2024/2/15
日常生活を取り戻す遠隔地避難を NHKのEテレ「バリバラ」のご意見番 玉木氏インタビュー 能登半島地震 緊急時の「命の選別」に警戒を
私は1月、NHKのEテレの「バリバラ」のご意見番として知られる社会福祉士の玉木幸則氏にインタビューをしました。玉木氏は1月1日に発生した能登半島地震について災害関連死の防止を最優先すべきだとの考えを示し、被災者が日常生活を取り戻すための遠隔地避難の実施を求めました。
この中で、玉木氏は自身が29年前の阪神・淡路大震災で被災し、名古屋市の市営住宅に移ったことで心身ともに回復できた経験を披露しました。そのうえで、「被災者が被災地にとどまっておく理由はどこにもない」と強調しました。
玉木氏は「他県でもいいから、住宅が提供される環境に移って普通の暮らしをしてもらい、災害関連死を防ぐことが最優先だ」と指摘。被災者が避難先で孤立しないようにするため、地域社会ごとの集団による遠隔地避難の実施を求めました。
緊急時における障害者や高齢者らの社会的弱者の課題については、新型コロナウイルス感染症の流行期、ある団体が「新型コロナウイルス感染症で人工呼吸器や人工肺などの高度治療を受けている時に機器が不足した場合には、私は若い人に高度医療を譲ります」と記載した意思表示カードを提唱し、物議をかもした事例を紹介しました。
そのうえで、「社会には優生思想が今も根強く残っている。平時には表面に出てこないが、災害や感染症の流行などの差し迫った局面では命の選別につながるような動きが出てくる恐れがある」と指摘しました。
玉木氏は「障害のある人も、ない人もともに生きる社会にすること」を求め、全ての人を分けず、排除せず、全ての人に平等な選択肢があり、ともに生きていく「フル・インクルージョン」を目指すべきとの考えを示しました。
◎玉木幸則氏インタビューの主な一問一答
―能登半島地震についての考えは。
「私は29年前の阪神・淡路大震災で住んでいた上ケ原のアパートが倒壊し、生き埋めになった。約2時間後に近くの人によって救出された」
―大変でしたね。
「指定避難所は障害者にとって一晩も過ごせない環境だった。当時の勤め先の代表宅にしばらくいたが、発生から約2週間後、名古屋市の市営住宅に例外的な措置で入居させていただいた。私はやっと落ち着き、日常生活を取り戻した。被災地と違って静かな環境であり、毎日の入浴や布団で寝ることのありがたさを感じた」
―心身とも回復できたのですね。
「この経験から言えば、被災者が被災地にとどまっておく理由はどこにもない。とりあえず他県でもいいから、住宅が提供される環境に移って普通の暮らしをしてもらい、災害関連死を防ぐことが最優先だ。被災者が避難先で孤立しないようにするため、地域社会ごとの集団による遠隔地避難を実施してほしい」
―大切な取り組みですね。
「水道や電気、ガスなどのライフラインが回復し、仮設住宅に入居できる状況になってから戻ればいい。これは障害のある人も、ない人も被災者全てに共通する課題だ」
―災害時に障害者や高齢者らの社会的弱者にどのような配慮をすべきですか。
「東日本大震災で被災し、人工呼吸器の電源を確保できず、病院に運び込まれた医療的ケア児に医師がトリアージで『医療不要』と判断したため、医療的ケア児は病院から出ざるをえなくなった。医師は患者が置かれた環境を含めた判断をしなければいけない」
―怖いですね。
「新型コロナウイルス感染症の流行期、ある団体が『新型コロナウイルス感染症で人工呼吸器や人工肺などの高度治療を受けている時に機器が不足した場合には、私は若い人に高度医療を譲ります』と記載した意思表示カードを提唱し、物議をかもしたことがあった」
―自分の意思を示すものであっても他者への無言の圧力になる可能性がありますね。
「ある喜劇俳優がこれについて『このカードによって年寄り切り捨ての風潮が一層進むかと思うと、怖い。私みたいに生きる意思を強く持っている高齢者は多い。年齢という物差しだけで医療現場で見捨てられるのはやりきれない』と反論してくれた」
―深刻な問題ですね。
「社会には優生思想が今も根強く残っている。平時には表面に出てこないが、災害や感染症の流行などの差し迫った局面では命の選別につながるような動きが出てくる恐れがある」
―どのような取り組みが必要ですか。
「障害のある人も、ない人もともに生きる社会にすることだ。全ての人が地域で暮らせる社会を実現したい。全ての人を分けず、排除せず、全ての人に平等な選択肢があり、ともに生きていく『フル・インクルージョン』を目指すべきだ」
玉木幸則(たまき・ゆきのり)氏の略歴 昭和43年8月、兵庫県姫路市に仮死状態で生まれる。4歳で肢体不自由児療育施設に入所。小中学校は地元の普通学級で学ぶが、高等学校は養護学校へ。日本福祉大学社会福祉学部第2部卒業。特定非営利活動法人メインストリーム協会(西宮市の自立生活センター)の勤務を経て平成24年11月から令和2年3月まで西宮市社会福祉協議会に勤務。現在は一般社団法人兵庫県相談支援ネットワーク代表理事、内閣府障害者政策委員会委員など。NHKのEテレ「バリバラ」のご意見番。社会福祉士。
この記事をシェアする
カンノ マサカズ/66歳/男
ホーム>政党・政治家>かんの 雅一 (カンノ マサカズ)>日常生活を取り戻す遠隔地避難を NHKのEテレ「バリバラ」のご意見番 玉木氏インタビュー