6月15日の参議院本会議で、公職選挙法の一部改正案が野党の一部会派を除く賛成多数で可決されました。この改正案によって、参院選の選挙区での候補者が、独自に撮影した動画を政見放送で使用できるようになります。
改正案には「参議院選挙区選出議員の選挙における政見放送について、できる限り多くの国民に候補者の政見がより効果的に伝わるようにするため、一定の要件を満たす推薦団体又は確認団体のそれぞれ推薦候補者又は所属候補者は自ら政見を録音し又は録画することができることとする必要がある」ことが理由として付記されています。
法案は衆議院での審議を経て、来年7月の参院選から適応される見込みとなっています。今回はこの法案で定められた、録画済み素材を政見放送に使用することのメリットとデメリットを解説します。
これまで参院選の選挙区の候補者は、政見放送は「放送局が用意したスタジオで収録する」こととなっていました。今回の改正で、「各候補者が作成した動画」を政見放送に使用することが選択できるようになります。この方式は既に衆院選の小選挙区の候補者の政見放送で取り入れられています。
参考:2017年衆院選 自民党小選挙区候補の政見放送
参考:2017年衆院選 共産党小選挙区候補の政見放送
一方で、公正さを厳密に考えると今回の改正案にはデメリットも考えられます。
動画の制作には時間とお金がかかります。撮影をするにあたっても、スタジオを借りてプロのカメラマンや照明、音声の技術者を雇い、衣装やスタイリスト、メイクなどを用意する場合もあります。撮影した素材にテロップや参考画像を入れたり、手話通訳を別で撮影して挿入したり(なお、放送局で政見放送を撮影する場合、手話通訳は無料で手配することができます)それを決められた時間内に収めて、規定の動画形式に変換する、となると様々な人の手が加わることになります。当然、資金が潤沢にある政党はより良いものが作れる一方、そうでない政党はそれなりになってしまい、格差が生じてしまいます。
さらに問題として指摘されるのは、今回の改正で持ち込みの動画素材を政見放送に使用できるのは、公職選挙法に定められる「確認団体の公認・推薦候補」に限られており、無所属の候補が対象外となっている点です。
確認団体として認められるのは参院選の場合、政党要件(国会議員が5名以上所属しているか、直近の国政選挙において2%以上の得票率を得ている)がある政党か、比例全国区に名簿を届け出ている政治団体です。
政党要件がある政党の場合は参議院全国比例に名簿を届け出る際には名簿登載者数は1名以上で受理されますが、政党要件のない政治団体の場合は10名以上の名簿登載者が必要となります。既存の政党以外が参議院全国比例に立候補する場合、供託金だけで6000万円以上(600万円×10名)の費用がかかり(なお、選挙後、当選者数×2×600万円が返金されます)新規参入が非常に厳しくなっています。
確認団体以外は選挙運動の制限も厳しくかけられており、今回の法案は既存政党以外から立候補を考えている人にとってはさらなる不公平感を与えるものとの批判も考えられます。
有権者にしっかりとメッセージを伝えることと、政党・候補者間で公平を保つこと。この2つを両立することが、公職選挙法では重要です。また、各党が今後、どのように政見放送を活用していくかにも注目です。
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