2026/8/7
8月7日、千葉県栄町で開催された第76回利根川治水同盟治水大会に参加しました。
今回、特に印象に残ったのが、国土交通省 関東地方整備局 河川部長の室永武司氏による「関東河川事業の概要」と、中央大学名誉教授の山田正先生による「地球温暖化の下での治水安全度はいかにあるべきか」の2つの講演です。
「利根川の話なら、葛飾区にはあまり関係ないのでは?」
そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実際にはその逆です。
利根川の治水は、葛飾区民の命と暮らしを守ることにも直結しています。
利根川であふれた水が、葛飾区までやってきた
室永河川部長のお話で、改めて認識したのが関東平野の地形です。
東京東部を含む関東平野には、もともと海や湿地だった低い土地が広がっています。
現在は堤防やダム、調節池などによって守られていますが、水は高いところから低いところへ流れます。
そのことを現実に示したのが、昭和22年、1947年のカスリーン台風でした。
利根川の堤防が埼玉県内で決壊し、あふれ出した水は埼玉県東部を南下。約5日間かけて葛飾区や江戸川区まで到達し、大きな被害をもたらしました。
つまり葛飾区にとって利根川は、決して「遠くにある川」ではありません。
利根川の治水がうまく機能するかどうかが、東京東部の安全にも関係しているのです。
2019年、利根川は「ギリギリ守られた」
さらに驚いたのが、2019年の令和元年東日本台風のお話です。
このときも関東地方では記録的な大雨となりましたが、利根川本川ではカスリーン台風のような大規模な氾濫を免れました。
その背景には、戦後長い年月をかけて整備してきた、
ダム、渡良瀬遊水地、田中調節池などの調節池、堤防、河川改修といった治水施設の積み重ねがありました。
八ッ場ダムも試験湛水中で、大量の洪水を貯留する役割を果たしました。
ところが、室永河川部長が紹介した当時の映像を見ると、「余裕で大丈夫だった」という状況ではありません。
場所によっては、利根川の水面が堤防の上端まで残り約1メートルというところまで迫っていたとのこと。
ダムや調節池、堤防などが総動員され、まさにギリギリのところで守られていたのです。
もし、もう少し雨が多かったら。
もし、これらの施設が整備されていなかったら。
葛飾区に暮らす私たちも、決して無関係ではありません。
問題は「雨の量」だけではない
一方、山田正先生の講演で特に印象的だったのは、
「雨の降り方そのものが変わっている」
という指摘でした。
これまで「2日間でこれくらい降る」と想定していた雨が、1日、場合によってはさらに短い時間に集中して降る。
同じ雨量でも、一気に降れば川に流れ込む水の量は急激に増えます。
近年、「線状降水帯」や「記録的短時間大雨」といった言葉を耳にする機会が増えました。
これまでの経験だけを基準に、
「昔から大丈夫だったから、今回も大丈夫」
とは言えない時代になっているということです。
「100年に一度」は、100年間来ないという意味ではない
山田先生のお話でもう一つ、区民の皆さんにもぜひ知っていただきたいことがあります。
「100年に一度の大雨」という言葉です。
これは、
「一度起きたら、その後100年間は起きない」
という意味ではありません。
長期間起きない場合もあれば、短い期間に続けて起きることもあります。
災害がしばらく起きていないと、
「ここは何十年も大丈夫だった」
と思ってしまいがちです。
しかし、それは将来の安全を保証するものではありません。
治水の難しさは、災害が起きていない時に、将来の大災害を想定して備えなければならないことにあります。
わずか「10センチ」が大きな違いになる
山田先生は、水位を少し下げることの重要性についても話されました。
川では水位が10センチ違うだけでも、堤防を越える危険性などが変わってきます。
私たちからすると「たった10センチ」と思ってしまいます。
しかし治水では、その10センチを下げるために、上流のダム、中流の調節池、下流の河川改修など、さまざまな対策を積み重ねています。
一つ一つの施設だけを見ると、その効果は分かりにくいかもしれません。
しかし、それらが同時に働くことで下流のまちが守られている。
これも今回、大変勉強になった点です。
私が興味を持った「自販機の浸水センサー」
そして山田先生の講演で、特に「これは面白い」と感じたのが、自動販売機を浸水センサーとして活用する発想です。
まちなかには数多くの自動販売機があります。
そこにセンサーを設置し、大雨の際に、
「この場所まで水が来た」
「この地域で浸水が始まった」
という情報を把握できれば、リアルタイムの水害情報として活用できます。
さらにシミュレーション技術と組み合わせれば、
「この道路はこれから危険になる」
「こちらの方向へ避難した方がよい」
といった、より具体的な避難判断につなげられる可能性があります。
新しい防災施設を行政だけで整備するのではなく、すでに地域にある民間の設備を防災にも活用する。
葛飾区のような都市部だからこそ、研究する価値のある考え方だと感じました。
これからは「川だけ」で水害を防ぐ時代ではない
室永河川部長からは、気候変動に対応する利根川の新たな治水対策として、**「令和の大改修」**についても説明がありました。
上流のダム、中流の調節池、下流の河道や堤防。
これらを総合的に強化し、将来の豪雨に備えていく考え方です。
しかし、それだけではありません。
これから重要になるのが**「流域治水」**です。
川の中だけですべての水を受け止めるのではなく、国、自治体、企業、住民など、流域に関わる人たちが協力し、雨水を貯めたり、流出を抑えたり、避難体制を強化したりする。
つまり、
「川で守る」から「まち全体で守る」へ。
治水の考え方そのものが大きく変わろうとしています。
大会では、治水強化を求める決議も採択
今回の第76回利根川治水同盟治水大会では、講演だけでなく、今後の治水政策についての決議も採択されました。
内容を一言でまとめると、
「激甚化する水害から流域住民の命と暮らしを守るため、国に対して治水予算を確保し、利根川水系の治水・利水・環境整備をさらに強力に進めてほしい」
というものです。
具体的には、利根川水系の「令和の大改修」を強力に進めること、国土強靱化のための治水予算を確保すること、流域治水をさらに推進することなどが盛り込まれました。
また、
洪水調節施設の整備、堤防や水門などの老朽化対策、河川水位の監視・予測精度の向上、住民の避難につながる水防災情報の充実、TEC-FORCEなど災害時の支援体制強化など、ハード・ソフト両面からの対策を国に求めています。
葛飾区にとって重要な「江戸川の堤防強化」
決議の中で、葛飾区にとって特に重要だと感じたのが、
「利根川・江戸川の首都圏氾濫区域堤防強化と河道掘削を進め、治水対策を効率的かつ確実に推進する」
という内容です。
利根川水系には江戸川も含まれています。
葛飾区は江戸川、中川、荒川などに囲まれ、多くの地域が低地です。
ですから、上流から下流まで一体となって洪水をコントロールすることは、葛飾区の水害対策そのものにつながります。
そのほかにも、
稲戸井調節池の洪水調節容量拡大、田中調節池の機能向上、河川管理施設の耐震化や老朽化対策など、流域全体の安全度を高めるための具体的な事業の推進も求められています。
「水害は自治体の境界で止まってくれない」
今回の講演と決議を通じて、最も強く感じたことがあります。
それは、
水害は自治体の境界で止まってくれない
ということです。
上流で降った雨が川に集まり、下流へ流れてくる。
ダムが水を受け止める。
調節池が洪水を貯める。
河川が水を流し、堤防がまちを守る。
そして行政が情報を伝え、住民が避難する。
そのすべてがつながって初めて、私たちの安全が守られます。
利根川治水同盟は、カスリーン台風による甚大な被害を契機として、利根川流域の自治体などが連携し、国に治水事業の推進を求めてきました。
その意味は、気候変動が進む現在、むしろ以前より大きくなっていると感じます。
大きな治水と、身近な防災を
葛飾区に暮らしていると、利根川上流のダムや調節池を日常的に意識することはほとんどありません。
しかし、今の安全は、見えないところにある多くの治水施設と、長年の整備の積み重ねによって支えられています。
そして、その安全は決して完成したものではありません。
気候変動によって雨の降り方が変わる中、国には「令和の大改修」をはじめとした治水対策を着実に進めてもらう必要があります。
同時に葛飾区でも、避難体制、情報発信、防災DX、民間との連携など、地域でできる対策をさらに進めていかなければなりません。
大きな治水と、身近な防災。
その両方があって、初めて区民の命と暮らしを守ることができます。
今回学んだことを、葛飾区の水害対策にしっかりと生かしていきたいと思います。







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