かいでん 和弘 ブログ

目黒区役所は生成AIをどのくらい使っている?

2024/7/6

こんにちは。30歳の目黒区議会議員、かいでん和弘です。

 

今回は、目黒区役所の生成AI活用の“現在地”を皆さんにご紹介します(2024.7時点)。

 
 

目黒区では今年度から本格導入

 

目黒区役所での生成AI活用は2度の試行段階を経て、ようやく今年5月から本格導入がスタートしたところです。

 

2023年8月~9月 試行期間(第一期)

2023年11月~2024年3月 試行期間(第二期)

2024年5月20日~ 本格導入

 

使用するのは自治体向けチャットツール「LoGoチャット」のなかに組み込まれたChatGPTです。区では、各試行期間中に利用した職員へアンケートを取っていたのですが、そこでは、

 

「約80%が生成AIの利用に満足」

「約70%が作業時間の短縮を実感」

「99%が利用を継続したいと希望」

 

という素晴らしい結果が出ています。

 

(なお蛇足ながら、区役所の動きと並行して目黒区議会でも2023年7月、マイクロソフトの方をお招きして、ChatGPTに関する勉強会が開催されています。)

 

「めぐろ区議会だより 令和5年11月1日号」

 

面白い取り組みも

 

また目黒区は、「自治体AI活用マガジン」というnote(SNS)上の企画に参加しています。これは、全国22の生成AI活用先進自治体がnote上に集い、「生成AIを業務にどのように活用しているか」を情報共有する取り組みで、目黒区は立ち上げ時の11自治体の一つに名前を連ねています。

 

note「自治体AI活用マガジン」

 

目黒区が投稿している記事を見ると……

 

役所内で生成AIの活用事例を募集してみたり、

 

生成AIによる文書作成コンペを開催してみたり、

 

職員向けアンケートの結果をAIに分析してもらったり、

 

なかなか意欲的な取り組みをしているようです。

 

最後に挙げた職員向けアンケートの分析は「マルハラ」(文末に“。”を付けると威圧感を感じてしまうこと)という些細なテーマに関するものでしたが、これができるのなら、区が実施している全アンケートの全設問について、わざわざコンサル業者へ委託して分析してもらう必要はありません。お隣品川区で全区民向けアンケートを分析し、補正予算を組んでしまったように、ここは目黒区でも早期に実行するべきと思っています。

 

YAHOO!JAPANニュース「品川区“全国初”AIを活用し予算編成 所得制限なしで子育て世帯に米を配布へ」(TOKYO MX)

 

ただこういう取り組みは、いくら技術的に問題が無く、現場の職員が前向きだったとしても、全てトップである区長の胸三寸にかかっています。目黒区と品川区のトップの意識の差が表れているように思えてなりません(後述)。

 

なにはともあれ、現場では色々と面白い試行を始めていますので、ぜひ応援の意を込めて記事をのぞいてみてください。

 

note「【目黒区】データ活用チーム

 

大半の職員は使わない

 

さて、「目黒区、意外と生成AIを使えているんだな」と感じたかもしれません。けれども、ここまで触れてこなかった大きな課題があります。それは、

 

使えているのはごく一部の職員さんだけ!!

 

ということ。目黒区では希望すれば誰でも業務に利用できる環境になったのにも関わらず、全然庁内に利用が浸透していないのです。各期間の利用者数は次の通り。

 

第一期試行期間 … 職員約120名が利用

第二期試行期間 … 職員約140名が利用

本格導入    … 職員約240名が利用

 

目黒区の職員数は全体で約2,000人ですので、試行期間中の利用率は5~7%、本格導入後も12%ほどしか使っていないことになります。

 

なぜ、すそ野が広がらないのか。区によると次の2点が課題とのこと。

 

利用に適さない業務が多い

… 区役所には現場に出ての作業がメインの部署(土木系)や窓口対応がメインの部署もあり、そうした部署では生成AIを利用するメリットが薄い。

 

安全性への配慮が必要

… 利用に当たっては、機密情報の漏洩や著作権侵害などが起こることの無いように、「目黒区生成AI利用ガイドライン」を整備したうえで、職員向けの勉強会を開催。そこに参加した職員限定でアカウントを付与している。

 

役所ですから当然、区民の個人情報等をAIが学習することの無いよう慎重な運用は必要です。しかし、さすがにもう少し使ってほしいなと思います。

 

生成AIを業務に取り入れることは、ゆくゆくは「コンサルへの委託費が必要なくなる」、「職員の残業代が浮く」といったコストカットに資するほか、「採用が年々厳しくなる人手不足の時代にも持続可能な強い組織となる」など、多大なメリットを生み出します。

 

たとえ現段階ですぐに業務に活用できる部分が限定的だったとしても、今のうちからできるだけ多くの職員が生成AIに触れ、その使い方や長短を知っておくべき。使ってみて「ウチの業務には合わない」と判断するならまだしも、試行期間から本格導入に至るまでわずか1割程度の職員しか使っていないという“食わず嫌い”は、決して良いことではありません。

 

「他の役所も同じ感じなのだろうか?」と疑問が膨らむなか、思いがけず、生成AI活用のトップランナーである神奈川県横須賀市役所を視察する機会(2023年12月)に恵まれました。

 

トップランナー・横須賀市へ視察

 

目黒区が2023年8月に試行導入を決めたのと対照的に、横須賀市は2023年4月20日から全庁的な活用実証を開始しました。報道各誌に「Chat GPT」が大々的に取り上げられ出したのが3月ごろですから、役所としては信じられないほどの爆速です。

 

 

その後6月から本格導入に踏み切って以降、様々な企業とタッグを組み、生成AIを使った職員の負担軽減や、市民の利便性向上に資する取り組みを行っています(下記は一例)。

 

(職員を補助)住民との福祉相談などの際に、AIが相談内容を要約するツール

株式会社アイネスHP「AIによる住民相談支援の実証を横須賀市で開始~「AI相談パートナー」を利用し自治体DXを推進~

 

(事業者を補助)横須賀市の建築申請関連の条例をAIに学習させ、敷地面積などを入力すると条例の適合を自動判定するツール

横須賀市HP「AIを活用した建築確認申請ルールの自動判定システムの共同実証実験を開始(2023年10月25日)

 

(外国語を母語とする市民を補助)市長アバターによる英語での情報発信を行うツール

横須賀市HP「全国初 生成AIを活用した市長アバターによる英語での情報発信の開始

 

そして、私が気にしていた職員の利用率はというと、2023年4月からの活用実証中、市の全職員が3,828人に対して1,913人が利用、率にして約50%に上ったとのことです(2023年5月末時点)。

 

さらに横須賀市、生成AI活用の“量”だけでなく“質”も追い求めています。活用実証中に行った職員アンケートで、Chat GPTにあまり向かない「検索」などの用途で使っている例が多かったことから、職員の利用方法をテコ入れするための職員向け広報も始めました。題して、「チャットGPT通信」。

 

横須賀市HP「ChatGPTの全庁的な活用実証の結果報告と今後の展開(市長記者会見)(2023年6月5日)」より『ChatGPT活用実証結果報告』P18横須賀市HP「ChatGPTの全庁的な活用実証の結果報告と今後の展開(市長記者会見)(2023年6月5日)」より『ChatGPT活用実証結果報告』P20

 

これを、おおよそ週1回発行しているというから驚きです。

 

また、職員の更なるスキルアップに向けて、外部の専門家監修(深津貴之氏)の職員研修も実施。各回400~500人の職員さんが参加したといいます。

 

横須賀市HP「ChatGPTの全庁的な活用実証の結果報告と今後の展開(市長記者会見)(2023年6月5日)」より『ChatGPT活用実証結果報告』P55

 

さらにさらに、先ほど目黒区も参加しているとご紹介した「自治体AI活用マガジン」の発起人も実は横須賀市。大変多くの刺激を受けた視察でした。

 

note「全国の自治体の生成AIに関する情報が集まる「自治体AI活用マガジン」をはじめました!

 

早速目黒区に提案!

 

横須賀から帰ってきた私は、早速、議会で提案しました。

 

本区でも、全職員である必要はないとしても、AIへの親和性が高い部署を中心に、活用できる人材を増やすため、職員向けの勉強会を開催したり、職員報でAIの活用事例を情報共有してはいかがでしょうか。

 

また、現在は自ら希望した職員にのみ使用を認めていますが、それでは興味がない職員は興味がないままで、すそ野が広がっていきません。

 

AIとの協業が当たり前になる時代にも現役として働くことになる若手職員や、職員の生成AI利用の可否を決裁する立場の課長級以上の職員にもアカウントを付与する等の工夫が必要ではないでしょうか。

 

 

区の回答は次のようなものでした。

 

今後については、引き続き安全性への配慮を十分に行いながら、生成AIの活用範囲を増やしていくことを基本と考えており、具体的には、現在試行利用している職員へのアンケートを実施したうえで、利用人数や対象業務などを見極めていきたいと考えております。

 

今後は、関心を持つ多くの職員が生成AIの仕組みや特性を正しく理解できる勉強会を、オンライン研修なども含めて、充実させてまいります。

 

また、活用する職員のすそ野を広げていくことも重要であり、庁内グループウェアを使った活用事例の紹介などを充実させていくことに加え、「自治体AI活用マガジン」というプラットフォームを利用し、他団体の活用方法を学び、成功事例・失敗事例の全庁共有を進めていくなどの取組を行ってまいります。

 

結局トップの問題では?

 

なぜ横須賀市で50%の職員が使えている生成AIが、目黒区では10%ほどしか普及しないのでしょうか?

 

要因の一つとして、先に挙げた「チャットGPT通信」や職員研修など、横須賀市の担当部署が、庁内への普及促進にものすごく腐心していることはあると思います。

 

しかし、視察の際に「なぜ横須賀市は半数の職員さんが使うのか?」と担当の方に尋ねたところ、全く違う見解でした。

 

「市長の決断です。」

 

「市長が決断し、ドンと打ち出せたのが全てです。」

 

とおっしゃった。その上でもう一つ、「メディアの後押しがあった」と、つまり「連日横須賀のAIが取り上げられていると、『自分たちもやらなきゃな』と職員さんが自然と思うようになったのでは」と分析されていたんです。

 

横須賀市では、職員からのお伺いや提案を受ける前に、市長自らが情報を収集し、AIの可能性を感じ取り、トップダウンで指示したそうです(市長が個人的にChat GPTを使ってみて、「面白いから行政で活用できるように考えて」と指令を出されたとのこと。)。

 

それが横須賀市の職員を動かし、メディアを動かし、今では様々な企業からタッグを組みたいという申し出をうけ、市民生活の改善に動き出せています。

 

視察時には上地・横須賀市長さんともお話しすることができました。

 

一方で目黒区はどうでしょうか。青木区長からはトップダウンの姿勢が感じられません――

 

と、議場では、ここから区長のリーダーシップ論へと展開していったのですが、実はこの続きはすでに以前ブログにしている内容ですので、あわせてご覧ください。

 
 

今後3年間、トップダウンに期待できないのなら、議会の側から訴えかけるのみ。区役所の保有する様々な情報を、個人情報の含まれない範囲でAIに学習させ、より使いやすい生成AIにしていくなど、今後も生成AIの更なる活用に向け、提案を続けます。

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著者

かいでん 和弘

かいでん 和弘

肩書 めぐろの未来をつくる会(7人の第二会派)幹事長
党派・会派 無所属

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