2025/11/9
武蔵野赤十字・新一番館完成記念
11月9日、武蔵野赤十字病院新一番館の完成記念式典に出席した。
当日は朝から冷たい雨。玄関前には紅白幕が張られ、関係者や医療従事者が次々と到着していた。
式典は院内ホールで行われ、黒崎院長、日本赤十字社の清家社長をはじめ、多くの来賓が登壇した。
13年にわたる計画の歩みと、関係者への謝意が静かに語られた。
建設計画が始動したのは2012年。
社会環境や医療体制が大きく変わる中で、何度も設計の見直しが行われた。
設計は伊藤喜三郎建築研究所、施工は大成建設。
2022年3月の地鎮祭から約2年半を経て、ついに完成を迎えた。
式辞では、「愛の病院」という創立理念が改めて掲げられた。
感染症や災害への対応、そしてすべての病室を個室化するという構想。
そこには、単なる建物の更新ではなく、“医療のあり方を更新する”という意志があった。
COVID-19で得た経験を、未来の医療体制へとつなぐ。
静かながらも、確固とした決意がにじんでいた。
式典後に行われた建築事業経過報告では、旧本館北側に立つ新一番館の全体像が紹介された。
限られた敷地の中で、機能を止めずに建て替えるという難事業だったという。
新棟は免震構造を採用し、災害時にも機能を維持する。
災害拠点病院としての責務が、建築そのものに組み込まれている。
手術部門や救急処置室、内視鏡・放射線診断部門の配置もすべて再構成された。
医師や看護師の動線を徹底的に短縮し、患者搬送を最小限に抑える。
「効率化」は冷たさではない。合理的に命を救うための設計思想だ。
医療を止めない構造が、建築として形を持った。
また、新棟は未知の感染症にも対応できる設計となっている。
病室ごとに空調を独立させ、陰圧・陽圧の切り替えが可能。
空調の流れを遮断することで、院内感染を防ぐ。
COVID-19の経験が、単なる一過の教訓ではなく、医療構造のアップデートとして反映されていた。
救命救急センターは、地域の第二次・第三次救急の受け皿として強化された。
年間1万件を超える救急搬送を受け入れる体制を整え、四つの血管造影室を備える。
脳梗塞や心筋梗塞などの急性期疾患に、即応できる構成だ。
脳卒中・心臓病等総合支援センターとして、日本医科大学や榊原記念病院との連携も視野に入る。
これまで都心部の専門病院に頼っていた症例が、地域内で完結する。
搬送時間の短縮が救命率を高める。現場の実感として、その意義は大きい。
周産期センターもまた大きく変わった。
産科病棟と新生児集中治療室(NICU)を同一フロアに配置。
医師と助産師が即座に連携できる構造になっている。
高齢出産の増加やハイリスク分娩に対応するため、帝王切開への切り替え動線も短く設計された。
命を迎える場所であり、同時に救う現場でもある――
その二つの役割を、建築と人が支えている。
見学したフロアはどこも静かだった。
機械の音も、人の声もまだない。
稼働前の緊張感の中に、確かな準備の気配があった。
今日の静けさが、やがて日常の喧騒へと変わる。
そのときを思うと、空気が少しだけ張り詰めた。
この新一番館の建設には、武蔵野市からも7億8千万円の支出がある。
もちろん議会の議決を経た正式な予算措置だ。
当時は「今やるべきか」「コロナが落ち着いてからでもいいのでは」という声もあった。
財政の見通しが不透明で、市民の理解を得るのも容易ではなかった。
それでも事業は進んだ。
やるべきことはやる――その決断を下したのは当時の市長、松下玲子。
短期的な批判を恐れず、長期的な医療体制を見据えた。
結果としてその判断が、いま確実に地域の医療基盤として形を持った。
政治の役割とは、こうした“見えない時期に踏み出す力”だと思う。
武蔵野赤十字病院は、武蔵野市民のためだけの病院ではない。
この地域全体の医療を支える中核として、周辺からも多くの患者が訪れる。
救急医療、周産期医療、災害医療――どれも市単独では担えない領域だ。
その拠点が日常の延長線上にあること。
それだけで、このまちの暮らしは静かに支えられている。
ただ、地域全体を見れば課題も残る。
三次救急を担う赤十字病院に対し、二次救急を担う体制は十分ではない。
小児科や産科といった次世代を支える分野でも、受け皿の整備が追いついていない。
ハイレベルな医療を磨くだけではなく、日常の延長線にある医療――
“ふだんの医療”の層を厚くしていくことが、次の課題になる。
武蔵野赤十字病院の新一番館は、その出発点のひとつだ。
地域の安心を支える拠点が、いま静かに姿を現した。
この建物をどう生かすか。
それは、これからの行政と地域の力にかかっている。
The post 武蔵野赤十字病院 新一番館完成と地域医療のこれから first appeared on 武蔵野市議会議員 藪原太郎 公式サイト|市政報告・地域活動・武蔵野グルメ発信.
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