
70年ぶりの選挙権年齢の拡大となる18歳選挙権の実現に向けて、各地で様々な取り組みが行われています。これまで選挙権がなく、政治的な発言権を持ちにくかった未成年にとって、自らの意思を社会に伝えていくための大きなチャンスとなります。
さて、日本における主権者教育の内容は、彼らがこの機会を活かすために十分な取り組みとなっているのでしょうか。前回の記事に引き続き、海外の取り組みとの比較から考えます。
18歳選挙権を目前に控え、各地で様々な主権者教育の取り組みが行われています。その中でも、「模擬選挙」はとりわけ大きな注目を集めています。
例えば、「今夏の参議院議員選挙で18歳選挙権が実現される前に未来の有権者に投票体験を」として早稲田大学マニフェスト研究所が推進した2つの模擬選挙推進活動(注1)に対しても、地方自治体の首長選挙であったにもかかわらず、全国から参加校が集まっています。筆者も模擬選挙の運営に携わることがありますが、実施後の生徒の様子を見ると政治への興味関心の向上など、概ね前向きな効果を確認することができます。
例えば、埼玉県知事選挙における模擬選挙では、授業後のアンケート調査に対して、参加した生徒の内8割の生徒が政治や選挙に対する意識が高まったと答えています。なかには、「「マニフェストの内容が分かりづらく、若者向けの政策も少なかったため、1人にしぼるのが少し難しく感じました」という意見や、「(候補者のマニフェストを読んで)高齢者向けの政策が多すぎると感じたけど、若い人が投票に来ないから投票に来てくれる人(=高齢者)のニーズに答えている政策が多くなると聞いて考えさせられた」といったコメントを寄せた生徒もいました。
ほかにも、様々な模擬選挙の実践報告を読むと、生徒たちは模擬選挙を通じて真剣に政治のことを考えるきっかけを得ることができているようです。(注2)しかし、模擬選挙については、「一度経験をしてしまうと、同じようなことの繰り返しである」といった声を聞くこともあります。このような事態を避ける方法はないのでしょうか。
なお、各地の模擬選挙の実践事例や、他国の取り組みを参考に模擬選挙を深化させるために開発したワーク(補助教材)、海外の政治教育事例を取り上げた書籍が近々刊行されます。模擬選挙や若者の政治参加、政治教育等にご興味のある方は是非ご一読ください。
(早稲田大学マニフェスト研究所シティズンシップ推進部会(編)『実践 学校模擬選挙マニュアル』)
模擬選挙は、海外でも積極的に行われています。そして、そのプログラムは多様性に富んでいます。






図表1にあるように、イギリスでは2015年の総選挙にあわせて教員支援のNPO団体が模擬選挙をテーマとした情報誌を発行しています。情報誌では、イギリス下院による模擬投票のツールキットの紹介や、識者による政策争点に関する解説記事等、模擬選挙に取り組む教員に向けた具体的な情報提供が行われています。
また、市民の政治参加の推進に取り組む財団による全国的な模擬選挙キャンペーンでは、生徒による模擬公開討論会や、模擬選挙活動、実際の候補者との交流の様子などを確認することができます。
アメリカは、まさに今、大統領選挙を対象に模擬選挙が行われています。
例えば、模擬選挙の有力な支援団体であるNSPME(NATIONAL STUDENT/PARENT MOCK ELECTION)では、模擬選挙の仕組みとともに、投票の質を高めるためのワーク集などが紹介されています。ほかにも、アメリカにおける模擬選挙の様子としては、メディアや大学、NPO団体など、様々な団体による支援が行われていることが書籍などでも報告されています。
ほかの国でも、模擬選挙支援の一環としてボートマッチのサービス提供(オランダ)や、争点解説資料の提供(ドイツ)等々、様々な国で多様な取り組みが行われています。
これらの事例からは、模擬選挙は生徒たちに投票体験の機会を提供することに加えて、より高度な政治的教養を育むための機会を与えるような取り組みも可能であることが分かります。また、これらの取り組みは学校関係者だけでなく、外部からの支援を活用することで質的充実を図ることができるようになります。
「常時啓発事業等のあり方等研究会」は若年層への政治参加に向けた取り組みだけでなく、相対的に投票率の高い高齢者を例にとって、すべての有権者が常に学び続け、政治的判断能力を高めていく必要性を「政治的リテラシー(政治的判断力や批判力)」の必要性として指摘しています。
若者が選挙権を得る前に投票体験をすることがやっと各地で実現されようとしている段階に過ぎない日本にとって、海外の模擬選挙の取り組みは学ぶところが多そうです。

海外の事例では、学校の教育現場と政治との距離が非常に近いものとなっています。この理由として指摘できるのが、政治的に論争のあるテーマ(争点)を扱う際の指針の有無です。先述の総務省の報告書では、アメリカ/イギリス/ドイツの事例を取り上げています。(図表2)
それぞれ、指針のあり方には違いがありますが、決して授業で政治的に論争を呼ぶテーマを取り上げることを避けていないことが分かります。総務省・文部科学省による副教材「私たちが拓く日本の未来」でも、政治的に論争があるテーマを取り上げることを避けるようには記載されていません。しかし、山口県において模擬投票で使用された補助教材の内容をめぐり、教育長が県議会で謝罪をした事態があるように、先生方には配慮が求められる状況があります。
ここには、課題はないのでしょうか。日本における主権者教育の課題を検討していくために、次回の記事では主権者教育を取り巻く状況や今後の方向を確認してみます。
注1:早稲田大学マニフェスト研究所では、大阪W選挙(2015年)、熊本県知事選挙(2016年)において、候補者の政策討議資料の提供や模擬選挙実施にあたっての情報提供などを行っている。その様子は、以下のwebサイトにおいて参照できます。
大阪模擬選挙2015[http://osakamogisenkyo.strikingly.com/]
熊本模擬選挙2016[http://kumamotomogisenkyo.strikingly.com/]
注2:埼玉県知事選挙における模擬選挙での授業資料や生徒たちの反応は、以下のwebサイトにおいて確認することができます。
さいたま賢人[http://saitama.manifestojapan.com/]
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