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岩谷 しげなり ブログ

神戸市室内管弦楽団補助金打ち切りの件② 議論の土台を整えよう

2026/3/31

◆色んな意見はあるけれど…

「補助金を無くすべきだ!」「いや、守るべきだ!」「様子を見ながら段階的に減らしていくべきだ」——。現在、神戸市室内管弦楽団の補助金打ち切り問題について、さまざまな声が飛び交っています。

 また、「公共オーケストラなのだから、もっと市民還元をすべき」「アニメやゲーム音楽なども取り入れてクラシック音楽の裾野を広げてはどうか」「いやいや、これまで保ってきた芸術性はどうなる」「そもそも神戸市民に受け入れられているのか?」といった意見も聞かれます。

 これらは、神戸市に限らず、日本の文化行政が長い間抱えてきた問いであり、その中身については大いに議論されるべきテーマです。

 しかし、ここ数週間の議会での議論を聞いていて、私の中で日増しに強まっている懸念があります。それは、そもそも「補助金打ち切り」という重大な決断に至るまでの、議論の「土台(前提となる事実やプロセス)」が整っていないという問題です。

 そこを整えない限り、いくらオーケストラのあり方や文化芸術のあり方について中身の議論を交わしても宙に浮いたものになり、これからの神戸の文化行政に大きな禍根を残しかねません。

 本日の特別委員会での審査、そしてこれまでに提示された資料や答弁を掛け合わせると、市と財団の対応に対する疑問は深まるばかりです。皆さんと一緒に、いくつかの「矛盾点」を確認していきたいと思います。

 

◆疑問点1:前提となる「数字(データ)」と楽団の成り立ちを踏まえた比較

 神戸市は、補助金打ち切りの最大の理由として「自治体支援の割合が約7割(69.7%)と、他都市(平均39.5%)に比べて異常に高い」と主張し、議会や市民に説明してきました。

 しかし、直近の2024年度においては、楽団の自律的な努力(外部資金の獲得やチケット完売等)により、市の支援比率は44.1%まで改善しました。また、市が比較対象としている「他都市の平均」の多くは民間由来の楽団であり、神戸市と同じく自治体が設立した公立の「京都市交響楽団」の支援比率は67.8%と、神戸と同水準です。

 「依存度が高い」と評価するのであれば、正しい数字と比較を出してきてから議論すべきです。そして神戸市も補助「率」ではなく「額」を問題にしているのならば、そのことを真正面から言うべきであり、それによって議論の中身もまた変わってきます。

 

◆疑問点2:「大きすぎるハコ」を至上命題とする神戸市

 久元市長は会見で「1,800人の新しい大ホールでいつも500人しか入らないのでは困る」と述べ、市は「大ホールの65%以上を有料客で埋めること」を楽団に求めました。それに対して、財団側は後述する通り、新・中ホール(約700席)をレジデントとする上で、完成するまでの移行期間は、適正規模の「神戸朝日ホール(約500席)」等を活用する改善提案を出しましたが、神戸市は受け入れませんでした。

 そもそも、室内管弦楽団の定期演奏会の来場者は、専門人材を配置した2021年度以降、2019年度比で約1.9倍に増加しています。 中ホール(約900席)から大ホールへ会場を移したのは、より良い音響環境を求めた音楽監督の意向によるものでした。さらに言えば、楽団の適正規模である「約800席の音楽専用ホール」の整備計画を白紙撤回したのは、他ならぬ市の政策判断です。

※このホール問題に関しては、第1弾で詳しく記載しています。

 

神戸市室内管弦楽団の補助金打ち切り件について①(3/18 経済港湾委員会のやり取りから)

https://go2senkyo.com/seijika/186861/posts/1338353

 

 行政の政策変更で当初の予定が変わり、楽団に「大きすぎるハコ」での公演を要求し、「そのハコを埋められないからダメだ」「埋め方は、そっちで考えて」と言ってしまうのは、これまでの経緯を踏まえると大きな違和感があります。神戸市も財団(楽団)と向き合い、あらゆる可能性を排除せずに歩み寄っていく必要があります。

◆疑問点3:短すぎる検討期間と「後出しジャンケン」、そして不透明な判断基準。

 さらに議会答弁や開示された資料からは、財団が出してきた改善提案に対する神戸市の審査基準も、現時点でよく分かりません。

 市は昨年11月5日、財団に対して「全席数の65%以上、将来的には80%以上の集客」などの極めて高い目標を提示し、わずか「1ヶ月後」の12月5日を期限として改善案の提出を求めました。 楽団の存亡に関わる重大な計画を立てるのに、たった1ヶ月という期間は常識的に考えて短すぎます。しかも、この11月の指示書には「どのホールを基準とするか」が一切明記されていませんでした。

 財団側は、新・中ホール(約700席)が完成するまでの移行期間として、適正規模の「神戸朝日ホール(約500席)」等を活用し、段階的に顧客を増やすという理に適った改善案を提出しました。しかし、市はこれを「実現可能性がない」とあっさり却下しました。 その理由が驚くべきもので、議会答弁において「市としては(約1,800席の)新・大ホールの65%(約1,170人)を想定していたから」だと言うのです。指示書に書いてもいない「大ホール基準」という、ある種の「後出しジャンケン」で提案を退けてしまった。

 さらに強い疑問が残るのは、市の「審査手法」です。 現在500人前後の集客であるオーケストラに対し、わずか1ヶ月で「1,170人以上への飛躍的な集客アップを達成できる現実的な策」を出せると、市は本当に考えていたのでしょうか?

 そもそも「室内管弦楽団(チェンバー・オーケストラ)」は、編成規模からして「交響楽団(シンフォニー・オーケストラ)」とは性質が異なり、演奏されるレパートリーも異なります。室内管弦楽団の特性からして、2,000人規模のキャパをレジデント(本拠地)とするのは、世界的に見ても不釣り合いです。神戸市は、大ホールをレジデントとしたい旨をメディアや議会に対して喧伝していますが、『音楽のまち』を標榜する神戸市としては、対外的には良いものではありません。
 もし財団の「新・中ホールをレジデントとする」「会場を適正化して単価も上げる」「資金調達の専門家を理事に招聘する」という提案が「現実的ではない」と言うのであれば、市は一体どのような客観的データや分析手法を用いてその判断を下したのでしょうか?判断の際に、オーケストラ運営の専門家の意見も聞いたのでしょうか?そして、そもそも市自身は「どのような『劇的な』改善案であれば『実現可能』と認めるつもりだった」と想定していたのでしょうか?指示を出すからには、当然、実現可能性を予見していた筈です。

 客観的な分析の形跡が見えないまま、「自分たちが想定していたもの(大ホール基準)と違うからダメだ」と切り捨てるのは、最初から「出来レース」だったのではないかと受け取られても仕方ありません。

 

◆疑問点4:公共オーケストラの役割は定期公演の収入だけなのか?

 市は補助金打ち切りの理由として、「定期公演の客席充足率」や「チケット単価を掛け合わせた入場料収入」が目標に届いていないことばかりを強調しています。しかし、公立オーケストラにとって、定期公演でのチケット販売だけが役割ではありません。

 神戸市室内管弦楽団は、神戸市立の全小学校へのアウトリーチ(訪問演奏)や、特別支援学校、こどもコンサートなど、社会包摂的・教育的な活動も行ってきました。また、財団の提案書や公開資料によれば、楽団側の営業努力により、他都市の公共ホールなどからの「依頼公演」による出演料収入は、コロナ禍前の2019年度と比較して約300%増(2024年度見込み)と飛躍的に伸びています。さらに2026年度からは、文化庁の「学校巡回公演」事業に採択されるなど、確実な収入増の道筋も立てているのです。改善案には、さらに拡充していく旨も記されていました。

 しかし、市はこうした依頼公演による「出演料収入の大幅な増収」や、アウトリーチによる「見えない公共的価値(市民還元)」については、興味関心がないように思います。市民の税金が投入されている公立楽団だからこそ、単純な「定期公演のチケットの売り上げ」だけでなく、こうした地道な市民還元や外部資金(出演料)獲得の努力を総合的に評価する必要もあります。定期公演の収益性という一面的な物差しだけで図るのは、公共の文化事業の本質を見誤っていると言わざるを得ません。

 

◆疑問点5:新ホール計画の「不自然な書き換え」と符合するタイミング

 2024年12月に増補された「新・神戸文化ホール整備基本計画」には、大ホールだけでなく中ホールにも「室内管弦楽団等のレジデント機能を有する」と明確に記載されていました。 しかし、そのわずか1年2ヶ月後の今年2月に公表された「管理運営計画」からは、このレジデント機能に関する記述が何の説明もなくひっそりと削除されていました。まさに市から財団へ「補助金打ち切り・解散の検討」が通知された(1月21日付)直後の出来事です。

 議会では「新ホールの開館と補助金打ち切りは関係ない」と答弁されていますが、計画の書き換えが同時期に行われている事実を見れば、最初から結論ありきで動いていたのではないかと疑念を抱いてしまいます。

 

◆疑問点6:文化振興財団のガバナンスの方も大丈夫なのか?

 他方で、運営母体である神戸市文化振興財団についても、もちろん問題があります。ガバナンスの問題です。

 昨日開催された「外郭団体に対する特別委員会」においては、理事長をはじめとする財団幹部と所管の神戸市の文化スポーツ局の方々が出席されてました。本来、同局が答弁する方が事実関係がよく分かる質問でも、あくまでも同委員会の性質上「財団の審査」ということで、同局は答弁されず、財団の幹部の方々が、色んな思いを抑えながら、神戸市側にも配慮した形で答弁されているのが印象的でした。

 審査で明らかになったのは、神戸市から1月に「解散を含めた抜本的見直し」という重大な通知を受けていながら、財団の執行部は3月27日まで、それを理事会に諮っていませんでした。

 また、市が出してきた誤解があるデータ(補助率約7割等)や、理不尽な審査基準による却下に対しても、財団は徹底的に反論・再交渉する様子が見てえきません。理事長は記者会見や委員会審査において「細かい数字の議論にしたくない」と発言し、市と論理的に議論することを諦めてしまっているかのような印象を受けています。

 楽団は、自ら身を切る改革(給与カット等)を行い、事業単体では黒字を出して努力してきました。

 理事長は、委員会審査で神戸市から補助金打ち切りの通知が来た際、「身が震える思いがした」と率直に語られていました。また記者会見でも「楽団と運命を共にする」とも明言されていたとのことです。立場上難しい部分もおありかと思いますが、是非とも、神戸市と膝を詰めながら議論して頂きたいと個人的には思います。

 

◆神戸市の文化行政のあり方を考える契機に

 文化行政は、目先の採算性だけで判断されるべきものではありません。だからといってこのご時世ですから、無条件に税金をつぎ込み続けるべきだとも思いません。

 しかしながら、文化行政に限らず、改革の前提には、「正しい現状認識」と「透明なプロセス」が不可欠です。

 事実と異なるデータが使われたり、過去の決定がひそかに反故にされたり、財団のガバナンスもよく分からない…このような「崩れた土台」の上で、たった1ヶ月半の検討期間で楽団の存亡を決めてしまうことについては、どのような結論になるにせよ、今後の神戸市の文化行政に大きな禍根を残しかねません。

 「結論ありき」の拙速な判断を一旦立ち止まり、客観的なデータに基づき、専門家を交えた中長期的な視点で、神戸の文化芸術を守り育てるための真の議論を再開すべきです。

 今回の補助金の打ち切り件は、メディアからも大きく注目されているようです。だからこそ、神戸市の文化行政のあり方を、いま一度しっかり考えるべきと契機にすべきです

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著者

岩谷 しげなり

岩谷 しげなり

選挙 神戸市議会議員選挙 (2023/04/09) [当選] 5,021 票
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肩書 神戸市会議員(市議団政調会長)/弁護士
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