2024/9/29
2024年度の9月定例議会には変わった条例案が提出されています。それが「文京区長等の退職手当に関する条例の一部を改正する条例」です。といっても区長は関係なく、都職員を辞して教育長に就任した丹羽恵令奈氏のための改正となります。
内容は条文を読むだけだととても分かりにくいのですが、要は都職員を辞めてそのまま区の特別職公務員(副区長、教育長)に就任した場合、公務員としての勤続期間は都職員時代のものと教育長時代のものを通算して勤続期間とするという規定を作ります。
その上で退職金の規定を変えます。区長、副区長、教育長は任期が終わるごとに退職金が区から支払われます。教育長の任期は3年間なので退職金は600万円台です。
条例ができた場合、任期を終えて都職員に復帰した場合は区は退職金を支払いません。一方で都に戻らずに文京区の特別職を最後に引退した場合は教育長の退職金に加えて都が支払うはずだった退職金も区が肩代わりして支払います。
一見してなんでこんな条例を作るのだろうと疑問に思いますよね。まず勤続期間の通算について考えてみます。一般の公務員が他の自治体に出向して勤務することはありがちです。ですから退職金の根拠となる勤続期間を通算するのは自然でしょう。職員のやり取りはお互い様と考えると、最後に辞めた時点で所属していた組織が退職金をまとめて支払うのもありかもしれません。
ただ特別職の場合は状況がやや異なります。特別職は議会の同意が前提ですし、形の上でも「出向」というわけにはいきません。この場合は都を退職する必要があります。とはいえ実態としては「ひも付き」での転籍もあるようです。口述しますが都はそのための条例をすでに整備済みです。
言われてみればそうか、という感じなのですが、そもそも文京区は他からの出向者が少ない。教育長に都職員を充てると聞いた時も完全に都を退職して文京区に骨をうずめる覚悟だと誰もが思い込んでしまっていました。ところが今回の条例案により、都に戻るという選択肢があるのだということが明らかになったわけです。少なくとも丹羽氏はまだ都から退職金をもらっておらず、都に戻るオプションを残しています。もちろん形式上は都を退職しているのですが、都の規定によると特に審査などはなく再就職できるそうです。
そんなこと後から言うなよというのが率直な気持ちです。そもそも丹羽氏は教育分野の経験は乏しい。専門人材を一時的に受け入れるのならば文京区への縁よりも専門知識・経験を重視して人選してほしいと思ってしまいます。他にもそう感じた議員はいるようで、総務委員会の中では「もし今回の条例案について事前に知っていたら、人事案への態度も変わっていたかもしれない」と述べていた方がいらっしゃいました。
さて、条例案の本筋に戻ります。実は都は、特別区に特別職として再就職した者に対して退職金関係の専用の規定を置いています。「職員の退職手当に関する条例」の14条によると、退職後に間を置かずに区の特別職になった者は、区に勤めた部分も都職員としての勤続年数として通算すると規定しています。あれ、じゃあ区の条例と同じですね。わざわざ区条例をつくるのはなぜ?
東京都の条例ではもう1つ重要なポイントがあります。それは「特別職を特別扱いしない」ということです。都条例では、教育長や副区長が区から退職金をもらった場合、都職員としての退職金から同額を引くという規定になっています。つまり個人が受け取る退職金の総額は増えない。一般職への出向でも特別職への「出向」でも退職金の面では(計算の基となる給与の水準は違うとしても)差がでないようにするという思想です。
そこでやっと区条例の意図がわかってきます。区としては教育長に毎期ごとに退職金を支払っても、教育長が受け取れる退職金の総額は全く増えません。その分都が相殺してしまうからです。どうしても教育長に報いたいと思うなら、退職金全額を区が負担する必要があります。そうなって初めて「期間を通算した退職金」+「教育長としての退職金」を与えることができるわけです。
ネット上でどなたかがこの条例案を「教育長おもてなし条例」と表現していましたが、絶妙なネーミングです。確かに同様の条例を作っている区もありますが、別に作る義務があるわけではありません。他の特別職(副区長)と待遇面で均衡を図るという意図はあるのかなとも思いましたが、担当の総務部総務課からはそのような説明はありませんでした。他自治体との均衡を図る的なことは言っていたのですが、理屈がよくわかりませんでした。
わかりやすいように都職員としての退職金が3000万円、教育長の退職金が600万円として図にまとめます。
【条例なし】
都に戻る戻らないにかかわらず
「600万円(区)」+「3000万円ー600万円(都)」=3000万円
【条例あり】
①都に戻る
「0円(区)」 + 「3000万円(都)」=3000万円
②区で公務員生活を終える
「3600万円(区)」+「0円(都)」=3600万円
条例が成立した場合、教育長が都に戻れば区の負担はゼロになります。半面、区で公務員生活を終えれば大幅に区の負担が増えます。
私としては都が特別職を特別扱いしないという思想で退職金条例を作っている以上、それを踏み越えて区が退職金を肩代わりする必要はないと考えます。本来都が支払う予定のものを区が払うのは有権者の理解を得られるでしょうか。もちろん退職金を支払わなくていい可能性も出てくるわけですが、そのような不確実を生む必要もないだろうと。誰が相手でも現行の規定通り淡々と支出すればいいと思っています。したがってこの条例案には反対いたします。
今回の条例案は当初、条例案の内容があまり知られておらず、区の意図も覆い隠されていた面がありました。徐々にその意図が伝わり始めたことで(私が各方面にプレゼンした自負はありますが)反対者が増えてきた印象です。いわゆる与党系会派の賛成により委員会で可決済みですので本会議場での可決は間違いないところとは思いますが、どれだけ反対者がいるのかには注目したいと思います。ちなみに令和4年11月定例議会では区立住宅条例の廃止条例案に12人の反対がありました。これを超えた場合はさらにさかのぼって珍しい事案になるかもしれません。
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ホーム>政党・政治家>依田 翼 (ヨダ ツバサ)>教育長の退職金を区が肩代わりする「教育長おもてなし条例」には反対します