大阪府の東大阪市議会議員選挙が(2023年9月)17日、告示された。今回も過去3回と同様に市長選と同時に行われるが、注目されるのは5期目を目指す現職の野田義和氏(66)が、大阪維新の会の公認を受けたことだ。これまで推薦・支援を受けていた自民党と公明党からの「転身」である。両党系の対立候補は出ていないが、「裏切られた」と憤る両党関係者は多い。市議会「与党」を目指す大阪維新の会は現有議席を6人上回る14人を擁立した。「転身」市長選は投票率アップと市議会勢力図を変える起爆剤になるのだろうか。過去のデータが教えてくれることを手がかりに、投票率や候補者が超えなくてはならない当選ラインがどうなりそうなのかを探ってみよう。
同市選挙管理委員会によると、定数38に対して立候補を届け出たのは57人。党派別の内訳は、現在の議席順にすると、公明党10人、自民党11人、大阪維新の会14人、日本共産党6人、無所属9人、れいわ新選組、「見張り番、東大阪」、維新政党・新風、宇宙産業を身近にする党、参政党、新社会党、立憲民主党各1人だ。これらの候補者が24日の投票日に向けて、有権者からの支持を1票でも多く勝ち取ろうと競う。
まずは、選挙戦の土俵となる東大阪市とはどんな街なのかを見ておこう。同市ホームページによると、人口は住民基本台帳2023(令和5)年6月末の時点の数字で47万9294人。日本ラグビーの聖地ともいわれる花園ラグビー場が有名だが、もう一つの顔は「モノづくりのまち」だ。市内の製造業の数は5954(平成28年経済センサス活動調査)で全国5位。密集度だと1㎢当たり115.2で全国1位になる。実際、市内を歩いてみるとすぐ町工場に行き当たるといった印象がある。モノづくりが盛んな街だけあって、働き手とされる15歳~64歳の人口比は61.27%。全国平均の59.5%(2023年8月21日発表人口統計、8月1日現在の概算値)を約1ポイント上回る。町工場で汗を流す働き手が多い街といえるだろう。
こんなバックグラウンドを持つ東大阪市議会の党派・会派別の内訳は告示前の段階で、東大阪市議会公明党議員団=10、⾃由⺠主党東⼤阪議員団=9、⼤阪維新の会東⼤阪市議団=8、⽇本共産党東⼤阪市会議員団=5、⾃⺠党⼤志会=1、東⼤阪政⼼会=1、東⼤阪市議会新社会党=1、草莽の会=1、照隅の会=1、東⼤阪翔の会=1という構成だ。公明党、自民党系が過半数を占める構図だが、今回大阪維新の会が議会第一党を狙う候補者を擁立した。連動していると見られるのが、現職市長の野田氏の意表を突く「転身」だ。
野田氏は2007(平成19)年に元市長の不信任決議可決を受けた市長選に無所属で出馬し、自民、公明両党の推薦も受けて初当選。以来、自公から支持・支援を受ける形で4期を務めてきた。今回の市長選にも5期目を目指して出馬するのは当然とされていたが、8月16日に出馬の意向を表明した際、大方の予想をくつがえす言葉が野田氏から出た。いわく「大阪維新の会の公認候補として5選を目指す」。自公関係者に衝撃が走るとともに怒りも噴出した。野田氏が5月に開催した政治資金パーティーに出席した両党関係者から飛び出たのは「裏切りだ‼」という叫びだった。
野田氏の維新公認出馬表明が告示の1カ月前だったこともあり、自民党は独自の候補を立てられなかった。市長選には他に共産党前府議の内海公仁氏(67)=共産推薦と、元東大阪市PTA協議会会長の龍神晃弘氏(51)が、いずれも無所属で立候補した。公明党は自主投票を決めている。こうした市長選の中に潜む自公関係者の「怒りのマグマ」は、市議会議員の選挙戦もヒートアップさせるのだろうか。同市選挙管理委員会が公表している1967(昭和42)年以降の市議選の資料を基に、投票率に影響がありそうな数字などを並べてみた(下表)。
まず投票日の天気。14回の選挙で投票率が一番高かった1967年は「晴れ」だった。1983年も「晴れ」でその前の「曇り」3回を上回っている。しかし、その後2回は「晴れ」で下がり続け、2015年の「晴れ」は2003年の「雨時々曇り」を上回れなかった。天気は投票率を上げる決定打にはなっていないようだ。
では競争率(候補者数÷定数)はどうだろう。競争率を横軸に、投票率を縦軸にとって散布図を作ってみた(下図)。バラバラである。この段階で何か規則性を見つけるのは無理と言わざるを得ない。
同時選挙はどうか。2015年と2019年の数字を見ると相乗効果はあったとはいえない。残念ながら過去のデータにはヒントがなかったとあきらめかけた。しかしである。暦年ごとに投票率の推移をグラフにプロットしたら「線」が見えたのだ(下図)。
線の近くに点が集まっているほど2つの数の間に相関関係が強く、その度合いを相関係数Rで表す。Rの絶対値が1に近いほど相関関係が強いのだが、0.96は驚くほどの強さだ。ただ、統計学的にはデータの数が少ないと言われると思う。その通りだ。
しかし、二桁のデータながらこれほど強烈な相関性を示す直線は無視できないというのが率直な感想だ。暦年と投票率の間にどんな因果関係・メカニズムが働いているのかは謎だが、これが示唆するメッセージは世の中のトレンドを映しているようで不気味である。
それは「投票率は4年ごとに約2.3%ずつ下がり続ける」というもの。このまま下がり続ければ投票率はどんどんゼロに近付き、しまいには誰も投票しなくなるということにほかならない。世の中のみんなで対策を考え、どこかの時点で下げ止まるか上向きに転じさせられることを願っている。
とりあえず上のグラフで求められた直線(回帰式)に「2023」を代入して投票率を予想してみる。………結果は「38.24%」と出た。データから見る限り天気も競争率も同時選挙も投票率アップに結び付かないとすれば、あとは市長の「転身」に対する反発あるいは支持がどれだけ作用するかであろう。
上で予想した投票率を踏まえて市議選の当選ラインを考えてみる。手前みそになるが、実はここで使うのは私が開発した解析システムだ。
駆け出しの新聞記者だったときに地方議員選挙を担当し、当落を見極めるヒントがないだろうかと各地の選挙データを漁って掘り出したある数値間の相関関係を出発点にしている。特定の候補者の強弱には注目せず、投票率を軸に回帰分析などを行って当選ラインを予測するものだ。会社が乗り気でなかったので自前でPCやプログラムソフトをそろえ、仕事外の時間に少しずつ開発に取り組んだ。完成までに十数年かかったが、幸い独自性が認められて個人としての特許も取得できた。
全国の自治体選挙460件余を対象に予測値と実際の結果の検証をしたが、的中率(予測値÷実結果)は平均1.03、最頻値も1.009と高いものとなった。余談だが、北海道のある自治体の選挙をシミュレーションして結果と突き合せたとき、予測値が実結果(数百票台)から100票余も外れたことがあった。落胆したが、後に最下位当選者の支持者130人の郵便ポストから投票所入場券が盗み取られる選挙違反事件があったことが判明。本当は10票程度の誤差で済んでいたことが分かってホッとしたこともあった。
さて本題の当選ラインである。3つのケースを想定しよう。
①は単純に上の回帰式で算出した投票率38.2%で予測したケース。これまでの漸減傾向が表れた場合だ。
②は「怒りのマグマ」が4年分の時を巻き戻し2.3ポイント上げて38.2+2.3=40.5(%)となったケース。
③はさらにヒートアップ効果があって8年分巻き戻し、38.2+2.3×2=42.8(%)となったケース。当選ラインの予測値は以下の通りと打ち出された。ただし、数字は9月16日時点の選挙人名簿登録者数39万8498人を元に計算している。
① 2358票 投票率38.2%と想定
② 2499票 投票率40.5%と想定
③ 2641票 投票率42.8%と想定
なお、このシステムでは実際の当選ラインは70%以上の確率でそれぞれの値の±8.75%の範囲に来ると予測している。
前回の市議選をこのシステムでシミュレーションすると、当選ラインの予測値は2538票と出た。実際の最下位得票は現在2295票だ。差が大きく見える。しかし、これは開票終了の段階で最下位当選した候補者=2421票に居住実態がなかったことが分かって当選無効となり、次点だった候補者が繰り上がったため。数字で見る限り「実結果」は予測範囲(2316票~2760票)に収まっていた。上の余談と同様に「人の逸脱行為が統計を乱す」例である。
さて、今回の市議選。当選ラインを越えて議席にたどり着くのはどんな顔ぶれだろうか。
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