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臨時災害放送局「おだがいさまFM」の取り組み

2012/4/22

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政府が、福島第一原子力発電所の事故により半径20キロ圏内を「警戒区域」に設定してから、今月の22日で1年になる。今年に入って南相馬市の一部など解除された地域もあるが、いくつかの町は全域が「警戒区域」のままだ。そのひとつ、福島県富岡町の住民は、未だに郡山市内などに点在して避難生活を余儀なくされている。そうした中、ふるさとを離れてばらばらに暮らさざるを得なくなった被災者の心をつなごうとするひとつの試みがおこなわれている。

■スタジオは仮設住宅

2012年3月11日、福島県郡山市富田町の仮設住宅内でラジオ放送局が開局した。ここは、全世帯1万4000人あまりが避難することとなった富岡町民の避難先のひとつ。郡山市内などに点在する避難者に向けて、災害対策情報や生活関連情報を提供することを主な目的とする「臨時災害放送局」として総務省の認可を受けた。局名は「おだがいさまFM」、放送免許の申請人は、富岡町長の遠藤勝也氏。「おだがいさま」とは、この地方の方言で「お互いさま」の意味。「困ったときはお互いさま。ボランティアを受け入れるだけでなく、被災者自らも活動していこう。人はお互いに必要とされることで生きていることを実感でき、前向きに生きることが出来るから」。そんな願いが込められているという。

この局の前身は、郡山市内の多目的ホール「ビッグパレットふくしま」に誕生したミニFM。ここは、原発事故直後から富岡町や川内村の避難住民、最大2300人が暮らした場所だった。昨年5月に開局し、8月末の避難所閉鎖まで放送を続けたこのミニFMの志を受け継ぎ、より広範囲の人々に届けるために設立されたのが、今回の臨時災害放送局「おだがいさまFM」である。ミニFMの立ち上げから参加し、現在も「おだがいさまFM」でアナウンサーとして活躍している古賀徹氏(41)に話を聞いた。

「この局の特徴は、被災した場所で、被災地に住む方々に向けて立ち上げた臨時災害放送局ではないということです。被災地である富岡町は警戒区域として立ち入り出来ない。富岡町の住民それぞれの避難先は県内外にばらばらに散ってしまった。だからこそ、被災地の状況や町からの連絡事項など、きめ細やかで即時性の高い情報が継続して必要であると同時に、住民たちお互いの“つながり”を保つことがとても重要になってくるのです」

「というのも、阪神淡路大震災、そして中越沖地震の際、仮設住宅での孤独死が問題になりました。仮設はいわば集合住宅です。隣近所で何かあれば気が付くはずだと思いました。でも実際に孤独死は起こった。せっかく大きな災害を生き残ってきたのに無念でなりません。これはコミュニティの欠落、人と人とのつながりが切れてしまったことが大きな原因です。これを繰りかえすことは絶対にしたくない、という気持ちがありました」

各地に点在して避難している富岡町の避難住民の耳に放送を届けるために、どのような方法を考えたのだろうか。

「郡山市内にある3ヶ所の仮設住宅集落、三春町、大玉村、いわき市など広範囲に渡る避難先のすべてに放送を届けるとなると県域局レベルの出力電波が必要になります。従来行ってきた微弱電波のミニFMではとても無理なことです。既にある福島県内の放送局の放送枠を買い取って、富岡町の住民に向けた番組を提供するという方法も考えましたが、現在のところスポンサーが想定できない。この放送は、被災者のために継続していくことが重要なので、コミュニティFM規模の出力が可能な臨時災害放送局という方法で、まずは郡山市域に放送することが金銭的にもベストだと結論しました」

現在の放送聴取可能エリアは郡山市内の一部とはいえ、市内の仮設住宅だけでなく、散在する借り上げ住宅に住む避難住民にも情報を届けることが出来る。さらに全国各地のコミュニティFMの番組をネットでストリーミング配信する「サイマルラジオ」のHPから放送を受信することで、福島県外に避難している富岡町民も情報を得ることが可能だ。

放送内容は、朝8時〜9時の「おだがいさわやかモーニング」、10時と16時から各1時間枠の「富岡インフォメーション」、そして「おだがいさまラジオランド」と題し、リスナーからのリクエスト曲など受け付ける娯楽性のある番組を19時から21時まで生放送。他の放送時間帯は、ミュージックバードなどの番組配信システムを利用し、音楽などを流している。現在の番組自社制作率は全体の10%。これから拡大していく予定だという。

■「臨時災害放送局」に対する政府の動き

放送免許を認可する総務省は、「おだがいさまFM」を含め、今回の臨時災害放送局への免許期間を過去最長の2年間まで認めている。平成7年の阪神淡路大震災における臨時災害放送局の免許期間は約2ヶ月。今回の災害の規模、そして原発による長期避難を想定した数字といえる。

「おだがいさまFM」を運営・維持していく資金は、福島県が取り組む「地域づくり総合支援事業」の交付金、そして日本財団の助成金約800万円などだ。ここから社員2名の給与、ゲストの交通費等が捻出される。しかし、この金額で運営できる期間は1年程度。他の臨時災害放送局も資金繰りには苦労している。基本的にCMがなく、広告料が見込めないからだ。こうした現状に、総務省は民間企業とともに支援を行い、今年の4月現在でキヤノンマーケティングジャパンなど5社が出資。19局の臨時災害放送局に資金を提供している。また東北の既存コミュニティーFM23局が連携して立ち上げたNPO法人「東日本地域放送支援機構」では、番組制作や放送設備の整備に対して、専門スタッフの無料派遣を行い、ボランティア中心にならざるを得ない放送局を支援している。

■寄り添うためのメディア

「あなたの力が必要です。手伝ってくださいね。一番簡単な手伝い方。それはこのラジオを聞いて楽しんでくれることです。そして一歩進んだ手伝い方は、メッセージをくれたり、リクエストしてくれることです」

これは昨年5月に避難所で開局したミニFMからの第一声だ。その声に呼応するように、毎日スタジオ前に椅子を並べ見学してくれる人や、仮設住宅に住居を移しても放送の時間になるとスタジオまで足を運んでくれるリスナーがいた。閉局するときには、「続けてほしい」、「復活を願っています」といった多くの声が寄せられたという。

「おだがいさまFM」として復活した今、今後の局の在り方を、どのように考えているのだろうか。古賀氏に聞いてみた。

「まずは、県が借りあげたアパートや住宅に点在している富岡町民の掘り起こし、こういう放送局があるんだと知ってもらうことが重要です。ラジオをきいてもらうよう一軒、一軒、訪ね歩くという地道な作業をやっていこうと考えています」

「現在、町の情報を得る方法は、1枚ほどの富岡町内新聞、町の広報誌、そしてこの放送です。先日、ある銀行から聞いた話ですが、金融相談をやっているという情報をラジオで聞いて駆け付けたという住民の方がいたそうです。役に立ったことを改めて実感できた瞬間でした」

古賀さん自身、取材中に「いつも聞いてるよ」と握手を求められることがよくあるという。この放送が人々の心に届いている証だ。

「ラジオは、そばにいること、寄り添うこと、それができるメディアです。決して一人にはさせない。だから一緒に話そう。愚痴でも、怒りでも、絶望でも、また喜びでも、とにかく話してほしい。一人じゃない。どうか、ラジオのスイッチをひねってほしい。昨年のミニFM開局当時に感じたことが、今も僕の原点です」

(横内陽子)4月18日

【臨時災害放送局について】

東日本大震災に伴う臨時災害放送局は、これまでに27市町で29局が開設、そのうち19市町において21局が臨時災害放送局として運用中。(平成24年3月31日現在)

「サイマルラジオ」HPでは、「おだがいさまFM」を含め、11局の臨時災害放送を聴取出来る。

サイマルラジオ http://www.simulradio.jp/

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