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敗北の背景は菅政権不信? 横浜市長選挙が自民党総裁選に与える影響(ジャーナリスト・鈴木哲夫)

2021/8/24

鈴木哲夫

鈴木哲夫

横浜市長選の結果は「政局に直結する」

「地方選挙だから関係ないと今回は逃げられない。政局に直結する」

選挙結果は元々厳しい見通しだった。しかし、自民党の3回生議員はショックを隠し切れずそう話した。

横浜市長選挙が8月22日に投開票された。何と言ってもここは菅義偉首相のおひざ元。その菅首相が全面的に応援したのが国家公安委員長など歴任した元衆議院議員の小此木八郎氏。父親は元衆議院議員の故小此木彦三郎氏だが、菅氏は彦三郎氏の秘書が政界入りの第一歩だった。選挙では当然兄弟のような八郎氏を推し、菅氏の側近らが選挙期間中選挙事務所に入るなど全面支援した。

小此木氏の国政からの転身出馬は周囲を驚かせたが、自民党の横浜市議はこんな解説をした。

「横浜は、IR(カジノを含む総合リゾート)で誘致派の菅氏と、反対派でハマのドンと呼ばれ港湾を仕切っている藤木企業の藤木幸夫会長がぶつかって、市の政財界を二分してきた。このまま行くと横浜の分断が続く。そこで小此木氏が出馬した。小此木氏は菅氏ともいいが藤木氏とも関係は悪くない。そこでとりあえずカジノ誘致を棚上げして立候補し、当選したら菅・藤木両氏の間に入るなど、とにかく新たな着地点を探そうという狙いがあったのではないか。菅氏はそれもありと判断したんだろう。一方藤木さんはそう簡単には受け入れられなかったかもしれないが…」

いずれにしても強い地盤もある小此木氏が圧勝してカジノ問題は今後時間をかけて再検討という展開のはずだった。

ところが、なんと勝ったのは立憲民主党推薦で共産党など実質野党が共闘して応援した横浜市立大元教授の山中竹春氏だった。

「横浜市長選は『小此木氏が負けたというより政権が負けた選挙』」

小此木氏優位の当初の見立ては、選挙戦が本格的に始まってすぐに様相が一変した。

横浜市民、有権者がカジノといった地域の争点ではなく、まさに国政を争点としてこの市長選をとらえ始めていることがマスコミや政党の世論調査で明らかになってきたのだ。つまり、新型コロナ対策などでの菅政権に対する批判が、その菅首相が支援している小此木氏にももろに向けられたのだった。

選挙前の世論調査では、小此木氏が2位以下に差をつけリードしていたが、告示後は期日前投票の出口調査などで山中氏が支持を伸ばし、中盤で小此木氏を突き放し、そのまま投開票日までリードし続けた。菅首相や小此木陣営は、地元財界など応援を一本化させて行くなどしたが及ばなかった。

「選挙戦に入って街頭や会合では自民党支持者からも『新型コロナ対策は何やってるんだ』『神奈川は東京より医療体制が深刻。菅首相は分かっているのか』と。この選挙は市長選なのにもう途中から政権のコロナ対策が争点になった。小此木氏が負けたというより政権が負けた選挙だった」(前出市議)

衆院選に向けて危機感を増す自民党内

冒頭の議員のように自民党内では、秋に行われる総選挙へ向けての危機感が増している。自民党の閣僚経験者の一人は「それは菅首相で戦えるのかということと同義語だ」とした上でこう続けた。

「じつは今年に入ってからの大きな地方選挙で言えば北九市議会議員選挙で自民党の現職6人が落選したり、東京都議選では50議席近く獲得できる予測だったのに33議席しか取れなかったりした。北九州はバックに麻生太郎副総理や武田良太総務相といった実力者がいたにもかかわらずだ。選挙現場では地方のテーマではなく、新型コロナに関する菅政権への批判や五輪への対応が有権者から批判された。横浜もその延長線上だ。今後総選挙までの間に総裁選などが行われればそこでは『菅おろし』の動きも出る可能性が出てきた。横浜市長選が火をつけた」

日程通りだと、自民党の総裁任期は9月。そして衆議院議員の任期満了が10月。

ただ、首相が解散を行使すれば総裁選の前に総選挙が行われ順番が入れ替わる。じつは菅首相が描いていたシナリオはずっとそれだった。

再選を狙う菅氏。日程通りに行けば総裁選が先。しかし、このところ支持率が下がり、党内に総選挙を考えれば国民的人気の高い総裁を選ぶ動きが出る可能性はある。菅おろしだ。それを阻止するためには、総裁選の前に菅氏が自らの手で解散総選挙を仕掛け、自公で過半数を獲得するなど勝利すればそのあとの総裁選でもう菅氏をおろす理由はなくなる。そう思い描いてきた。

ところが、ここへきてそのシナリオの壁となる不確定要素が新型コロナの感染者の爆発的な広がりだ。連日全国で2万人超の感染者が続き緊急実態宣言も範囲は拡大している。

「こんなときに解散して総選挙をやるなど国民が許さない。このまま感染が広がり医療体制がひっ迫しているなら菅首相は解散を打てなくなる」(自民党ベテラン議員)

菅首相周辺はこれに対してこう話している。

「緊急事態宣言は9月12日まで。首相はワクチンに全力を挙げていて、重症化を防ぐ抗体カクテルをもっと自由に使えるように規制や体制を見直している。12日で宣言解除となれば、総裁選が告示されるまでのわずかな期間だが、解散に踏み切るタイミングはゼロではない。じつは緊急事態宣言の期間について9月一杯という政府内の意見もあったが、最終的に12日までにとどめたのは勝負できるタイミングをギリギリまで諦めずにキープしておきたいということだ」

しかし、現実は、感染の収束が難しいという見方が専門家などの間でも支配的だ。東京の感染症専門医の一人も「デルタ株は40代~50代が多く重症化しているが、入院加療期間が長い。いま感染者が下がってきても、病床ひっ迫は当分続く。9月中旬に一気に改善されることは難しいのではないか」と話す。

したがって、解散が封じられることになれば、総裁選が先ということになる。いったい誰が出馬しどんな総裁選になるのか。

衆院選を「菅総裁」で戦うのか、それとも……

いま自民党内では、二階俊博幹事長や安倍晋三前首相などが、総裁はこのまま菅氏で行くべきだというニュアンスの発言をしている。だが、本稿を執筆中の現時点で(8月23日)総裁選日程が正式に決まった上で正式に「菅支持」と公言したわけではない。自民党ベテラン議員は「二階幹事長にしても安倍氏にしてもまだ探っている。総選挙や自分の立場を考え、いくらでも前言を翻す可能性はある」という。

たとえば二階幹事長。

「菅氏が再選すれば二階氏も幹事長継続。会見で『国民も望んでいる』とまで言って菅氏を推したのはそんな理由ではないか。しかし、総選挙に負けたら選挙責任者の幹事長も引責となる。選挙に勝つということを第一に考えれば、今後の支持率などを見ながら、選挙に勝てる顔を担ぐことだってまだ十分にある。変幻自在の二階氏、ギリギリまで分からない」(同ベテラン)

安倍氏はどうか。

いまのところ、「去年、自分の都合で退陣して菅首相に引き継いでもらった。その恩がある」と周囲に話していると伝わっているが、こちらもまた、総裁選日程などが具体的に決まった上での正式な「菅氏支持」を公言していない。

ある派閥の領袖はこう話す。

「安倍さんはキングメーカーを狙っていると思います。本当に誰を推すかいまはまだ支持率や総裁選、総選挙日程などを見ている最中でしょう。それに麻生太郎副総理は安倍さんの盟友ですからこの二人は一緒に総裁選で動くでしょう」

総裁選を目指す動きは着々と

現時点で総裁選に出馬の動きを見せているのはまず下村博文政調会長。

下村氏は安倍氏と同じ細田派。昨年の総裁選には安倍政権を引き継ぐために出馬しようとしたが、細田博之会長に止められたという。「細田会長は、安倍首相を7年8カ月も自民党は支えてくれたから、今回はうちの派閥からは出さずに他の誰かを応援しなければと下村氏を説得。下村氏は今回は引くが次は出るとこの時から決意していた。推薦人はすでに集まっていて、安倍氏の応援がなくとも出ることを決めている」(下村氏を支持する細田派議員)

岸田文雄前政調会長も準備万端だという。

「勝つためには岸田派だけでは足りない。本人は安倍、麻生両氏の支援が不可欠でそれをじっと待っている。安倍・麻生両氏の本命候補は岸田氏と見る向きも多い」(前出ベテラン)という。

茂木敏充現外相も意欲満々だ。茂木氏は長く総裁候補から遠ざかっている竹下派に所属する。同派はかつて竹下登、小渕恵三、橋本龍太郎と首相を輩出してきた栄光の派閥だ。そろそろ派閥としても、総裁選に候補を出して党内の存在感を出したいところ。未だに影響力を持つ青木幹雄元自民党参院会長は「いつか本命は小渕優子氏」(青木氏氏周辺)を考えているとされるが、茂木氏が出馬する可能性は高い。

野田聖子幹事長代行も、必要な20人の推薦人集めに努力した上で出馬する意向だ。

最近では女性で高市早苗前総務相も出馬表明した。ただ、こちらも推薦人が集まるかどうかがカギだ。

じつは、高市氏を担ごうと動き始めたのは、かつて稲田朋美前幹事長代行を担いで保守の勉強会を立ち上げていた男性メンバー議員だった。稲田氏が、LGBTなどをめぐってリベラル路線の色を出し始めたことで彼らは稲田氏と決裂。彼らは別の保守勉強会を立ち上げ、総裁候補にとターゲットにしたのが保守派の高市氏だった。高市氏本人に会い出馬を促したのだという。

石破氏は表向きには「いま自民党が一つになるとき」などと菅再選支持とも取れる慎重な発言をしているが…。

「自分の派閥だけでは推薦人の20人に足りないが、他派閥の石破氏の盟友らが名前を貸すと約束している。石破氏もまだ様子を見ている。世論調査で国民的人気も高くこんなチャンスはない。彼が出ないはずがない」(石破氏に近い自民党ベテラン議員)

横浜市長選の敗北&総裁選で秋の一大政局に……?

こうやって見ると、菅氏が解散を打てずに総裁選に突入した場合、波乱含みの総裁選が十分にあり得るということだ。

選択肢が限られる菅氏だが、古くから菅氏を知る民間シンクタンクの代表は言う。

「菅さんという人は正攻法の人。総裁として解散のタイミングをはかりそして打つ、打てなければ堂々と総裁選に臨む。勝てばもう一度やる。負ければ引く。そんな境地に入っていま新型コロナに全力を挙げながらスケジュールをこなしているんだろう。地位に恋々として二階さんや安倍さんに土下座して頼み込むようなことはしないはず」

横浜市長選の敗北は菅おろしに拍車をかけるのか。秋の一大政局に突入する。(了)

(※編集部注 8月25日一部内容に訂正を行いました)

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鈴木哲夫

鈴木哲夫

1958年生まれ。早稲田大学法学部卒。ジャーナリスト。テレビ西日本報道部、フジテレビ報道センター政治部、日本BS放送報道局長などを経て、2013年6月からフリージャーナリストとして活動。

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