4月7日の緊急事態宣言から「人との接触機会の8割削減」を目指す中にあっても「不要不急の外出には当たらない」(4月7日参議院議院運営委員会・安倍首相、等)と位置付けられている選挙は、今も各地で行われています。
規模の大きい選挙に限定してみても、先月行われた衆議院議員補欠選挙(静岡4区)に続き、29日には沖縄県議会議員選挙、来月18日には東京都知事選挙がそれぞれ告示を迎えることになります。
選挙を行うことに関し新型コロナウィルスの感染リスクが指摘されることもありますが、新型コロナウィルスが猛威を振るう中で世界はどのように選挙と向き合ってきているのでしょうか。
今年、世界で最も注目される選挙であるアメリカ大統領選挙にも新型コロナウィルスが影響を及ぼしています。
全米州議会議員連盟(NCSL)のまとめでは、16の州で大統領選挙における予備選挙の延期や、方法の見直しが行われていることが確認できます。
例えば、アメリカ国内で最も多くの新型コロナウィルス感染者のいるニューヨーク州では、6月への延期を決めていた大統領選挙の予備選挙が中止となりました。
また、それ以外の15の州では大統領選挙の日程を延期し、投票方法の見直しに取り組んでいます。
4月に投票を行ったアリゾナ、ワイオミング、オハイオの各州では対面での投票を取りやめ、郵便投票による選挙を実施しました。(オハイオ州は1か所でのみ対面投票を実施)
4月7日に投票日を迎えたウィスコンシン州では、民主党系の知事が投開票日及び不在者投票の申請期間の6月までの延期や郵便投票への投票方法の変更を目指しましたが、共和党系の勢力が阻み、当初の予定通り4月7日に予備選挙が実施されました。
その後、州内の新型コロナウィルス感染者を調査する中で、感染者の中に予備選挙での投票者ないしは投票所スタッフが少なくとも52名含まれていることが州政府から報告されています。この予備選挙に関連する感染者数が発表されたのは4月29日ですが、その時点でウィスコンシン州内で確認された累計感染者数は州政府の統計データによると6,289人でした。
なお、ウィスコンシン州では投票所として屋外のスペースを使用したり、日本のスーパーマーケットやコンビニエンスストアにみられるように投票用紙の受け渡しや回収を行う場所にビニールカーテンを設置する、投票に使用する鉛筆のアルコール消毒を行うなどの対策が行われていたことも現地の映像で確認できます。
フランスでは統一地方選挙が3月15日と22日の日程で予定されていました。1回目の投票日にあたる15日は午前0時から食品マーケット、薬局、ガソリンスタンドなどの生活必需品の販売店以外の不要不急のすべての店が閉鎖される中での投票となりました。
現地からの報道では、投票所への手指消毒の備え付けや、投票待ちの列が1メートルの間隔を保持するようにするなどの対策がとられていたことが確認できますが、内務省の発表によれば投票率は44.66%と2014年の前回投票率63.55%を大きく下回る結果となりました。
その後、国内での様々な意見なども踏まえて、決選投票を予定していた22日の投票は延期されています。延期後の決選投票は6月の実施を予定していますが、新型コロナウィルスの感染拡大状況を踏まえて政府が5月23日までに実施の可否を判断することになっており、6月に実施できない場合は1回目の投票結果は無効になります。
なお、全市町村のうち86%で2回目の投票(決選投票)を待たずに議席が確定したことが現地紙で報じられていますが、当選した議員の互選による市町村長の選出は外出規制の状況下では難しいと判断、延期されており、少なくとも5月10日までは現市町村長等が行政を続行することになっています。
また、地方議会議員の公職の兼職が多くみられるフランスでは、フィリップ首相などの現職閣僚も複数統一地方選挙に立候補しています。ル・アーヴル市議会議員選挙に立候補したフィリップ首相は1回目の投票では過半数の票を経ることができずにまだ当選が決まっていないなど、重要閣僚にも影響する選挙が延期されていることも日本と比較したときに注目される事柄です。
イギリスでは、5月7日にロンドンやマンチェスター、リバプールなどの市長選挙を含む複数の地方自治体での選挙を予定していましたが、コロナウィルスの感染拡大を受けて対象の選挙を1年間延期することを決定しています。
延期をされる1年間は引き続き現職の市長や議員が職務にあたることになります。
延長に際して選挙管理委員会が発表した声明において、「選挙が延期されたことで地方自治体が現場への公共サービスの提供に集中できるようになり、また有権者や候補者が(新型コロナウィルスに感染する)リスクを軽減することができるため、選挙延期という政府の決定を支持する」旨が表明されていたことが印象的です。
韓国では4月15日に総選挙が行われました。
「世界各地に新型コロナウィルス感染が広がってから全国規模の選挙が実施されるのは初めて」(CNN)と報じられるなど、パンデミック下での選挙の実施方法に世界中からの注目が集まるなか様々な工夫が講じられました。
具体的には、投票所での検温と体温に応じた投票場所の区分け(37.5度以上の人は定期的に消毒される特別ブースで投票)、投票所の入り口でのマスクと手袋の配布、1メートル以上の間隔をあけての待機などです。また、感染者の隔離施設にも投票ブースが設置されたり、郵送による不在者投票が行えるようにするなどの感染隔離者向けの対応も講じられています。
他にも、投票当日の混雑を避けるために期日前投票が積極的に利用され、韓国中央選挙管理委員会によると期日前投票だけで26.69%の投票率を記録しています。なお、韓国で期日前投票を行うことができたのは、10日と11日の2日間だけでした。
日本貿易振興機構のレポートでは、4月25日に予定していた国会総選挙の延期(スリランカ)や、8月29日に投開票を予定していた統一選挙の延期(エチオピア)など、新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受けて各地で選挙の延期が決定されていることが報告されています。
民主主義・選挙支援国際研究所(International IDEA)の調査では、2月21日から4月30日までの間に少なくとも52の国と地域で選挙の延期がなされていることが明らかにされています。
図1_新型コロナウィルスの感染拡大を受けて選挙を延期した国、地域
これらの国で検討されている対策を大別すると、選挙期日の延期、感染予防対策などの投票所環境の整備、郵便投票の導入が主な対応策として挙げられます。
なお、日本でもしばしば議論されるインターネット投票は、9月に総選挙を予定しているニュージーランドにおいて在外投票者に提供している仕組みを若干拡張することを検討するとしているものだけでした。ニュージーランドの選挙管理委員会のウェブサイトでは在外投票者に提供しているこの仕組みを大規模に拡大することはできなかったとされていることも確認できます。
アメリカでも海外からの投票に限り、e-メールやfax等の電子的な手段を用いて投票する仕組みが用意されている州がありますが、民主主義・選挙支援国際研究所や全米州議会議員連盟などの情報からはそれらの手段の拡大を行っている例は確認できません。
日本においても選挙を行うことについて、選挙運動や投票、開票活動において人が密集する可能性を指摘する声があります。また、選挙が行われたとしても選挙活動が制約を受けることで有権者が候補者を選びにくくなることや、多くの選挙で投票率が低下していることが指摘されています。
各国の取り組みでは、立法措置も伴いながら選挙期日の延期などが行われている例が多くあります。国によって事情は異なりますが、「選挙は住民の代表を決める民主主義の根幹」(4月7日参議院議院運営委員会・安倍首相)とされ、また緊急事態宣言の延長によって国民の様々な苦境が報じられている中で望ましい選挙の在り方とはどのようなものでしょうか。
緊急事態宣言下での選挙に関する国会での論戦が報じられる機会がここしばらく減少してきていますが、多くの人の暮らしへの影響や、人の移動、接触が見込まれる大型選挙を前にして、他国の事例なども参考に、いま必要な「選挙の在り方」に対する対策が講じられていくことが望まれます。
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