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続・免許のない教育者たち2023 第41話 オフィスレンタル(4)勉強

2023/7/3

続・免許のない教育者たち2023 第41話 オフィスレンタル(4)

 

登場人物:

高松克己(かつての塾講師理科主任→大学教員兼会社社長)

高松菜々子(高松の歳の離れた妻)

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続・免許のない教育者たち2023 第41話 オフィスレンタル(4)勉強

令和3年(2022)12月。柏の葉キャンパス・某レンタルオフィス。

僕は、このオフィスで仕事を行えず困っていた。

もちろん、仕事してもいいのだが、顧客とどういう取引をしているかを、公衆の面前でベラベラ喋るのは相手との信頼関係に関わる問題なので、法的には問題ないが、僕はやりたくない。それは、食べかけのラーメンの中に箸を立てておく人たちと同じで、法的に可能であるものの、みっともないから自分はやりたくない。その振る舞いを見ている人が、心の中でドン引きしている可能性が高く、僕はそれを見てドン引きしている人と商取引をしたい。

だから、会社の会議や、取引先の方との電話で、いろんな話をするのは午前中人のいない時間帯の7時台に会議室で行っていた。しかし、盗聴電波でよく用いられる199Hzと395Hzの電波のチェックを行ったら、この電波が結構飛んでいた。もちろん、公共Wi-Fiのセキュリティーの低さに比べれば、盗聴器など「子供のおもちゃ」にすぎないが、要はそう言う子供のおもちゃでイタズラする子供が入り込む程度の人が集まっていて、それを排除できていないと言うことを意味する。イタズラしてないで、仕事しろよって思うのだが。

だから、ここでは自分の勉強をするだけにしてしまった。

これは僕の想像だが、このオフィスは高層マンションの中にある。昔、教え子の中に救急車の無線を傍受して録音している悪趣味なものがいたが、多分それに近く、マンションのなかで盗聴器を作動させて会話を聞いてただ「楽しんでいる」だけなのではないかと思う。そんな暇があったらもうちょっと他のことをした方がいい。

実は僕は、大学で別の研究を少ししたくて、自分の勉強をこの頃から始めていた。

僕は薬学部を卒業し、博士号を取ったのが1997年。その後1年間は勉強から離れていた。実際、もうすでにYゼミで先生を始めていて、大学院の時は「いかに仕事と大学に折り合いをつけるか?」に腐心していた。その折り合いをつけるべき学校が無くなったのだから、自由を満喫できると思った。

しかし、自由な時間は得てして人を幸せにはしない。

Yゼミで教えていても、学生たちに最新の研究を科学雑誌Natureなどから説明することもできない。自分の今まで身につけてきたものをただ切り売りするだけ。多分、5年務めたら模擬試験作成を始めて(実際はこのすぐ後から始めたが)10年したら参考書を出して。

このまま楽な人生を送るのか?それが正しいのか?

そう考えたら「自分は一体何が好きだったのか?」を考えるようになった。

子供の頃は生き物大好きだった。いろんな昆虫や魚や爬虫類を飼育した。でもこれは博士号で一つの形になった。

じゃあ、それ以外は?

そうだ。僕は鉄道が好きで、シベリア鉄道に乗りたかったんだ。

そう思って、休みにウラジオストクからモスクワまで1泊+3泊+3泊で向かった。その時、いろいろ仲良くしてくれたロシア人たちと話をしたい、そう思った。みんな気さくで良くしてくれたが、当時の僕にはロシア語は全く分からなかった。盛んに「英語は世界言語」というキャンペーンがなされていたが、実際は「世界はブロック化しており、大きな英語ブロックの中では英語は世界言語」だとわかった。

そして僕は大学から出た1年後にロシア語を学び始めた。

モスクワ大学のウニヴェルスと言う留学プログラムで留学もした。弁論大会も2回出て、ロシアで披露する機会ももらった。ロシアとの付き合いの中で自分に入り込んできた英語から得られた価値観とは全く異なるロシアの価値観。これが初めは自分の中で衝突して混乱したが、バランスをとって見てみると、「ああ、こう言うことか…」と世界が見えてきた。もちろん、世界にはまだ「フランス語ブロック」「アラビア語ブロック」「スペイン語ブロック」などがあり、これを僕は知らないので、大きなことを言うべきではないとは思う。

そして、ロシア語に目処がついた時、僕はYゼミを辞めるつもりで、教育の論文をまとめようと考えた。そのために40歳から「学力はいつ準備されるか?」を知りたくて、幼稚園・保育園・小学校・中学校・高等学校・養護学校(特別支援学校)で教育実習を行って行った。東日本大震災でYゼミが休みになったので取り組むにはいい機会だった。そして、10種類の教員免許を取って行った。

その中で、出会ってしまった「ボウルヴィのアタッチメント理論」と「ブロンフェンブレンナーの環境教育学」。その深淵を知るためには、心理学で有名なオーストリアのウィーン国立大学の門を叩く必要があった。それと自分はこの頃、日本の大学での研究も模索していたため、もう一つ外国語を学ぶ必要があった。そこで、ドイツ語を学び始めた。

自分にとっては、英語・ロシア語に続く3つ目の言語である。

こちらもほぼ目的を達した。ただ、昭和製のポンコツなので、7年も習得に要してしまった。

まあ、ロシア語の12年よりは幾分マシではあるが。

その中で見えてきた、ヨーロッパの衰退による苦悩と、環境やLGBTQ+などに代表される人権に取り組む考え方、取り組まざるを得ない事情も見えてきた。僕にとっては、ヨーロッパの考え方は「夢見る夢子ちゃん」状態で、なかなか大人が賛同しづらいものだとは思った。思ったが、それはドイツの生存戦略としては致し方ないと言うのもわかった。ドイツもまた、WGIPの中の住民であり、インビジブルである分だけ病理と闇は深い。それがわかっただけでもドイツ語を学んでよかったと思う。

そう考えると、社会人になってから今まで、1年間を除いてほぼ切れることなく何かを学び続けてきた。その学ぶことから得られる知識は、確実に自分の商売や教育業に生かされている。だから、また少し日本国内で別の研究をしようと考えていた。

盗聴器の件は、ここの管理者にお知らせしたものの、まともには取り合おうとしない。

だから、ここでは勉強するしかないと考えた。

朝はこの貸しオフィス、昼前に大学に戻り授業して図書館で商談、また戻ってきて勉強した。

そうして年を越した頃に、担当する講義が来年度から都内に変更になるとの知らせが来た。

そして、ささやかながら円安の流れに乗って、会社の売上が上がり始めて行った。

「じゃあ、東京の東に新しいオフィスを借りよう」

僕はそう考えて物件を探し出し、申し込んだ。

するとまた、困った事態が訪れた。

(第42話へ続く)

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松浦 克行

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