2023/9/4
続・免許のない教育者たち2023 第71話 勉強だ!(1)知恵を絞ってお家を作ろう!
登場人物:
高松克己(かつての塾講師理科主任→大学教員兼会社社長)
高松菜々子(高松の歳の離れた妻)
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続・免許のない教育者たち2023 第71話 勉強だ!(1)知恵を絞ってお家を作ろう!
令和4年(2022)9月。
秋になった。まだまだ暑いからそんな感じもしないが、うちの近くの農家が「なし」を販売し出すと秋を感じる。そんな秋の入り口の火曜日の午後。火曜日がお休みの菜々子に迎えにきてもらって帰宅した昼下がりの自宅で、菜々子が仕事をしている僕の部屋にやってきた。
「かっちゃん、今、うちの家賃全部でいくらかかってる?」
菜々子が突然言い出した。
「ん?この自宅と、駐車場と、事務所と、コンテナハウスと、福岡の家と…全部で月に35万円くらいじゃないの?」
「…もったいないと思わない?」
「まあ、そうなんだけど…仕方ないよね。」
「それなら!自宅兼事務所を買うべきじゃない?」
「…あー待て待て。高すぎだろ。そっちの方が予算オーバーだよ。」
僕がびっくりして答えると、菜々子は大量の不動産情報をプリントアウトして出してきた。
「ばばん!案外安いのたくさんあるんだよ!」
そう言われてみると、広いけど安い土地が結構ある。特に、東京都の外に行くと、かつて東京まで通勤していた団塊世代のマイホームとして供給された土地や、供給しようとして宅地造成された土地がバブル崩壊で大量に放棄された放棄分譲地がかなりある。
我々夫婦は、この時はまだ車1台を工夫して使い回していたが、この後すぐプリウスの新車を購入するつもりだった。だから「一人一台の車」体制になる。そうすれば多少遠くても交通の不便さはない。しかも探せば案外近くでも広くて安い土地はある。
「この土地、良さそうじゃない?私の休みの火曜日に見に行かない?」
そう言われて出てきた土地情報は、我が家から車で30分ほど走った場所にある土地だ。なんと広さは330坪もある。なんちゅう広さだ。その割に極めて安い。これなら貯金でなんとかなりそうな金額だ。そして周りは普通の住宅街である。
「…うん。いいけど、この広さでこの値段って『霊的な何か』じゃないの??」
「そんな気もしなくはないけど、とりあえず見に行ってみようよ!」
ということで、僕が一旦売主の不動産屋に電話を入れてみた。
不動産屋さんによると、ここは実業家の方とピアノ講師をやっているご夫婦がお住まいだったようだ。旦那さんがなくなり、奥さんは一人でピアノ教室をやっていらっしゃったが、すでに他界。ご親戚がこの土地を管理しているそうだ。見学の場合は、あらかじめ日時を言っていただければ、ご近所に周知しますとのこと。
まあ、見るだけタダなので、翌週の火曜日、見学に行くことにした。
この場所は、私鉄が走っている場所だが、関東では有名な「お値段の高い私鉄」が走っている。通勤電車は都心直通で途中駅なので、そんなに時間がかかるわけではない。都心まで1時間以内、最速だと40分程度だ。そして乗り換えなく都心直通だ。しかし、鉄道会社3社を経由するので、片道760円、往復1,520円だ。定期券は通勤で1ヶ月32,000円する。そして、この駅も僕が見に行く土地まで歩いていけるわけではない。全て公共交通を利用するならバス10分の乗車だ。多分多くの人は駅まで自転車か送迎だろう。電車通勤するなら、この値段を毎月払ってしかも立ちっぱなしで通勤するなら少なくとも片道は着席できる沿線の方が得策だ。都心に近いのに安い場所は大概こういう交通の問題を孕んでいる。
鉄道は使うルートでお値段が全く異なる。値段が高くなる理由は大きく2つある。
まず、ありがちなのは何社もの鉄道会社を跨ぐパターンだ。妻の菜々子がもし車ではなく電車で通勤した場合、動物病院まで鉄道3社を跨ぐので、乗車時間は30分もかからないのに600円以上する。一方、僕はもし電車通勤するなら所要時間は1時間なのに片道300円以下ですむ。これは東京メトロだけしか使わないからだ。
そして、東京近辺には「1社しか使っていないのに高い鉄道」がある。これらの多くが第3セクター運営の鉄道だ。つくばエクスプレスや東葉高速鉄道が有名だ。昔、中野に住んでいた頃に勤務先の大学に通うため中野から勝田台まで通っていた。中野なら東葉高速鉄道の東葉勝田台まで直通だが、中野から乗ると片道1,000円弱かかる。このうち、メトロ区間は1時間弱の乗車で330円ほど、東葉高速鉄道は20分の乗車で670円ほどだ。明らかに第3セクター鉄道は運賃が高い。
ただ、我々は渋滞回避だけ考えればこれらの問題はない。
実際に行ってみると関東ローム層の端っこにある台地らしい地形の末端に目的の土地はあった。関東ローム層は近くの火山噴火による火山灰が堆積した地形だ。水捌けがよく、保水力が弱いので稲作には向いておらず、さつまいもや梨の栽培が行われている。関東ローム層は、雨によって削られやすく、東京都内にある丘はこういうローム層の削れた後にできる地形である。この地域も火山灰台地の下総台地であり、崖のような地形になっている。
「傾斜地…結構な急勾配だね。」
目的の土地の中には古い家がまだ残っていた。この家が、傾斜地に鉄骨の土台を打ち込む形で立っていた。そうか、土地自体は安いけど、古い家の撤去費用がかかるのか。そして土地の真ん中には井戸もある。これもこういう下総台地では水を得るためにかつては必須だったものだが、家を建てる上ではかなりの障害だ。ただ、完全に南向きなので、日当たりは極めていい。
「面白そうじゃん!平坦地は面白くないよ!」
…何か、菜々子の創造意欲を掻き立てた模様だ。
菜々子は、なんでも「自分でDIYでなんとかしようとする」変な性癖があり、困難な創作作業ほど燃える模様だ。
大体、結婚式のお花とかせっせと古い傘やら布切れやらで作って貯めていた。こういうことをコツコツやるのは非常に関心で、優等生っぽいが、布の色の組み合わせによっては『永谷園のお茶漬け』やら『セレモアつくば』やらの飾り付けになっている気がしないでもない。未使用の僕や菜々子の下着の布でもお花を作ろうとしたときには全力で阻止した。妄想が暴走しなければいいが。
「…まあね。…でも建設費が嵩(かさ)みそうだから、何か商売やってマネタイズできないかな?」
「マンション経営はどう?」
菜々子は小鼻を膨らませて待ってましたと言わんばかりだ。
「…うん。多分それが一番簡単だと思うよ。ただ、交通費が高いから家賃は2DKで5万位にしないとじゃない?空室率を下げないとあんまり儲けはないかもだし、単価低すぎても儲けはないよ。」
「…うーん。じゃあ、社宅とかは?税金は減らせるじゃん。」
「いや、うちの業態だと基本的にテレワークじゃん。まとまって住んでも、ただただウチにタダ飯食いに来るだけじゃない?」
「…じゃあ、梨とか栗とか植える?隣も空き地みたいだし。」
「もはやヤケクソになってない?それこそ大したお金にならないよ。現実的には僕がドラッグストア開設するか、菜々子が動物病院を経営するかじゃない?」
「両方やると儲かりそうだね!」
「…待て待て待て待て!俺たちどこに住むのよ!?病院やら薬局の上に住んで『24時間闘えますか』状態?」
昭和なリゲインのような日々は是非回避したい。
「うーーーーーーーん…」
「まあ、帰って作戦考えようよ」
そして帰る間際にモデルハウスで住宅を建てた場合の大体の見積もりをしてもらった。結果はほぼ僕の蓄えがゼロになる結果となった。住宅でこの値段なので、ドラッグストアや動物病院なら借金だ。そしてこの地域は第一種低層地域なので住宅以外難しい。なかなか難しい。
数日後、菜々子は別の作戦を立案してきた。よく次々と変化球を投げてくるなあと微妙に感心している。いくつかは却下だが、僕の考えていたアイディアに近いものもあり、それならできそうだ。仕事は「モチベーション面」と「収入面」がある。楽しいことばかりではない仕事に一意専心で人生の全てをかけると、低空飛行した時辛くなって必要以上に人生が捗らなくなる。お金とやりたいことは分けたほうが得策なので、菜々子のアイディアに乗ることにした。
詳細は言えないが、現在はその実現に向けて動いている。
ただし、僕は馬車馬のように働くこととなった。
…とほほ。
(第71話へ続く)
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マツウラ カツユキ/57歳/男
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