2026/7/9
兵庫県 川西市議会議員(薬剤師) #長田たくや です。
ARBと呼ばれる血圧降下薬があります。昔の話になりますが、ARBの久方ぶりの新製品として「アジルバ®」というお薬が登場しました。まぁ、そこから処方されまくって、売上トップ10にまで上り詰めるわけです。

実は非常に売れた降圧剤「ブロプレス®」の進化版のような感じです(同じ製薬会社ですし)。
今日は、その差異と「本当に必要な医療とは?」を考えていただけるような内容にしました。
■ 構造式の比較
これは他のサイトでもよく書かれていることですが、構造式が非常によく似ています。
【構造の違い】

すごいそっくりですよね。
【降圧作用の違い】
アジルサルタンの方が強力であるとのデータがあります。

【規格の違い】
一方、成分量の規格は大きく違います。
■ブロプレス®(カンデサルタン)
2mg:14.7円/錠
4mg:18.1円/錠
8mg:27.0円/錠
12mg:31.9円/錠
■アジルバ®(アジルサルタン)
10mg:42.2円/錠
20mg:67.2円/錠
40mg:96.5円/錠
■ 違和感
・違和感1:なぜ等倍じゃない?
医薬品規格というものは、たいてい等倍されているものです。
したがって、ブロプレスならば、2→4→8→16がセオリーなのですが、最後だけ12mgとなっています。
当時メーカーに確認したところ、16mgまで増やしても追加の降圧効果が大きくなく、12mgで「頭打ち」に近いと判断された、という説明でした。
つまり、12mgで降圧効果がほぼ限界だったということです。
・違和感2:なぜ用量がここまで違う?
構造の違いが効いています。テトラゾール環のあるブロプレスは、非常に吸収が悪い。一方、オキサジアゾロン環のあるアジルバは吸収性がアップしています。
じゃあ、吸収率が悪いのに、なんでブロプレスの方が用量が小さいのか。
それは吸収率を上げるために、シレキセチルを結合させた、いわゆるプロドラッグです。

簡単に言えば、ロケットに追加ブースターを設置したということです。
一方、アジルバは、単独で宇宙まで飛べるような構造だったのですね。
ブースターをつけても吸収率はなお、ブロプレスが低いです。
ただ、両剤とも用量が小さくても受容体への結合力は強力なものでした。
なお、効果としては、審査資料によると
アジルバ10mg vs カンデサルタン(8mg→12mg)が同程度の降圧作用だったとのこと。
したがって、アジルバ20、40mg規格は相当の強さですね。
構造一つ変わるだけで、全然違ってくるのが薬の不思議なところです。
余談ですが、アメリカだとアジルバもブロプレスと同じようにブースターを付けた薬剤があるそうな。
・違和感3:結局、効くの?効かんの?
臨床試験でのデータは次のとおりです。
参照:医療用医薬品 : アジルバ

ブロプレスが12mgで頭打ちをしたことを考えると、アジルバは突き抜けてはいます。逆に、20㎎、40㎎規格がなければ新薬開発の意味をなさないことになりますよね。推測ではありますが、新薬としての差異を示すためにかなりの高用量に設定したものと考えられます。
用量反応も20mgから40mgへの増加に比べて、効果はやや鈍化しています。おそらく60~80mgを投与してもそこまでは効果がでなかったのだろうと考えられます。
■ 真のエンドポイントを見失うな
血圧を下げる目的は、心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)を起こさないようにするためです。
2021年のLancetのメタ解析では、収縮期血圧を5mmHg下げるごとに、主要な心血管イベントのリスクが約10%低下すると報告されました。これは心血管疾患の既往歴やベースライン血圧の違いにかかわらず見られた、とのこと。
参照:さまざまな血圧レベルにおける心血管疾患の一次および二次予防のための薬理学的血圧降下
これ、相対リスクというものです。
5mmHg下げた群とそうでない群で、心血管イベントが起こった人数同士を比較した時に、10%差があったというだけです。
絶対リスクはもっと小さくなります。たとえば心血管イベント自体のリスクが5%と仮定すれば、10%の相対リスク低下は、絶対リスクでは0.5%低下にすぎません(図を見た方がわかりやすいかも)。

そう考えてみると、躍起になって血圧の数字を下げるよりも、食の質や生活習慣などをしっかりチェックして、薬を服用するにしても安価でゆるい薬で十分ではないかと私は思います。数値を下げることが目的化してしまってはいけないと思います。
2025年の国内医薬品売上ランキングを見ると、アジルバはジェネリックの登場もあり、前年比で大きく売上を落としています。一方で、エンレスト®は売上を大きく伸ばし、上位に入っています。
アジルバの2025年の売上高を見ますと、ジェネリックが登場したこともあってか、40%近く前年度に比べて売り上げが低下して、一気にランク外になっています。代わりに、心不全治療薬であり高血圧症にも使われるエンレスト®が、一気に売上を伸ばしています。これもおもしろい薬ではあるので、また書こうかな。
こうして見ると、数mmHgの降圧差を根拠に、新薬が広く処方されていく構造が見えてきますね。もちろん、難治性高血圧や既存薬で十分に管理できない患者さんには意味があるでしょう。しかし、加齢に伴う一般的な高血圧にまで高価な新薬が広がっていくなら、それは社会保障費の観点からも冷静に検証すべきです。
OTC類似薬の保険割合を減らすとか、そんな枝葉のような改革よりも重要でしょ?
つまり「医療の適正化」というものです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
素敵な一日でありますように。
ご意見・ご感想はこちらまで↓
takuya_nagata_1026@yahoo.co.jp
•━━━━━━• ∙ʚ🐤ɞ∙ •━━━━━━•
各種SNSもフォローをよろしくお願いします。
エックス(旧ツイッター)
Facebook
インスタグラム
LINEオープンチャット(ニックネームで参加可能)
•━━━━━━• ∙ʚ🐤ɞ∙ •━━━━━━•
この記事をシェアする
ホーム>政党・政治家>長田 たくや (ナガタ タクヤ)>【くすり】 降圧剤市場に見る『数mmHg』の価値 【アジルバとブロプレス】