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1人区の対決構図、重点複数区の激戦……参院選の各党の思惑は?(ジャーナリスト・鈴木哲夫)

2022/5/10

鈴木哲夫

鈴木哲夫

参院選「自民党圧勝」ではない……?

参院選の予測が様々なメディアで展開されている。総じて言うと「与党優勢」。他にも「自民党の野党分断策が奏功」「野党統一候補遅々と」など。

そんな中で立憲民主党はGWを機に独自の世論調査を実施した。決して楽観できる状態ではないが必ずしも巷間予測されてきた自民党圧勝ではなかった。

「1人区の統一候補は本部から一気に方向づけして行くのではなく、地域事情を第一にして地域ごとに慎重に進めている。政党同士の大きな枠組みで行こうとすると、今回独自路線の国民民主党との調整が揉めてマスコミなどにもネガティブに報道されてしまうから、地域に任せている。これが一つ一つまとまってきていてそうした1人区はいい勝負になってきている」(立憲民主党幹部)

与党vs野党の勝敗を最終的に決定づけるのはやはり32ある1人区だ。注目は?と問われれば、まずは「1人区」の勝敗だろう。

野党が一対一の対決構図にしなければならないと2016年の参院選から共産党も含めた統一候補を本格的に模索し始め、前回19年は与党22勝。野党は10勝だった。立憲幹部は「参院で拮抗するためにせめて14勝を目指したが及ばなかった」と振り返る。今回はさらに1人区の上積みを目指していたが、昨秋の総選挙以降共産党との連携に批判的な国民民主、連合、一部メディア報道などが相まって立憲主導の大々的な統一候補は今回影を潜めてきた。

野党の地域ごとの連携は水面下で進みつつある

だが、地域ごとの連携は水面下で進みつつある。じつは、私が長く取材してきている与党の選対のプロも、1人区について意外にもこんな慎重な見立てを話している。

「1人区は東北、北信越、九州の合わせて11が分からない。野党は二桁を切るという予測もあるがあくまで現時点。これから物価高などの経済対策、新型コロナ、ウクライナなどへの対応次第で世論は動く。何より、野党の一本化ができてきた地域で一定の巻き返しは必ずある。まだまだ予断を許さない

今回の参院選の特徴として、特に立憲が困惑してきたのが国民民主との関係だ。

国民民主は、来年度予算案に賛成したほか、政策別に自公と協議するなど与党寄りの姿勢を見せ、参院選においても立憲の共産などとの統一候補に反発して独自に日本維新の会やファーストの会などと選挙協力するなど、兄弟政党と言われてきた立憲に一線を画してきた。

ところが、立憲は世論調査の結果も見ながらGW前からしたたか戦術に切り替えつつある。「振り回されるなという意思統一が党内にようやくできてきた」と話すのは立憲幹部のベテラン。

元々国民民主との一定の確執はあったから予想の範囲内だ。しかも、今回の動きは地域ごとの地域事情に過ぎない。それを与党や一部マスコミがことさら対立構図に仕立て両者の分断を図っている」(同)

たとえば、注目選挙区の一つでもある京都。国民民主と維新が選挙協力し立憲の現職である福山哲郎前幹事長に対して対抗馬を立てた動きが出た。

しかし、真相はというと、京都は国民民主の前原誠司選対委員長と福山氏の折り合いが悪く、「前原氏は早くから対福山候補を探し、地元のテレビ関係者などに声をかけていた。つまり、ずっと続いてきた前原vs福山の構図であり政党同士の次元の話ではない」(同ベテラン)のである。案の定この選挙協力については、内情が前原氏の個人の力学だったことや、玉木雄一郎代表とのすり合わせがなかったなど国民民主の党ガバナンスの欠陥も次第に明らかになった。

立憲民主の「大人の現実的戦術」とは

ではここへきての立憲の選挙戦術はどう変化しているか。

簡単に言えば“大人の現実的戦術”。たとえば岐阜。隣の愛知が国民民主の牙城でもあり国民民主が候補を出すなら立憲は引こうという気遣い。愛知の国民民主幹部とは理解し合えている。参院選が終わってもし国民民主内に与党との距離など路線対立などが生まれれば、出てくる人は我々が受け入れますよという下地にもつながる」(前出幹部)

私は、GW前後に地方の選挙区を取材中、居合わせた立憲の泉健太代表に選挙戦術について訊いた。

「国民民主がどうであろうがまず立憲だけのことを考えて(選挙を)やる。1人区についても立憲がまず旗を掲げ一緒にやれるなら共産だってどうぞと」

――裏では国民民主と話もしているようだが…。

「岐阜だけじゃない。岡山、滋賀…」

――要は、国民民主さんどうぞご自由に。でもうちは野党の真ん中で旗を掲げていますから戻ってくるなら場所はあけておきますよということか。

「そうです」

これまで全国を取材して行くと、立憲、国民民主双方の地方組織、支持労組幹部や支援者などの中には、方向性のはっきりしなかった立憲の選挙戦術や玉木執行部に不安を口にする人が多かった。それは、参院選ではなく早くも来年の統一選に向けての地方ならではの不安だった。

「国民民主が与党に近づいているなどと言われ、来年我々はどの看板で戦うのか。できれば参院選は野党という旗をはっきり掲げて欲しい」(九州の産別労組幹部)

立憲が選挙戦術を明確にしつつあるのはそうした声に応えるものでもある。ただ、本当に巻き返せるか、与党と対立構図を鮮明にする公約の発信など課題だ。

再注目の複数区・東京は……

複数区での最注目は東京。ここは単に誰が勝つだけではなく、じつは、いまの政治状況に対しての国民の意識が表れるという点での指標区だ

定数は6だが、上位以外は常にときの政局によって当選者が入れ替わる。通常複数区では、例えば最後の1議席を二人で激しく競い合うといったケースが多いが東京は違う。

「今回確実に上がりそうなのは3人。そして残る3議席を各党バラバラのざっと6人が横並びで争うという極めて大激戦、混とんとした形になるのではないか」

そう話すのは自民党都連幹部。私の取材とも合致する。

確実な3人とは、自民党の2候補のうちの一人、公明党の竹谷とし子氏、立憲の蓮舫氏。そして残る3議席を争う6人というのは、いまのところ自民党のもう一人、ファーストの会の荒木千陽氏、共産党の山添拓氏、立憲のもう一人の松尾明弘氏、維新、そして私はここにれいわ新選組のすでに出馬表明している依田花蓮氏ではなく山本太郎氏自身が出馬する可能性もあると思っている。

自民党は現職の朝日健太郎氏と新人で元おニャン子クラブの生稲晃子氏の2人を擁立するが、過去東京で2人擁立した際の票割りで苦い体験がある。07年の参院選では新人だった丸川珠代氏に組織戦が偏ったことで現職で勝利間違いなしとされていた保坂三蔵氏が落選。東京の場合当選ラインは50万票とも言われ、120万票はあるとされる自民票をしっかり割れば二人とも当選だが、「票割がうまく行くか。いつもその調整に苦心する。保坂さんの落選がトラウマだ」(前出都連幹部)と選挙戦の課題を明かす。1議席はとるがどちらかはまだ分からない。公明、そしてどんな選挙でも個人票を固める蓮舫氏は堅い戦いを展開しそうだ。

そして問題は残る3議席に6人。居並ぶのは、あらゆる与野党候補。女性候補あり、改憲から護憲派あり、消費税減税を訴える者、支持を徐々に伸ばしてきた維新への評価、野党主戦論展開のれいわ、小池百合子都知事の今後の政界活動を占うファーストの会、新型コロナ対策や経済対策…。この6人はそれぞれが個々に現状の政治課題を切り取って訴え、戦うことになる。

それに対する有権者の投票行動は、つまり言い替えれば、このうちだれが当選するかによって同時に国民が最もいま重要だと考える政治テーマが浮き彫りになるということだ。

参院選は「政権選択選挙」ではないとされるが果たしてそうか?

このほか、各党を取材すると複数区ではこんな選挙区が挙がった。

「複数区では前回2議席をとった千葉、神奈川、そして東京で2議席目を今回もとれるか」(自民党幹部)

「複数区では北海道の2議席目をとれるか。そして神奈川。ここも2人擁立しているが共倒れの可能性もある。直前に候補一本化などもあるかもしれない。執行部の決断にかかっている」(立憲選対メンバー議員)

また公明と維新選対幹部はともに兵庫を挙げた。3議席を自民、公明、維新、そこへ立憲も加わって争う。公明にとっては絶対に落とせない選挙区議席、維新は大阪以外の勢力拡大でここは絶対落とせない。

参院選は政権選択選挙ではないとされるが果たしてそうか。この先衆院任期まで解散がないとすれば、じつに向こう3年間の経済、安全保障など極めて重要政策を決定づける事実上の政権選択である。今回、有権者の一票にはその重みがある。(了)

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鈴木哲夫

鈴木哲夫

1958年生まれ。早稲田大学法学部卒。ジャーナリスト。テレビ西日本報道部、フジテレビ報道センター政治部、日本BS放送報道局長などを経て、2013年6月からフリージャーナリストとして活動。

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