するのか。撤去費用はどのように積み立てられるのか。事業譲渡や出資者変更があった場合に責任は確実に引き継がれるのか。
ここで大事なのは、「合同会社だから逃げるに違いない」と決めつけることではありません。そうではなく、合同会社という有限責任の器を使う以上、有限責任の外側にある地域リスクを、契約・保険・保証・積立でどう補うのかを明示してほしい、という話です。
再エネ事業者が本当に地域と共生するつもりなら、この説明を避けるべきではありません。
ここまでの議論を踏まえて、住民として打てるアクションを、相手別に整理します。
事業者には、環境影響評価の手続きの中で正式に意見を出せます。方法書の縦覧期間中、つまり2026年4月10日〜5月15日は誰でも閲覧でき、意見提出期間である5月29日までに書面で意見を提出できます。これは法律で保障された手続きで、事業者は意見の概要をのちの環境影響評価準備書に記載する義務を負います。
確認すべき具体的な質問は、以下のようなものです。自然環境への影響等については、他の有志にお願いしたいと考えています。
出資者構成の開示、親会社の事故時・撤去時の責任範囲、TK出資・共同出資・プロジェクトファイナンスの利用予定、融資銀行名、撤去費用の積立スキーム、保険の範囲と親会社保証の有無、事業譲渡時の責任引継ぎ条項などです。
自治体に対しては、3つのレバーがあります。
1つ目は、固定資産税の軽減率を厳格に運用するよう求めることです。再エネ設備への固定資産税の課税標準軽減は、国が幅を示し、市町村が条例で具体率を決める仕組みです。寅沢のような地域リスクの高い案件について、軽減率をどう設定するかは函館市の判断です。地域がリスクを引き受けるのに、税収まで大きく割り引く必要があるのかを、議会と行政に問うことができます。
2つ目は、議会への請願・陳情です。地方自治法は住民の請願権を定めており、住民は誰でも、議員の紹介を得て請願を、紹介なしでも陳情を、議会に提出できます。たとえば「函館寅沢風力発電事業に対する固定資産税の特例軽減率について、わがまち特例の幅の中で最も軽減を抑える条例とすること」「水源かん養保安林近接地での再エネ事業について、市として独自のガイドラインを策定すること」といった内容で、住民連名の請願を出すことが考えられます。
3つ目は、議員を通じた一般質問です。市議会・町議会の議員は、本会議や委員会で行政に対して一般質問を行う権限を持ちます。地域の議員に働きかけ、定例議会で「本事業に対する固定資産税の取り扱い」「水源への影響評価」「事故時の市の対応方針」などについて、行政側に正式な答弁を求めてもらうことができます。議事録に残るので、後の検証材料にもなります。
環境影響評価法および北海道の条例に基づき、知事や市町村長は、事業者の環境影響評価方法書・準備書に対して意見を述べる権限を持っています。住民は、北海道に対しても意見書を提出できますし、北海道は事業者へ意見を出す立場にあります。
経済産業大臣も最終的に環境大臣の意見を踏まえて勧告を行う立場にあり、国レベルでも論点になり得ます。住民意見が「数」と「質」の両方で揃うほど、行政意見の重みは増します。
これが、第4章で論じたとおり、もっとも見落とされがちで、もっとも強力なレバーになります。
風力発電事業は、銀行のプロジェクトファイナンスやグリーンローンなしには成立しません。
そして、ESGとサステナブルファイナンス実行額をKPIとして掲げる金融機関にとって、自行が融資した案件で水源保安林への影響、住民との対話不全、自然環境破壊が顕在化することは、レピュテーションリスクそのものです。
住民や市民団体は、当該事業への融資を検討している、あるいは実行している可能性のある金融機関に対して、公開質問状や要望書を送ることができます。
「貴行のサステナビリティ方針と本事業への融資はどう整合するのか」
「水源・森林・住民合意のリスクをどう評価しているのか」
「事故時・撤去時の責任スキームを融資条件として確認しているか」
「グリーンローンの使途報告において、地域コンフリクトの有無は評価項目に含まれているか」
こうした問いです。
過激な手法は必要ありません。「あなたが掲げているESGの基準を、この案件にも適用してください」と求めるだけです。
最後に、メディアへの情報提供と世論形成も重要です。北海道新聞は、すでに住民説明会の様子を報じています。地域紙、全国紙、ウェブメディア、SNSを通じて、論点を整理して発信し続けることは、上記A〜Dすべてのアクションの効果を増幅させます。
ここまでを一覧で整理すると、次のようになります。
事業者、つまり函館寅沢ウインド合同会社/Invenergyには、環境影響評価の方法書・準備書への意見書提出、説明会での質問、出資構造・責任範囲・撤去費用などの公開要請ができます。
函館市には、固定資産税の特例軽減率を厳格に運用するよう求める意見表明、議員紹介を得た議会への請願、陳情、地域議員を通じた一般質問の依頼ができます。
北海道、つまり知事には、環境影響評価法に基づく住民意見書の提出、知事意見への反映を求める要望ができます。
国、つまり経済産業大臣・環境大臣には、最終的な勧告に向けた意見書の提出ができます。
金融機関、つまり地銀・メガバンクには、ESG・サステナビリティ方針との整合性を問う公開質問状や要望書の送付、グリーンローンの使途妥当性に関する照会、株主総会シーズンにおけるESG関心株主との連携ができます。
メディア・世論には、地域紙・全国紙・ウェブメディア・SNSを通じた論点発信、専門家との連携によるレポート公表ができます。
函館寅沢風力発電事業をめぐって、説明会で語られた地域メリットは、固定資産税と雇用でした。それらは、たしかにゼロではありません。
しかし、固定資産税には再エネ設備に対する課税標準の特例があり、その軽減率を最終的に決めるのは函館市です。
さらに、償却資産として評価額は年々下がります。雇用も、建設期と稼働後では規模も性質も違います。
その一方で、お金の流れの上流に目を向けると、スポンサーは低金利のグリーンローンとTK出資のレバレッジ、合同会社の自由な利益配分を活かした税務圧縮、ESG広報という三重の旨みを取ります。銀行はサステナブルファイナンスのKPIとIRアピールを取り、TK出資者は税務優遇された分配とESG出資の看板を取ります。
これらはすべて合法であり、現代の再エネファイナンスの標準形です。
そして地域に残るのは、水源や森林への影響、景観や生活環境の変化、火災や土砂災害への不安、将来の撤去・廃棄、事業譲渡時の責任の所在、合同会社という有限責任の器を使うことによる責任範囲の見えにくさです。
ここに、明確な利益とリスクの非対称性があります。
合同会社という器は、本来は「資産を持たない大学の特許発明者やクリエイターに、その貢献に見合った果実が回るように」設計された美しい仕組みでした。出した金額ではなく、持ち込んだ価値に応じて利益を分けられます。その柔軟性は、本来は弱い立場の貢献者を守るためのものでした。
ところが現実の再エネファイナンスでは、この柔軟性は上流の関係者間で果実を最大化するための道具として使われています。本来なら「資産を持たない地域住民にこそ厚く果実が回る」設計があってもおかしくないのに、実際には地域には「税収」と「雇用」が定型句として手渡され、上流では税務とレバレッジとESG広報の三重の旨みが分配されます。
現時点で、函館寅沢ウインド合同会社がTK出資を受けるといった情報は開示されていません。しかし、再エネPFではGK-TKが使われることが一般的であり、Invenergyにも過去の国内案件でTK出資を組み合わせた実績があります。ゆえに、本件でも同様の資金調達が採用される可能性は高いと考えられます。
このことを念頭に入れて、住民として求めたいのは、決して「再エネを止めろ」ということではありません。北海道にとって電力は、ラピダスをはじめとする半導体・データセンター集積を支える産業基盤そのものであり、再エネの拡大は地域経済の未来とも直結しています。
第8章で見たとおり、電力は単なるユーティリティではなく、国の製造能力そのものです。電気が止まる国に最先端の工場は来ません。これは、私自身が業務としてベトナムへの出資を検討する過程で痛感した現実でもあります。
だからこそ、ここで求めたいのは、再エネを推進することと、地域にとってフェアであることを両立させてほしい、ということです。
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