臨時国会が10月3日に召集されます。
参議院議員選挙後も、改憲に前向きとされる勢力が衆参両院のそれぞれ2/3以上の議席を保有していることもあり、憲法改正国民投票に向けた動きが加速していく可能性があります。
しかし、憲法改正国民投票については、実施に向けたルール整備が望まれる点も残っています。いざ、国民投票となった時に「こんなはずでは」とならないために、有権者の立場から望まれる改善点を紹介します。
改善点を考える基礎として、国民投票の概要を確認しておきましょう。
国民投票の特徴は「自由」であることです。
図表1にもあるように、公職の選挙では認められていないような様々な活動が実施できるようになります。
極端な例ですが、24時間いつでも屋外で演説会を開催したり、賛成/反対への呼びかけを行う選挙カーを走らせることもできます。
国民投票の投票日は「国会発議後、60日以上180日以内に実施すること」と規定されています。衆議院の解散総選挙が解散後40日以内に選挙を行うこととされているように、国民投票の実施が決まってから投票までの期間は通常の選挙よりも長くなりますし、国民投票の実施が決まる前から、「実施が決まったら賛成(反対)に投票して」と働きかけることも可能です。
結果として、有権者の立場では、賛成、反対いずれかへの投票を働きかけられる機会が通常の選挙の時よりも多くなることが予想されます。
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国民投票では投票を呼び掛ける側の活動費用に対する制限がなく、収支報告の義務もありません。また、活動への寄付についても制限がかけられていません。そのため、選挙では禁じられている外国の団体から寄附を受けることもできます。
実際に多額の費用を投じようとする人、企業が出てくるかどうかはわかりませんが、賛成、反対いずれかの立場に圧倒的に多くの費用が集まり、使用される可能性があります。
運動費用に上限があり、選挙運動収支報告書によって使途が開示される通常の選挙ですら、活動資金の不透明さを理由とした選挙結果への不満や政治への不信を募らせる事態が生じています。
現状のルールのまま、国民投票が実施されることになった場合、出どころのわからない多額の資金が特定の国民投票運動に費やされたのではないかと疑念を持たれ、国民投票の結果の公正性が疑われることにもなりかねません。
仮に多くの資金を集めたとしても、使い道がなければその影響は限られたものとなりますが、国民投票では広告活動などに大量の資金を投じることができます。
国民投票では広告に関する規制がない中で特に注目したいのがインターネット広告です。
電通による調査では、2021年の日本の総広告費6兆7,998億円のうち、インターネット広告費は39.8%(2兆7,052億円)を占めており、その規模はテレビ(1兆8,393億円)の1.5倍となっています。
インターネット広告の特徴は、利用者のプロフィール情報や過去のインターネット上での閲覧・行動の履歴などを基に表示するものをカスタマイズできることです。
多額の費用を投じることができれば、ターゲットを細かく絞り込んだ広告を作り、数多く配信、接触させることができます。
また、国民投票運動では、ライターに対価を支払って特定意見への投票を働きかけるような原稿や記事、投稿を作成させることも可能です。結果として、広告だけでなくソーシャルメディアやニュースサイト等で目にする記事も、閲覧者の属性を基に選ばれた特定意見への誘導を目指したものばかりになる可能性もあります。
広告や記事として多くの情報が流通するようになる中でポイントとなるのが、情報の確からしさです。
選挙では、虚偽事項の公表罪がありますが、国民投票では同様の規定はありません。
そのため、ソーシャルメディア等で誤りを含んだ情報が数多く流通する可能性がありますし、特定の意見に誘導するために誤った情報を活用した広告が作られ、提供される可能性があります。
また、特定の勢力が大量の資金を投じて誤りを含んだ情報を数多く発信することで、なにが嘘でなにが真実かわからない状態を作り出し、読み手を混乱させることも考えられます。
憲法改正国民投票には最低投票率の規定がないため、混乱し、投票を諦める人が増えれば増えるほど、組織票の効果を大きくすることができます。
ここでもメディアの特性を踏まえた対策が求められます。
ここまで紹介してきた事項に関して、実際に問題が起こる可能性はあるのでしょうか。
エストニアで行われたEU加盟をめぐる国民投票(2003年)では、外国大使館や民間財団が寄附やキャンペーン活動を行い、賛成派が反対派よりも20倍以上多くの寄附を得ています。
イギリスのEU離脱に関する国民投票(2016年)では、残留派、離脱派ともに統計の誤用や虚偽情報を多用していましたが、離脱派がEUに支払う拠出金を過大にPRし、投票日の翌日に離脱派をけん引した政党の党首がその情報が嘘であったことを認めたことが象徴的な出来事となっています。
また、離脱派の投票運動では、対象者を定めた詐欺的行為が顕著であったとする指摘もあります。
国民投票とは異なりますが、アメリカ大統領選挙(2016年)や大阪都構想を巡る住民投票でも選挙キャンペーンにおいて数多くのフェイクニュースが使用されていたことが報じられています。
図表2にあるように、国民投票法の成立過程では国民一人ひとりが自由闊達に議論をできるようにするために、敢えて規制を設けないことが選ばれました。
けれども、国民投票法が成立した2007年のインターネット広告の割合は総広告費の8.6%ほどでしたし、当時はiPhone(日本での発売は2008年)も日本語版のTwitter(2008年リリース)もないような状況でした。
現在に至るまでの間に状況は大きく変わり、海外の事例などからも、適切な規制を設けないことがかえって有権者の思考、判断の自由を妨げることになる可能性が示唆されます。
昨年成立した改正国民投票法では、附則において施行後3年をめどに「広告放送及びインターネット等を利用する方法による有料広告の制限」、「国民投票運動等の資金に係る規制」、「国民投票に関するインターネット等の適正な利用の確保を図るための方策」のそれぞれについて必要な措置を講じることとされています。
例えば自民党の資料では、制定・施行以来1回も改正が行われていない憲法に対して、「国内外の環境に合わせて、憲法にもアップデートが必要」とされています。そうであるならばこそ、同様の理由で憲法を考える環境もアップデートすることが求められます。
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