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アメリカ大統領選挙 トランプ/バイデン両陣営のフェイスブック広告出稿スタイルから学べることは?

2020/5/21

市川裕康

市川裕康

新型コロナウイルスをめぐる報道が連日続く中、今年の11月3日(火)に開催を予定されている米国大統領選挙までは既に6ヶ月を切りました。

現職のトランプ大統領による新型コロナウイルスの危機対応の評価を問う形での選挙になりそうであることが広く指摘されていますが、今回はトランプ、バイデン両候補のフェイスブック広告の出稿スタイルに注目してみたいと思います。なぜなら、プロフィールごとに細かくターゲットを絞り込む形で有権者に発信しているメッセージを紐解くことで、大統領選の本質を深く知り、今後の日本のデジタル選挙活動に活かせるヒントが秘められているのではないかと思えるからです。

今回はフェイスブック社が提供している広告ライブラリというサービスを活用して、様々なデータを確認してみました。特に「社会問題、選挙または政治に関連する広告」に関しては「Facebook広告ライブラリレポート」というページが存在し、政治問題、選挙または政治に関連する広告のデータの検索、絞り込み、ダウンロードが可能です。全体の合計消化金額の他に、広告主ごとの消化金額、地域別の消化金額を簡単にチェックすることも出来ます。このツールは2016年の大統領選の際にフェイクニュース、ロシアからの干渉、フェイクニュースなど取り扱いに関し多くの批判を受けたフェイスブック社が政治広告の透明性の向上を目指して作成されたもので、誰でも閲覧が可能なサービスです。

Facebook社が提供する広告ライブラリーレポートより(米国2020年大統領選挙 消化金額トラッカー

例えば上記の図では広告出稿額の推移について、米国時間の前日までのデータが一日単位で閲覧可能です。3月上旬の民主党予備選のスーパーチューズデー直前にバイデン候補が多く出稿していたことが読み取れますし、5月上旬からはトランプ候補が出稿額を増やしていることも読み取れます。リンクをクリックすることでいつでも過去の出稿状況の動向をチェックすることが出来ます。

次に、トランプ大統領バイデン元副大統領のそれぞれのフェイスブックページの広告ライブラリーページを閲覧することで、2018年5月からの広告出稿額がそれぞれ約4,000万ドル(約43億円:トランプ氏)、1,400万ドル(約15億円:バイデン氏)であることが分かります。直近に出稿している広告の画像、メッセージ、出稿予算額、ターゲット地域なども閲覧することことが可能です。

個別の広告素材を見てみると、例えば今日(5/20)にアクティブに出稿されていたのは、トランプ大統領の誕生日に向けて支援者からのお祝いのメッセージを募る内容です(トランプ大統領の誕生日は1946年6月14日)。広告素材は静止画像、動画メッセージなどの21種類もの異なるパターンがあり、テキストも少しずつ表現の異なるものが用意されています。更に、それぞれの素材に対し以下の図からも分かるように「29」、「26」、「32」、と数字が掲載されていますが、配信エリアや属性などで振り分けた合計「758」ものカスタマイズしたキャンペーンが展開されていることが分かります。広告テキストでは「100万人のメッセージを届けてください」と呼びかけられていて、今回メッセージを送付することで支援者からの名前、郵便番号、メールアドレス、携帯電話番号の情報を入力してもらうことを目指したキャンペーンであることが分かります。

バイデン候補のページを見てみると、同じ様に数多くの少しずつ異なる広告素材が用意されています。現在アクティブに配信されている広告メッセージはトランプ氏を破るために5ドルでも10ドルでもいいから寄付をしてほしい、と募る内容です。元民主党大統領候補で、撤退後に現在はバイデン氏を支持しているエリザベス・ウォーレン上院議員や、オバマ元大統領などの動画や画像を用いることで31種類の広告素材が使われています。また属性や地域でのターゲティングは682パターン用意されていて、それぞれ100ドル以下程度の予算が配分されていることが分かります。また、このメッセージはインスタグラムでも配信されていることが分かります。

広告の出稿内容に関し、今回は両者ともに穏やかな内容ですが、5月上旬から先週にかけては中国に対して甘いスタンスをとってきたとして、バイデン候補を面白おかしく馬鹿にして批判する動画メッセージが掲載されていました。また、バイデン候補はトランプ大統領による新型コロナウイルス対応がいかに不適切で国民を危険に晒してきたかを厳しく批判する内容でした。

トランプ陣営によるバイデン元副大統領を中国寄りとして批判する広告動画(2020年5月13日)

バイデン陣営によるトランプ大統領の新型コロナウィルス対策の失策ぶりを批判する広告動画(2020年5月12日)

こうした広告素材を眺めてみると、日本で流れる大きな米大統領選の動向のニュースを更に深堀りする形で、現地での雰囲気、緊張感を感じることができるのではないかとと思われます。また、広告メッセージを細かくカスタマイズすることで手間とお金をかけて「最適化」を試みている現場の試行錯誤の様子を伺い知ることができます。

これらのフェイスブック広告のカスタマイズ、マイクロターゲティングは単なる広告の効果を高めるためのテクニックの一つ、と思うかも知れません。ただ、過去を振り返ると、2016年の大統領選の際、あるフェイスブック社幹部は当時のトランプ陣営のフェイスブックの運営について「今までに見たキャンペーンの中で唯一最高のキャンペーンだ(the single best digital ad campaign I’ve ever seen)」と言わしめた、と言われています。

『フェイスブックの社員がいかにトランプ氏の勝利を支援し、2020年は反対側を支援するか』2019年11月24日付ウォールストリート・ジャーナルの記事よりHow a Facebook Employee Helped Trump Win—But Switched Sides for 2020

当時のトランプキャンペーンチームの中で「MVP」として称賛を浴びた、フェイスブック社から出向して常駐していた社員、ジェームズ・バーンズ氏という人物がいます。多くのフェイスブックの運用ノウハウを提供し、トランプ政権の誕生に大きな貢献をしたとして、後にメディアなどで紹介され話題になっていました。

彼はその後退社し、昨年10月から民主党のデジタル戦略支援のアクロニム(Acronym)という非営利団体において、トランプ政権を打倒するために今までのノウハウを提供していることが、先日のニューヨークタイムズの記事でも改めて紹介されています。

『トランプ氏を支援したデジタル広告戦略は今回彼に対抗するために使われる』2020年4月28日付ニューヨーク・タイムズの記事より
How a Digital Ad Strategy That Helped Trump Is Being Used Against Him

残り6ヶ月弱の米大統領選の中で、どのようなフェイスブック広告の戦略、手法が試されることになるのか、新しいデジタルキャンペーンの兆候を掴むためにも、折に触れて広告ライブラリーページを参照してみてはいかがでしょうか?

カバー画像:Photo by visuals on Unsplash

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市川裕康

市川裕康

株式会社ソーシャルカンパニー 代表取締役 NGO団体、出版社、人材関連企業等を経て2010年3月に株式会社ソーシャルカンパニーを設立。メディアコンサルタントとして、国内外の政府機関、国際機関、企業、報道機関、NPO団体などに対し、海外デジタルメディアのトレンド調査・執筆・講演・コンサルティング活動に従事。『現代ビジネス』での連載(2010-2015)や著書に『Social Good小事典(講談社)』がある。1994年同志社大学(法学部政治学科)卒、1996年米国アマースト大学(Political Science専攻)卒。1970年静岡県浜松市生まれ。

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