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フィリピンのドゥテルテ大統領による超法規的な射殺行為と日本の共謀罪

2016/9/7

猪野 亨

猪野 亨

フィリピンのドゥテルテ大統領は治安回復のための処置として、現場の警察官に麻薬犯罪者の射殺を命じています。
法治国家ではあるまじき暴政です。
中には無実でありながら射殺された人もいることでしょうし、フィリピンは死刑を廃止したのですから、裁判手続きを経れば死刑にはなり得ません。
なのに、超法規的に射殺してしまう行為は殺人そのものであり、文明国家としてはあるまじき暴政です。
この射殺を命じたドゥテルテ大統領は、政権の座を追われたとき、殺人罪で訴追されたりするのでしょうか。

とはいえ、フィリピン国民からの支持率は高いようです。麻薬などの犯罪だけでなく、恐らく麻薬絡みの犯罪の中でフィリピン国民は、犠牲を強いられ続けてきたのだと思います。
治安が悪化し、通常の捜査や訴追では治安が回復できない、ということになった場合、恐らく国民の多くがこのような超法規的処置を支持するのだろうと思います。

こういった状況というのは、非常に恐ろしい事態です。
国民が治安回復のためには非合法な殺人まで認めてしまうということであり、国家権力の肥大化そのものです。
治安回復のためならまだしも、大統領自らに刃向かうものに強権が向けられかねませんし、自分に対する批判を許さないという姿勢もありありです。

フィリピン以上に治安が最悪なのは南米でしょうか。
マフィアという武装組織による殺人が横行している状況の下で、政府、警察の中にも汚職が蔓延っており、通常の刑事手続きで治安を改善しようとしてみたところで、一体、何年かかることやらという状況かもしれません。
麻薬組織撲滅を訴えて当選した女性市長が武装集団に襲われ、家族もろとも殺害されていますが、これでは普通に生活することも不可能な状態ですから、このような市長宅は武装警察や軍隊によって警護することが求められる状況です。それがなされなかったのは国家自体が「黙認」していたと言われても仕方ない状況です。

仮に武装組織との間で銃撃戦が始まれば「射殺」してしまうことも許容されるだろうし、とはいえフィリピンのドゥテルテ大統領のようにその場で容疑者を片っ端から射殺せよというのは抵抗感があります。
しかし、そのようなメキシコであればこそ仮に現場での射殺命令が出れば国民の支持を得るのだろうと思います(逆に支持が得られなかったら、①順法精神が大事だ、②少なくない国民が汚染されている、のどちらかということになりますが、②でしょうか)。

さて、翻って日本でみたとき、日本の治安はどうでしょうか。
一部、暴力団による犯罪は根深いものがあります。今でも拳銃による抗争を繰り返していますが、何故、ここまで暴力団が肥大したのかが問題です。
1991(平成3)年には憲法違反ではないかと言われた暴力団対策法も制定され、ようやく対策に乗り出したというものですが、それまでは捜査機関との癒着や時の政権による政治利用があったからこそ、肥大化したのです。暴力団犯罪は、自民党政権の責任でもあります。
このような放置・黙認・利用のもとで犯罪組織が大きくなり、国民の批判が高まる中で対策に乗り出すという状況は、本来の姿ではありません。
日本には未だに巨大な暴力団組織がありますが、法治国家日本においては本当に異様です。これが労働組合だったりすると、労働者は武装していませんから、官憲は弾圧したり、三池闘争などの時には会社側が暴力団を使っての暴力行為などという事件もあったりしました。
終戦後の東宝争議の時には、当時の占領軍(米軍)まで出動し、戦車、航空機まで繰り出すという徹底した弾圧振りでした。「来なかったのは軍艦だけ」と言われたすさまじいものでした。

暴力団対策とは大きな違いだ 安保闘争のときも自衛隊を出すという議論まであった

 今、沖縄が置かれている状態がこれです。
東村高江に機動隊を投入、安倍自民党政権による暴力による沖縄支配 日本の恥だ

これまで政府は暴力団に対する対策は何もしていないに等しかったわけです。
暴対法ができたとき、とある雑誌に出ていた暴力団組員の発言でしたが、警察の急変した態度に「つれなさすぎる」というのが印象的でした。暴対法ができたのも暴力団の矛先は企業にまで向けられてきたために(許容言動を超える)、要は暴力団が警察の手のひらから出ようとしたから、制定されたにすぎません。
治安対策が何のために行われるのかということは私たちは常に意識していなければなりません。
暴力団対策がいつの間にやら、政府に反対する活動に対する弾圧のための道具になってきたのがこれまでの歴史の経緯です。
暴対法ができる前も刑法では凶器準備集合罪(刑法208条の2)暴力団対策という名目でした。しかし、実際に適用の対象として向けられたのは、労働組合活動や学生運動でした。
共謀罪が「テロ準備罪」(偽称名)として安倍自民党によって国会に法案が提出されようとしています。
テロの危険などという抽象的なことが声高に叫ばれていることが特徴です。国民を監視下に置く憲法違反の法律です。暴力団犯罪と比べても「必要性」など全くないものです。
外国の状況とも見比べてみましょう。治安回復(維持)のためにどうにもならない状況まで陥っている状況とは日本は全く違うのです。本当に共謀罪が必要なのかどうかが問われています。
廃案になった共謀罪が「テロ等組織犯罪準備罪」で復活するという謀略 「偽称名:テロ準備罪」をよろしく

 

※本記事は「弁護士 猪野 亨のブログ」の9月7日の記事の転載となります。オリジナル記事をご覧になりたい方はこちらからご確認ください。

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猪野 亨

猪野 亨

1968年生まれ/1992年北海道大学法学部卒業/1998年弁護士登録/2000年いの法律事務所開設 司法改革から政治経済、世界情勢にいたるまで幅広く意見を発信している。 法科大学院の廃止、弁護士人口激増の阻止、裁判員制度の廃止へ向け精力的に活動中。

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