2013年のネット選挙解禁から3年が経ち、政治家の発言や選挙に関する情報がネット空間を飛び交う様子もおなじみの光景となりつつあります。今年の夏は参院選、都知事選と大型選挙が立て続けに行われ、ネット選挙運動もさらに洗練されてきました。今回は、成熟するネット選挙の現状について取り上げます。
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2013年のネット選挙運動の解禁によって、ホームページやSNSを利用して直接的な投票依頼ができるようになりました。今では、多くの候補者がネットでの選挙運動にも力を入れています。
7月10日に投開票された参院選では、選挙区と比例区において、合わせて389人が立候補しました。この内ホームページ利用者が304人(78%)、Facebook利用者は333人(86%)、Twitter利用者は259人(67%)でした。特にFacebookの利用率が高く、2014年12月に行われた衆院選では全体の70%程度だった利用率が、この1年半の間に急激に増えていることが分かります。
また、当選した121人に絞ってみると、ホームページ利用者が119人(98%)、Facebook利用者は111人(91%)、Twitter利用者は84人(69%)という結果になります。今や当選のためには、ホームページとFacebookの活用は必須とも言える状況になっています。
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それでは、有権者の意識はどのように変わってきているのでしょうか。2014年衆院選を対象とした意識調査では、政治、選挙に関する情報源について、テレビ63%、新聞23.1%、インターネット7.2%という結果が見られました。今のところは、テレビや新聞などの既存メディアの方が、インターネットよりもまだ強い影響力を持っていると言えそうです。
ただし、その比率も日々変化を続けています。前回の当連載でも指摘しましたが、特に都知事選の報道では、各陣営のネットでの発信や、候補者に対する批判記事や応援記事などを既存メディアがとり上げ、そのことがネット上でも拡散されるという動きが目立ちました。
たとえば小池陣営の「緑色のものを持ってきてください」というメッセージは、すぐさまネットと既存メディアで拡散され、大きな話題となりました。
スマホの普及によるネット利用の拡大も、ネット選挙の勢いを後押ししています。候補者サイトのアクセスログ解析をすると、PCよりもスマホからのアクセスが年々増えてきているのがわかります。有権者は、以前よりも格段に気軽に、候補者情報にアクセスできるようになってきているのです。
こうした変化はありますが一方で、私の感覚では今のところ、陣営の情報発信数と、その後の当落に強い相関関係は感じられません。
選挙の現場により事情は異なりますが、選挙運動で重要なのは、知名度を上げ、親近感を持ってもらうことです。そのために重要なのは、やはり街頭活動やポスター掲示、ビラ配りです。選挙において信頼に結びつくのは、街頭演説での触れ合いなどの単純接触回数であるということが、さまざまな調査でも明らかになっています。
ただ、だからといって「ネット選挙に意味がない」とするのは早計です。「ネット上で気になった情報をシェアする」という文化は、若い世代を中心に当たり前のことになりつつあります。各分野の専門家など知見を持った層の中にも、政治の動きをウォッチし、自分なりの審美眼を持って情報を広めていこうと意識して動く人たちが増えてきました。彼らの動きがもたらす影響力は、確実に大きくなってきています。
ICT(情報通信技術)は、大衆の監視の密度を上げ、一人ひとりの公人の動きを可視化させるツールとしての存在感をどんどん強めています。ということは、ネットでの候補者との接触が、地上戦と同じような効力を発揮する未来も決して遠くないだろうと感じるのです。
ネット選挙が成熟していく中、まだ関係者一同の危機感が足りないのではないかと思う点も見られます。ひとつは、「全てが記録される」ということに対する意識です。
ネットを通じて有権者にどのような振る舞いをしたか、SNSで何をシェアしたか、ネットメディアにどう対応したか。そうした情報の全てが、当落に関係なく記録され、際限なく閲覧されていきます。情報が故意に消されれば、消されたという情報自体がすぐに広まります。ネットに残された責任ある言葉は、政治家となった後にも、ならなかった後にも影響を残すのです。
選挙運動が可視化され、記録が残されていく時代の政治家には、今後ますます言動に責任を持つことが求められます。ネット選挙が、政治家の意識改革を促すものとして発展していくことを願っています。
※本記事は都政新報掲載の「選挙プランナーの眼」の転載となります。
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