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最悪のケースで3勝26敗……自公の選挙協力解消によって、次の衆院選東京選挙区で自民党を待ち受ける壊滅的結果へのシナリオとは(山本一郎)

2023/6/2

山本一郎

山本一郎

 「何も手を打たないと、自民党都連は29小選挙区で最悪3勝26敗」

 「公明党と関係解消なら最善でも10勝19敗」

 「東京比例代表、自民はギリギリ4議席。場合によっては3議席も」

自民党と公明党との協議が物別れに終わり、割と冷静で穏やかな人物評で知られる公明党の幹事長・石井啓一さんが記者による囲み取材で放った言葉が印象的でした。

東京での自公の信頼関係は地に落ちた。

この言葉を受けて、ちょうど月例の選挙情勢・地盤調査を走らせていた大手シンクタンクとメディアによる調査チームが「もし、本当に公明党からまったく支持を得られない自民党東京都連が、人口変動に伴う10増10減で小選挙区5議席増え、区割りが変更された後にどのような投票結果となるか」というチャレンジングなテーマで弾き出したのが冒頭の数字です。大変なことよね……。

もちろん、自民党が公認候補擁立を検討している29小選挙区において公明党が俗にいう「スイング」、つまり単に自民党を応援しないだけでなく有力な対抗候補にも6割程度の票を流すという最悪の場合の試算だとこうなるよという話なのですが(ご存知の通り、公明党はブチ切れると支援団体の創価学会が自主投票ではなく逆回転のスイングを起こすことがある)、裏を返すと、都市圏の自民党はそれだけ選挙基盤が脆弱だということでもあるのです。壊滅と言っていいでしょう。

象徴的なのは、維新が候補を立て、公明党が選挙協力をまったく行わなかった場合、前回の衆院選(ただし5増区割り前の旧小選挙区で)でダブルスコア近くで勝利している旧20区で内閣官房副長官の木原誠二さんや旧4区・現党広報副本部長の平将明さん、旧23区で子ども政策など現職大臣の小倉將信さんなども当落線上にまで落ち込んでしまうと予測されます。それ以外の候補者は言わずもがなです。

現在、一部観測では今国会終盤に野党からの内閣不信任案の提出などのトリガーがあれば、総理大臣・岸田文雄さんが解散を決断し7月23日投開票になるかもしれないという解散風が感じられる展開になっています。ただし、岸田さんが選挙の前倒しを決断すると、7月9日ないし16日という線も残り大騒ぎになる反面、後述の通り岸田政権の支持率の伸び悩みと公明党との関係悪化からの敗戦見込みが際立つと解散総選挙の手も封じられかねない虞があります。

決断するのはあくまで御大将である岸田文雄さんであり、近くにいるとはいえ外野があれこれ口を挟めるものでもありません。ただ、解散というものは御大将が「これは勝てるんや」と信じてこそ突っ込むものであり、勝てるかどうかはきょうび御大将の勘ではなく割と当たるようになった選挙調査が下敷きになることも多く、そうであるならば「今やっても思い通りの結果にはならないんじゃないの」というのが判断を鈍らせるきっかけになるのかもしれません。

他方で、秋の臨時国会冒頭で解散を打つ流れとなっても、岸田政権が浮上するような政治イベントはひとつもありませんので、なかなか悩ましいところです。猛暑になって電気代やガソリン代が値上がりすればまたぞろ総合経済対策をやるぐらいしか目玉が無くなります。野党の選挙態勢が整わないうちに岸田さんが早期解散を決断するようだという観測がいまだ根強いのは、秋まで待ってもいいことがなさそうだという点に尽きます。しかし、東京に限って言えば速かろうが遅かろうが大変厳しい戦いになることは確実です。

新7区では維新がわずかに優勢、弱体化する自民の「足腰」

例えば、今回渋谷区を中心とする新7区。ここでは旧東京1区から国替えを予定している維新の小野泰輔さんが調査ではわずかに優勢な展開で議席を伺う展開になっていますが、ここに自民党は2019年の参議院東京選挙区では114万票を獲得しトップ当選となった丸川珠代さんが日本憲政史初の女性総理の座を目指して衆議院に鞍替えが予定されています。

新7区では港区の各投票所で自民と維新では支持が拮抗しているうえ、自民公認候補であった松本文明さん(次回選挙では勇退)が惜敗率6割台という惨敗をしている旧7区から新7区にそのまま引き継がれる渋谷区では自民党支持の票固めにかなり苦労した経過があります。

特に、期日前の出口調査での自民党の不振は際立ち、今年の統一地方選挙で行われた渋谷区議選では自民党候補が7人落選。当初の情勢調査などで得票を見込んでいた票数からすると、渋谷区は15%から18%ほど下回る着地となりました。自民党にとって渋谷区は地盤が緩いというよりは、マヨネーズみたいな状態なのは確かです。

東京都の次回選挙の得票予測では、パネル調査でも自民党支持者の22%ほどが小野さんに投票する可能性が強く示唆されます。自民党支持の有権者の丸川珠代さんに対する評価が低いという面もあるかもしれませんが、選挙戦全体で見れば無視できない数字です。投票率が高くなれば、自民党の中でも政策通的なポジションにいて知名度のある丸川珠代さんでも小野泰輔さんにまくられるどころか、惜敗の面から比例復活も厳しい可能性さえ見られます。順当にいけば丸川珠代さんが勝つべきところなので、巻き返しが期待されます。

同じことは、統一地方選挙において東京都全体の自民党の得票率が大きく伸び悩み、仕上がりの立候補者ベースでは杉並区、渋谷区、足立区で7人(うち足立区は5月執行でひとり繰り上がり)、大田区で6人、江戸川区で5人、さらに千代田区、世田谷区など6つの区で4人ずつが落選してしまいました。それも自民党の中では割とベテランの扱いとなっている多選議員を中心に「地元に名前が浸透せずに負ける」という謎の展開となったのは印象的です。普通、多選のベテラン議員ってのは長年の活動を通じて地元に顔を知られてるものなんじゃないのかね。出口調査で名前もあがらずそのまま落選するというのは嫌な負け方のひとつで、つまり選挙区で政治活動を通じて有権者に自民党地方議員がいかに浸透していないか、活動が低迷していたかの証明であるとも言えます。

維新への支持層流出……千葉5区補選で見えていた予兆

東京都における自民党の低迷はあまり単純な因果関係ではありませんが、選挙の足腰を担う地方議員・地方組織の衰退はダイレクトに支持基盤に対する票固めに跳ね返ります。

例えば、公明党のブチ切れポイントのひとつでもあった、今回の衆院選千葉5区補選において、投票率は低かったけど珍しく自民党支持者が投票所に足を運んだ選挙となった割に、自民党公認候補である英利アルフィヤさんには出口の数字で自民党支持と答えた人の約58%ほどしか投票していません。擁立前も選挙戦中でもすったもんだがあったので、この数字は立派だという人もいれば、どんな仕事してんだと批判する人も出る微妙なところですが、一般論としては58%は平凡な数字であり、長く自民党の選挙で頑張った人たちからすると、自民党千葉県連がサボったと怒られるレベルで支持層を固めることができなかった案件とも言えます。

これは有力野党候補であった矢崎堅太郎さんに野党一本化を仕込むことができなかったのが自民の勝因です。国民民主党・岡野純子さんの擁立が見送られていれば矢崎さんが圧勝であった選挙とも言えますので、自民陣営からすれば勝ったとはいえ野党候補乱立に救われたとしか言いようがない選挙です。

また、千葉5区ではもうひとつ特徴的だったのは、維新候補である岸野智康さんが意外と住民に浸透した結果、自民党支持者の約1割5分ほどの得票を奪っていたことです。候補者が強かったというよりは、昨今の選挙戦において維新に風が吹いているというのが実際でしょう。都市型選挙では特に、浮動票の動きは大事である一方、保守系支持層においてはかなりの割合が維新に投票する虞があることをも意味します。自民党からすると由々しき事態です。

自民党からすると衰退している東京の選挙区情勢において、公明党の支援がないことに加えて維新の会の候補者に本来の支持層が流れ出て惨敗する可能性は強く示唆されます。逆の見地からすれば、自民党都連は本来は頭を下げてでも公明党との選挙協力を得て選挙区あたり1万4000票から2万5000票程度の積み上げを頼み、また議席の確保のため本来の自民党支持層の基盤固めに奔走するべき立場であるはずが、逆に公明党の支援取り付けに失敗しているだけでなく支持層の票数流失がネックとなって立て直しが効かなくなっている面があります。単純に「公明党が選挙協力すれば一選挙区あたり2万票」と言われますが、実際には、都市部の選挙ではその対抗に立正佼成会が7000票ほど積むことがありますので、この辺の宗教票による下駄の履き具合は票読みにおいてちゃんと計算に入れておかないとならないのです。

一連の流れは、公明党が自民党の足元を見たというよりは、既報の通り、自民党の中では党勢が衰えているように見える公明党が足枷であるという認識から塩対応をした結果、公明党というより選挙実働を担う創価学会のプライドを大きく傷つけ自公の関係が危機的状況に陥ったというのが実態のように感じられます。実際には自民党の都市部・都連のほうが、集票力という点では大きく低迷したうえに具体的な改善策について手を打てていないというのが実際なのですが、ここまで関係性が崩壊してしまうと自民党都連は一度きちんと壊滅して発展的再起を狙いましょうという話にもなりかねません。

しかし、ご承知の通り、大阪府で旧大阪維新の会が躍進するにあたり、松井一郎さん、馬場伸幸さん以下維新幹部は自民党大阪府連を支えた地方議員組織でもあり、自民党都連の崩壊劇が都市型選挙の重要性が増す今後において再起のきっかけとして意味を持つかと言われると極めて厳しい状況になることは間違いありません。

さらに、冒頭でも書きましたが最悪の条件で自民党東京選挙区29(残る1議席は新29区で公明党・岡本三成さんが出馬予定)のうち、勝利が見込まれるのは都連代表で党政調会長の萩生田光一さん、無尽蔵な体力を持つ土田慎さん、もともと公明党からの支援なく議席を守ってきた平沢勝栄さんぐらいまでです。地合いが保てれば当落線上に頭一つ出るのは現職大臣の小倉將信さんとここ数回相手に恵まれてダブルスコア勝利を続けてきた平将明さんと知名度で制するかも知れない丸川珠代さん、官邸で力を発揮してきた木原誠二さんまでであって、維新が候補者を立てるほど、投票率が上がれば上がるほど、公明党からの選挙協力を得られない自民党の戦局は悪化していきます。

前回も石原伸晃さんのような大物議員が比例復活もできず落選という状況に衝撃が走りましたが、おそらく今回も、下村博文さんや松島みどりさん、木原誠二さんなどが苦戦する状況予測となると、解散どころではないぞという話になるかもしれません。おそらく、今回の自民公明間の離反の原因となった自民党都連幹事長の都議・高島直樹さんが詰め腹を切っても関係回復をしないようであればかなりの損害が出る前提で次に繋がるような負け戦をどうするのかという切り替えをしなければならなくなるでしょう。

調整弁を担い続けてきた公明党側の事情と焦り

思い返せば、公明党は小所帯でありながらキャスティングヴォートを握る動きを進めるにあたり、諸政党との信頼関係を常に重視し、古くはワンワンライスと信頼関係ラインをつとに知られた市川雄一さんや、パイプ役の一端を担った佐藤浩さんと自民党側菅義偉さんのラインでうまく利害調整をし不満を吸収してきた調整弁がなくなって硬直化しているように見えます。総理の岸田文雄さんが慌てて公明党代表の山口那津男さんを官邸に呼び善後策を相談するのはある種の緊急避難、最終手段の一歩手前の状況であり、10増10減で約7議席ほどを失う自民党が東京埼玉千葉神奈川でごっそり議席を落とすことになると政権の進退が問われ、総裁選を待たずに総辞職にも追い込まれかねません。

そのぐらい危機感を持って都市型選挙に向き合い、また、岸田政権の支持率だけが今回ばかりは得票予測のトリガーではないのだとよく理解をしておく必要があります。

公明党側の事情においても、大阪都構想がひと段落し、公明党9つの小選挙区議席のうち6つが大阪と兵庫にあるなか維新が公明党との関係解消を機に公明党の議席のある選挙区に維新候補者を立てるのだとなると阿鼻叫喚となります。割と守れるかなと見込まれるのは大阪16区に出馬予定の山本香苗さんぐらいであって、残り5議席は悲観的な状況になりかねません。公明党らしいウルトラCを期待します。勢い10増10減においてや都市型選挙シフトに関して言うならば、公明党はまさに国政政党としての存亡をかけて関東圏進出をし、小選挙区にもう少し多くの候補者を擁立して比例ブロックでの議席積み上げに乗り出したいのは間違いありません。

他方で、公明党と創価学会の関係で言うならば、支持層の高齢化は懸念されるものの本来の創価学会はむしろ地方議員・地方組織を日常の市民生活に寄り添う形で機能させることに価値を見出しているように見えます。その点では、自民党にそでにされたからじゃあ立憲民主党と組むのかと言われるとそういう話も聞こえて来ず、なんとなれば、無理に都市型シフトをして自公連立を維持するよりは地方議員の組織だけでいいじゃないかという議論になることも考えられます。何より、自民党が謎の強硬派を中心に「創価学会は要らない」と言っていて、選挙を担う人たちが「そこまで言われるなら、もう協力しなくていいんじゃないか」と考えても「それはそうですよね」とも思います。

自公連立の転換点となるか……?

今回、本当に岸田文雄さんが早期解散に踏み切り自公連立政権の枠組みが揺らぐような議席数しか確保できなかった場合は、もちろん岸田さんは総理として終わるのは当然としても自民党は右旋回して維新との連立や、中長期的には都民ファーストや国民民主党との合併も視野に入れた与党再編が模索されていくことは間違いありません。安倍晋三政権は右派・民族主義的な支持層に支えられながらも実現してきた政策は中道左派的であり、踏襲した菅義偉政権も岸田文雄政権も、社会保障改革と安全保障というふたつの大きな政策課題においてはかなり左派的な政策を採用してきました。その結果、立憲民主党や日本共産党に国民の支持を呼び込み得る刺さる政策を打ち出すことができず、結果的に野党が機能不全になる時期が長く続いてきたのも事実です。

そのような情勢下でややもすれば数に恃んで暴走しがちな自民党を、1999年10月小渕恵三第2次改造内閣以降連立与党として公明党がバランスよく歯止めをかけてきたのが我が国の政治状況であって、こういう写真を見ていると本当に歴史を感じるわけですよ。

その自公連立の終わりという墓標が東京選挙区に立つのだとしたら、非常に象徴的だなあと思わずにはいられません。G7広島サミットの影の部分として、歴史の転換点となるのでありましょうか。

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山本一郎

山本一郎

1973年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も行う。インターネット普及期の初期からブロガーとして活躍。「リーダーの値打ち 日本ではなぜバカだけが出世するのか?」「ズレずに生き抜く 仕事も結婚も人生も、パフォーマンスを上げる自己改革」「情報革命バブルの崩壊」など著書多数。

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