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免許のない教育者たち・青春編 高松くんの初めてのヨーロッパ旅行 第12話 クラコフ

2023/10/30

免許のない教育者たち・青春編

高松くんの初めてのヨーロッパ旅行 第12話 クラコフ

1988年9月・ポーランド共和国クラコフ

僕はたまたまついて行ったお婆さんの民泊で、ウィーンのYHで同宿だった女の子と再会した。彼女はまあまあ上手な英語とドイツ語を話す。

「あら…日本人の…カツミだったわね!」

「うん。リナも、いい旅してる?」

「ええ。…でも、びっくりだわ!どこから来たの?」

「今日?僕はブダペストから夜行で今着いたばっかりだよ!」

「私は昨日ブダペストから。みんな同じコースなのね!」

彼女はこのあいだウィーンで僕に800シリングたかったルシイとは別人だ。実は、フランスでは結構「19歳問題」というべき、大学1年生でクビになる学生が社会問題化していることをこの時聞いた。

フランスは「グランセコール」という、パリ・ソルボンヌ大学のように国内に幾つかしかない超難関大学以外は高校卒業資格に合格して、大学に願書を出せば全員入学できる。医学部でも法学部でもだ。

しかし、法学部は5%、医学部で10%程度の学生のみが2年生に進級できる。

そう言ったわけで、大学1年を終えてクビになった若者がかなりの数発生してしまう。夏のヨーロッパに自転車やヒッチハイクで旅している若者のうち多くがこういう問題を抱えているようだ。そして彼らの多くが「高校卒業してまだ大学には進学しない」という言い方をするので、案外ヨーロッパの外の日本人にはわからない。

リナは、元々が優秀でパリのソルボンヌだ。そして、無事2年に進級したらしい。

「カツミは今日は市内に行くの?」リナは聞いてきた。東洋人に興味があるようだ。

「…うん。とりあえず少し市内を散策したいかな。」僕はカラ元気を振り絞って答えた。

「あら、じゃあ少し一緒に出ない?」

…僕は少し寝たかったが、お誘いを受けて断ると、ここヨーロッパでは色々問題が多いようなので、頑張ることにした。アリナミンVかリゲインでも一発決めたいところだ。

僕らは街に出た。ほぼ徹夜明けの太陽が眩しい。

ちょっとくたびれた感のある歴史的美観地区を歩きながらリナと突っ込んだ話しをし始めた。

「カツミは大学では何を勉強してるの?」

「僕はまだ決まってないんだよ。一応サイエンスを中心とした学部に進学する…うーん…えーと…総合的な学部にいるんだけど、後1年で行き先が決まるんだよ。希望は薬学部なんだけどうまく行くかどうかはまだわからないよ。」

「日本は変わったシステムなのね。」

「いや、日本は、というより、日本だと3つくらいの国立大学しかこのシステムじゃないよ。フランスと同じように初めから薬学部とか医学部とか決まってるよ。…リナは?」

「私?社会心理学よ。」

僕はこういう人文系の学部の人との接点があまりなかったので聞いてみた。

「どういうことを主に勉強するの?」

「…そうね。フロイトみたいな基本的なことからやるから、とりあえずドイツ語は勉強したの。それから、行動学とか。まだ1年だから知らないことも多いわ。でも興味深いわよ。」

僕は、フロイトくらいの名前は知っていたが、内容となるとさっぱりだ。そして、フロイトだからドイツ語というのもなかなか話がつながらない。まあフロイトはオーストリアのウィーン大学出身なのでドイツ語の文献だらけだから、確かにドイツ語しらないとダメ…ということは後で教えてもらった。

僕らは1件の安いレストランに入った。少し昼食に早いとは思ったが12時半なのに混んでいないので食べられる時に食べないとまた大行列だ。

ここは「スタローバヤ」というカテゴリーらしく、簡単に言えば街中にある大学の食堂のようなものだ。威圧してくる食堂の種別おばちゃんの前をトレーを持って欲しいものを取ったり注文したりして、最後にお金を支払う。僕はロールキャベツの中身だけ煮つけた風態の肉の塊と「ボルシュ」というスープをとった。ボルシュは多分ボルシチだと思う。ボルシチはホテルの朝食ビュッフェで1回しか食べてないが、相同性100%だ。

リナも何か肉の塊を取ってきている。

「さて、食べましょう。…思ったより美味しいわね。」

僕も食べてみたが見た目ほど劣悪な味でもない。

「うん。美味しいね。黒パンも僕は慣れたよ。」

「え?あんなもの好きなの?」

「…いや、好きというわけではないよ。嫌いの反対。好きではない、だよ。」

「そうなのね。私は明らかに嫌いの枠内だわ。」

「そういえばリナ、ここにはいつまでいるの?」

「明後日の列車まであと3日かな。切符が取れなくてね。」

「ああ、僕も買えなかったよ」

「めぼしいものは大体見たし、毎日スタローバヤも嫌だわ!」

「…そうだよね。僕は96時間通過ビザだから明日オフィシエンチムに行って、そのままカトウィッツに行こうかと思ってるよ」

「…じゃあ、明日一緒に行かない?私はクラコフに戻るけど。大学の先生たちが、『時代考証』だけでなく『社会学的にも』興味深いからぜひ行くように言われていたの。でも、駅から遠いからどうしようって思ってたから。どう?」

僕はリナとアウシュビッツに行くことになった。

その日、僕らは夜遅くまで出歩いて、ヨーロッパで初めて酒を飲んだ。

リナは平気だったようだが、僕は40度の酒で後の記憶が朦朧としている。

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