東京都新宿区選挙管理委員会が9月2日、今年4月の新宿区議会議員選挙に立候補したNHKから国民を守る党の松田美樹区議に対して、区内に居住実態がなかったとして当選を無効と判断しました。
区選管は、松田氏が届け出た住所に「生活の本拠」があったとは認めれられず居住実態がなかったとしてこの判断を下したとのことです。
これに対して松田氏は水道やガスの量だけで判断されるのはおかしい、と主張し不服申し立てをする意向を示しています。
今回はわかりにくい選挙の候補者の居住実態や過去の事例での判断、今回の事例の今後の展開、選挙における異議申出の流れについて、識者の方の声も交えて解説していきます。
今回松田氏の当選無効を判断した根拠の「生活の本拠」や「居住実態」とはどういうことなのでしょうか。
被選挙権(選挙に立候補するための権利)と選挙権とは条件が異なります。
地方選挙の選挙権・被選挙権は公職選挙法第9条2項・3項、第10条3~6項に規定されています。
【公職選挙法】
第9条
2項・日本国民たる年齢満十八年以上の者で引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有する者は、その属する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する。3項・日本国民たる年齢満十八年以上の者でその属する市町村を包括する都道府県の区域内の一の市町村の区域内に引き続き三箇月以上住所を有していたことがあり、かつ、その後も引き続き当該都道府県の区域内に住所を有するものは、前項に規定する住所に関する要件にかかわらず、当該都道府県の議会の議員及び長の選挙権を有する。
第10条
3項・都道府県の議会の議員についてはその選挙権を有する者で年齢満二十五年以上のもの
4項・都道府県知事については年齢満三十年以上の者
5項・市町村の議会の議員についてはその選挙権を有する者で年齢満二十五年以上のもの
6項・市町村長については年齢満二十五年以上の者
つまり今回のような区議選の被選挙権は、
・年齢25歳以上で
・3か月以上区域内に住所がある
ということになります。
もう少し詳しく考えてみると「住所」とは何か、ということになります。
住所の定義は民法第22条で次のように定められています。
【民法】
第22条
各人の生活の本拠をその者の住所とする。
公選法や民法での住所は単に住民票上の住所がどこであるか、ではなく生活の本拠であるかどうかが鍵となります。このことを報道などでは「居住実態の有無」として扱うことが多いです。
それでは選挙への立候補で必要な生活の本拠・居住実態とはどういうことなのでしょうか。
元刑事で在職中は選挙違反や組織犯罪の捜査にあたり、現在は企業等の危機管理コンサルタントを務める齋藤顕氏にお話を伺いました。
選挙ドットコム編集部(以下、選挙ドットコム)
今回の新宿区議の当選無効の判断を巡る話題でどのような点に注目すべきなのでしょうか?
齋藤顕氏(以下、齋藤氏)
新宿区選管は松田氏の当選無効の判断根拠として、区議選に立候補するのに必要な条件の一つである三か月以上の居住実態を松田氏が満たしていない、としているところです。
「無効」と「取り消し」も用語として異なるので説明しますと、「当選無効」は選挙への立候補そのものまで遡ってなかったことにすることです。一方で「当選取り消し」は選挙で当選したことをなかったことにするという意味でそれぞれ異なります。
選挙ドットコム
立候補者の生活の本拠・居住実態とはどのように判断されるものなのでしょうか?
齋藤氏
過去に同様の事例があった際の基準に照らして判断しているのだろうと思われます。住所の判断基準は住民票でどうなっているかというよりも生活の本拠、居住実態そのものが判断の基準になってきます。
過去に裁判所は判決で「生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すもの」、「住居、職業、生計を一にする配偶者その他の親族の存否、資産の所在等の客観的事実に、居住者の言動等により外部から客観的に認識することができる居住者の居住意思を総合して判断するのが相当」という見解を示しています。
今回の新宿区選管の判断でも水道利用料や電気、ガスの使用量といった客観的事実によって「生活の本拠」がなかった、という判断を下したとのことなのでおそらく同じような判断基準を参考に当選無効の決定をしたのではないでしょうか。
選挙ドットコム
有権者が選挙で一票を投じて選んだ、という事実をくつがえすことになるのでかなり強い根拠をもって判断しているのですね。
齋藤氏
そうですね、そもそも行政が下す判断にはどんなものでも法令や規則などの根拠が必ずあります。今回のようなケースを考える上でも何を根拠にその判断が下されたのかは常に意識しなくてはいけません。
選挙ドットコム
お忙しいところお話をいただきありがとうございました。
新宿区選管が当選無効の決定をしましたが、その決定で自動的に区議が失職するという訳ではありません。行政手続きやその先の司法手続きが終わらない限り区議は失職せず、議員活動も継続できます。
新宿区選管の判断に対して松田氏側は東京都選管に審査申し立てを行っています。この審査申し立ては区選管の決定を都選管が審査することを求めるものです。
都選管への審査申し立てを受けて都選管が裁決を行うことになりますが、都選管の裁決に不服があれば高裁に提訴をすることができ、この問題は訴訟に持ち込まれることになります。
更に高裁の判決に不服があれば最高裁に上告することになり最高裁の判決をもって結果が決まる、という流れになると考えられます。最高裁が判決で当選無効と判断した場合、最高裁から当選無効の通知が区議に対してなされ、区議の当選が無効となり、議員を失職することになります。
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