2025/4/16
▼上記記事一部抜粋
「今月20日、イギリスのトラス首相が在任1か月半という異例のスピードで辞任に追い込まれた。看板政策として掲げた大型減税が金融市場の混乱を引き起こし、市場からもそして国民からも「ノー」を突きつけられた形だ。」
トラスショックは本当に減税が要因だったのか?
実は少し前に浜田聡事務所より、国会図書館へ調査依頼をして、回答を頂いておりましたので、回答内容をご紹介します。
【依頼内容】
トラスショックの振り返り等について
①トラスショックがなぜ起きたのか、原因分析、振り返りされている資料(英国、日本を含め主要なもの)
②①を踏まえて英国、日本を含め主要国の対策状況、方針、教訓としている事等(あれば、可能な範囲で)
【回答】
1 トラス政権の経済政策の内容と市場の反応
○ トラス(Liz Truss)政権は、2022年9月23日、「成長計画2022」と題する経済対策を発表しました。この計画は、秋季財政演説に先立ち「ミニ予算(mini-budget)」として公表されたもので、エネルギー高騰対策として2022年10月から半年間で600億ポンドを投じるとともに、法人税率引上げの凍結や所得税の最高税率の引下げなどを始めとする減税策を講じるという内容でした(表1)。

(出典)「ポンド急落、世界に火種 通貨・債券安の連鎖招く インフレ退治は難路」『日本経済新聞』2022.9.28、【資料1】「英政府、企業などへ向けエネルギー価格高騰対策を発表(英国)」『ビジネス短信』2022.9.22.、【資料 2】を基に作成。
▼資料
資料1 「ポンド急落、世界に火種 通貨・債券安の連鎖招く インフレ退治は難路」『日本
経済新聞』2022.9.28.(※タイトルのみご紹介)
資料2 「英政府、企業などへ向けエネルギー価格高騰対策を発表(英国)」『ビジネス短信』2022.9.22.
英政府、企業などへ向けエネルギー価格高騰対策を発表(英国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ
資料3 「英政府、企業などへ向けエネルギー価格高騰対策を発表(英国)」『ビジネス短信』2022.9.22.
英政府、企業などへ向けエネルギー価格高騰対策を発表(英国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ
○ 「成長計画2022」の公表を受けて、9月26日の外国為替市場ではポンドが対ドルで急落し、変動相場制への移行後の最安値を記録したほか、国債価格の下落(国債金利の上昇)と株価の下落も発生して「トリプル安」の状況となり、金融市場が大きく混乱しました(いわゆる「トラスショック」)。さらに、英国の年金基金は、デリバティブを活用して低金利環境下でも運用益の拡大を目指す「債務連動型運用(Liability Driven Investment: LDI)」と呼ばれる投資戦略を採用しており、国債価格の下落を受けて国債の担保価値が目減りしたこと等により、取引先の金融機関から追加担保の差入れや純資産価値(NAV)維持のための追加資金が要求されました。その資金確保のため、年金基金は保有国債の大量売却を進めたため、売りが売りを呼ぶ展開となり、自己実現的な金融危機に発展するリスクが高まりました【資料4, pp.5-6】。
▼資料
資料4 伊藤さゆり「「トリプル安」後の英国―日本が真に学ぶべきことは?―」『基礎研レポート』2022.12.2.
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/73140_ext_18_0.pdf?site=nli
2 トラスショックの要因
○ トラス政権の経済対策に市場が拒絶反応を示した背景には、市場が英国の財政状況やインフレの悪化に対して懸念を強めたことが挙げられます【資料1】。
特に、市場は拡張的な財政政策と引締めを加速する金融政策との方向性の不一致に激しく反応したと指摘されています【資料4, p.5】。例えば、IMFは、イギリスを含む多くの国でインフレ圧力が高まっていることを踏まえると、財政政策が金融政策に相反しないことが重要であり、現時点では大規模で的を絞らない(untargeted)財政措置は推奨しないと、英国政府に対して異例の警告を発していました【資料5, p.2.】。
▼資料
資料5 財務省「財政総論(補足)」(財政制度分科会(令和4年10月13日開催))
2022.10.13.
○ また、トラス政権が財政政策に規律をもたらすための機関や制度を軽視したことも、市場の疑心を招いた要因の一つであるとの見方があります【資料6】。具体的には、独立財政機関である「予算責任局(Office for Budget Responsibility: OBR)」は、例年、秋季財政演説に合わせて経済財政見通し(予測)を作成し公表しているところ、トラス政権はこれに先行する形で「成長計画2022」を発表しました。トラス首相は、保守党の党首選で、「多くの専門的なアドバイザーや独立した機関、ルールや規則こそが英国の問題の一つ」と発言しており、同計画が財政ルールやOBRの予測で阻まれないよう、意図的に強引な手法をとったとされています【資料4, p.11】。
▼資料
資料6 「「愚か者」英国救った安全網 財政への信認、制度が守る(Angle)」『日本経済新
聞』2023.1.27. (※タイトルのみご紹介)
○ その他の主な有識者見解は、表2のとおりです。

▼資料
資料7 谷口将紀ほか「トラスのイギリスに何を学ぶか」『わたしの構想』2023.6, No.66.
https://www.nira.or.jp/paper/vision66.pdf
資料8 田近栄治「イギリスの「成長計画2022」―看板政策の失墜と日本への示唆―」
2022.10.25. 東京財団ウェブサイト
イギリスの「成長計画2022」 ――看板政策の失墜と日本への示唆 | 研究プログラム | 東京財団
3 トラスショックを踏まえた主要国の対応等
●英国
○ トラスショックの発生を受けて、クワーテング(Kwasi Kwarteng)氏が財務大臣を辞任した後、新たに財務大臣に就任したハント(Jeremy Hunt)氏は、2022年10月17日に減税策の7割を撤回しました。これにより、市場の混乱は一旦収まったものの、一連の混乱の責任を取って、トラス首相は辞任しました。
○ その後を継いだスナク(Rishi Sunak)政権の下では、2022年11月17日の秋季財政演説において、新たな中期財政計画が示され、財政に対する市場の信頼を回復することを目的として、250億ポンドの増税と300億ポンドの歳出削減によって、財政収支を総額550億ポンド改善することが掲げられました。
具体的な増税措置としては、
①2023年からの法人税率の引上げ(19%→25%。年間利益5万ポンド以下の企業については19%で据置き)、
②石油・ガス企業に対する超過利潤税の強化(25%→35%。課税対象に再生エネルギー・原子力発電の電力事業者を追加)、
③所得税の最高税率(45%)が適用される所得水準の引下げ(年15 万ポンド→年12万5140ポンド)
等が挙げられます。【資料4、資料9】
○ 中期財政計画の策定に際しては、財務省とOBRとの間で10回以上のやり取りが行われ、同計画の公表と併せて、OBRによる経済財政見通しも公表されました。トラスショックによる国債金利の上昇分については、メディア等において「(政府が招いた)愚か者リスクプレミアム」とも称されてきましたが、一連の軌道修正により、その大部分が消失しました。英国が早期に危機的状況から脱するのを助けたのは、OBRの推計を始めとするトラス政権が面倒くさがった制度であったとの指摘が見られます。【資料6】
▼資料
資料9 山田恭之「ハント財務相、秋季経済計画を発表、増税・歳出削減へ」『ビジネス短
信』2022.11.18. ジェトロウェブサイト
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/11/7a411ac743165641.html
●日本
○ 日本では、令和4(2022)年10月13日に開催された、財政制度等審議会(財務大臣の諮問機関)の財政制度分科会において、英国における「成長計画2022」の公表後の状況が議題に取り上げられました。【資料5】
○ その後、財政制度等審議会が令和4(2022)年11月29日に取りまとめた「令和5年度予算の編成等に関する建議」には、「イギリスでは、市場からの強い警告を受け、財源なき「成長戦略」が修正された。同時期の日本では、10月28日に総合経済対策が閣議決定、11月21 日に令和4年度(2022年度)第2次補正予算(案)が国会に提出されており、今後も財政状況は厳しさを増すことが見込まれている。今後、日本においても、イギリスの混乱を他山の石とし、市場の不信を招かぬよう、責任ある財政運営を行っていくことが不可欠である。」との記述が盛り込まれています。【資料10, p.3】
○ 有識者がトラスショックの日本への教訓や示唆について述べている資料については、【資料4、資料7、資料8】を御覧ください。例えば、伊藤さゆり氏は、「日本が、英国の経験から真に学ぶべきは、課題解決のために財政の役割を強化するのであれば、中期的な観点から財源についても議論し、広く国民の理解を得るとともに、政策の予見可能性を高める必要がある」とした上で、「英国が採用している「中期財政計画」の提示という手法は、政策的な選択肢への理解を促し、データに基づく議論を喚起する上での重要な基盤になると思われる」と述べています【資料4, p.19】。
▼資料
資料10 財政制度等審議会「令和5年度予算の編成等に関する建議」2022.11.29. 財務省ウェブサイト
●米国
○ 米国議会予算局(Congressional Budget Office: CBO)のスワゲル(Phillip Swagel)局長は、2024 年3月24日掲載の『Financial Times』のインタビューにおいて、連邦政府が膨張する政府債務を無視するようなら、米国はトラスショックと同様の事態に直面しかねないとの警告を発しています【資料11】。
▼資料
資料11 “US faces Liz Truss-style market shock as debt soars, warns watchdog,” Financial Times, 2024.3.26.(※タイトルのみご紹介)
○ 足下(2025年1月)では、欧米諸国を始め、世界の債券市場で、国債増発への警戒感が金利を押し上げているとの報道が見られます。すなわち、物価高対策などで各国政府の財政支出が拡大する一方で、中央銀行による国債買入れの縮小が国債の純発行額の拡大につながっており、投資家は国債需給の悪化による金利の上昇(国債価格は下落)への懸念を深めている状況にあるとされます。こうした中、インフレ再燃が金利の高止まりにつながり、利払い負担の増加と財政悪化に拍車をかけるリスクも意識され始めており、投資家は政府が財政規律を取り戻すかどうかを注視していると報じられています。【資料12】
▼資料
資料12 「世界の国債増発を警戒 英金利「トラス・ショック」超え 市場、財政規律を注
視」『日本経済新聞』(電子版)2025.1.10.(※タイトルのみご紹介)
下記動画では、「減税で英トラスショック」デマ注意について解説されています。
物事の要因は正しく分析できるよう、引き続き学びを深めていこうと思います。
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