2026/7/10
行政視察報告:今治市における「有機農業振興の取組について」
【視察先】今治市(農林水産課)
【調査事項】有機農業への転換支援、地産地消・学校給食との連携、食育と市民農園の取り組み
愛媛県今治市における「有機農業と地産地消」の先進的な施策を視察いたしました。市民運動から始まり、学校給食を基軸とした独自の有機農業推進体制についてご報告いたします。
■ 1. 市民運動から始まった「食と農」の歴史 今治市の有機農業振興は、昭和56年(1981年)の「大型給食センター建設反対運動」から始まりました。「子どもたちに安全な給食を」という保護者や有機農家の声が市長選の争点となり、自校式給食と地元産有機野菜の導入が実現しました。その後「食と農のまちづくり条例」を制定し、市長や議会の体制が変わっても施策が継続される基盤を構築しています。
■ 2. 学校給食を基軸とした地産地消システム 現在、今治市の学校給食における地元産野菜の使用割合は約39.9%、有機野菜の使用割合は2.7%(先進地域である橘地区では有機野菜16.9%)となっています。
・地元食材指定の入札制度:給食の食材調達において「今治市産」を指定した入札を行い、市場価格より高値であっても優先購入することで、生産者の安定した取引先を確保しています。 ・差額補助による給食費の維持:従来使用していた県外産食材との「差額」を市の農林水産課が補助することで、各学校は給食費を値上げすることなく、地元産の有機野菜やジビエ(イノシシ肉等)を導入できています。 ・パン用小麦への転換:給食用のパンに使用する小麦をアメリカ産から地元産に切り替えることで、市内に新たな「パン用小麦の生産マーケット」を創出しました。
■ 3. 食と農を学ぶ「市民農園」と「学校農園」 一般的な市民農園が「レジャーとしての農業体験」を目的とするのに対し、今治市民農園は「農薬や化学肥料を使わずに安全な農作物を作る大変さを体験すること」を目的に掲げており、入園条件として無農薬・無化学肥料栽培を義務付けています。 また、小学校の学校農園でも有機農業体験を実施し、子どもたちが自分たちで栽培・収穫した野菜を給食メニューとして考案し、提供する食育プログラムを展開しています。
■ 4. 有機農家への支援と課題 「オーガニックビレッジ宣言」の下、有機農業の面積拡大と担い手育成を目指しています。
・ハード面の支援:除草作業の効率化を図るため、愛媛県と連携して「ハンマーナイフ」などの機器購入費を補助しています。 ・新規就労者への支援:先進的な有機農家が研修生を受け入れる際の補助と、研修生への生活費補助をセットで行うことで、市外からの移住・就農を後押ししています。 ・課題:市に農業の専門職がいないこと、JAとの有機農業に関する連携が希薄であること、天候不良による収穫量の不安定さ(昨年度は病虫害により給食への供給量が大幅減)などが課題として挙げられました。
■ 5. つくば市への示唆と今後の課題 ・研究機関との連携ポテンシャル:今治市では長野県から講師を招いて技術指導を行っていますが、気候などの地域特性の違いが壁となっています。つくば市には多くの研究機関が集積しており、地域特性に適した栽培技術の開発や、農家の課題をタイムリーに解決できる環境が整っていることは大きな強みです。 ・条例による施策の継続性と部局間連携:今治市では「食と農のまちづくり条例」を制定し、首長が変わっても農業推進が揺るがない体制を構築しています。また、農林水産課と学校給食課が密に連携し、給食という「確実な需要」の供給調整を行っている点は、つくば市の農業振興と食育をさらに前進させる上で大いに参考になります。
【所感・まとめ】 今治市の取り組みは、単なる「農業振興」にとどまらず、学校給食という出口を確実に見据え、行政が買い手として市場を創出している点が最大の強みです。つくば市においても、市内の研究機関が持つ知見を活かしながら、教育や学校給食の現場と連携した「共創型」の農業推進モデルを構築することが、持続可能な食と農の確立に繋がると確信いたしました。
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