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“強豪”同士の対決!維新の新人か、無所属の現職か!? 四條畷市長選ルポ・下(フリーライター・畠山理仁)

2021/2/12

畠山理仁

畠山理仁

◇「“強豪”同士の対決!維新の新人か、無所属の現職か!? 四條畷市長選ルポ・上」はこちら

演説を聞いて「あれ?」となった

選挙戦最終日の土曜日は公務がない。そのため東氏は8時に事務所を出発し、選挙カーで市内全域をくまなく回る予定になっていた。

最初に向かったのは、市の東部にある「田原地区」だ。私は車で東氏の選挙カーを追いかけたが、とくに特別なことはしていなかった。住宅街の細い路地をくまなく周り、助手席の東氏が大きく手を振りながら挨拶をして回る。玄関から出てきた人には駆け寄って言葉を交わす。短い挨拶を済ませると再び車に乗り、毛細血管のように張り巡らされた細い路地にも入っていく。中には車がすれ違えないような細い道もある。

東氏が車を降りて演説する様子を撮影できたのは、集合住宅を訪れた時だけだった。

「私がこの4年間、もっとも大切にしてきたのはみなさんとの対話です。たくさん、たくさん意見交換を重ねて、みなさんの声を一つ一つ市政へ反映させていく。市民中心のまちづくりを実現していく。さらに、この四條畷市で生まれ育つ子どもたちが大人になった時に、負担を残さない持続可能なまちづくり。なんとしてでも行財政改革を成し遂げる。その思いで4年間、市政に携わってまいりました」

東氏がマイクを片手に大きな身振り手振りで演説すると、市民が出てきて声をかける。東氏もそれに応える。短い演説を終えると、選挙カーはまた別の住宅街の路地に消えた。

一旦、東市長の遊説から離脱し、今度は土井氏の姿を探した。土井氏の事務所に近い四条畷駅の周辺を散策していると、ライトグリーンのジャンパーを着た男性が踏切付近に立っているのが見えた。手には吉村洋文代表の写真がプリントされたポスターを持っている。

演説前の場所取りかもしれない。まもなくここに土井氏が来るかもしれない。そう思って待っていると、ライトグリーンのダウンジャケットを着た土井氏がスピーカーとハンドマイクを持ってやってきた。ポスター、ビラ、のぼりを持った3人の若者も一緒だ。3人の若者は、全員ライトグリーンのスタッフジャンパーを着ていた。

「大阪維新の会で〜す! 市長候補には、土井かずよし、土井かずよしをよろしくお願いいたしま〜す!」

「よろしくお願いしま〜す!」

住宅街に男性の声が響く。土井氏もハンドマイクを持ち、あるきながら市民に呼びかける。

「大阪維新の会、市長候補、土井かずよし。四條畷の古い政治が続けられている。この四條畷を新しい政治に作り変えることで、みなさんの住民サービスしっかりと向上するんです」

土井氏に「今日は選挙カーに乗らないんですか?」と聞くと、「この時間帯は四条畷駅から忍ヶ丘駅まで歩いていきます」と教えてくれた。車も入れないような住宅街の細い路地を演説しながら歩くのだという。

ひと駅分歩くことになるが、車通りが多い交差点では立ち止まって演説をする。流れが早い交差点では演説をせずに手を振る。同行するスタッフにどれくらい続けるのかと聞くと、「トータルで1時間以上はかかります」と教えてくれた。荷物を持って移動するスタッフも若い。みんな四條畷市内の有権者なのだろうか。

「僕は高石市から来ました。もうひとりは堺市から来ています」

信号待ちの間に名刺交換をすると、日本維新の会の国会議員の秘書だった。土井氏の応援には、大阪府内から大阪維新の会の関係者が毎日応援に駆けつけていた。
「痛みを伴う行財政改革、しっかりと進めていくためには、政治家は口だけではだめなんです。私、土井一慶、今回、市長給与の30%カット、退職金も廃止させていただきます」

私は土井氏の演説を聞いて「あれ?」と思った。現職の東氏は、すでに報酬の30%カット、退職金の100%削減を実行していたからだ。市長給与の削減額は、この4年で3,911万円になる。給与削減について、東氏と土井氏の違いはないことになる。


対象的な最終演説

土井氏の活動を追いかけていて気づいたのは、多くの市民が土井氏に声をかけてきたことだ。驚くべきことに、土井氏はほとんどの人を「◯◯さん、いつもありがとう」と名前で呼んでいた。私が「すごいですね。全員覚えているんですか」と聞くと、土井氏は少しかすれた声で淡々と応えた。

「私、2年前から、平日は毎朝6時から8時半まで駅頭に立ってきたんです」

そうした地道な活動が市民とのコミュニケーションに生きているのだという。

「うちは祖父の代から政治家で、私は3代目。ただ、私自身は祖父や父と同じような政治をやるつもりはありません。みなさんに親しまれる政治家になりたいですね」

土井氏は市長交際費の廃止や小中学校給食費の無償化も訴えていた。

住宅街を北上して忍ケ丘駅に近づくと、同行していたスタッフとは別にライトグリーンの上着を着た人たちが複数集まっていた。ただ立っているだけで、維新のイメージカラーで街が染まる。「大阪維新の会」の組織力が目に見える形で現れる。

今回の市長選挙では、土井陣営、東陣営ともに、最終演説は忍ケ丘駅で行った。土井陣営は18時30分から東口。東陣営は19時45分から西口で最終演説をする予定になっていた。

東口で先に演説を始めたのは土井陣営だ。昨晩、藤田衆議院議員から聞いたとおり、駅には100名ほどの聴衆が集まった。その多くはライトグリーンの上着を着ている。圧巻だ。土井氏の最終演説には、市議補選に出ている柳生氏も合流した。街宣車の前には、日本維新の会の東徹衆議院議員や大阪府内の首長たちも駆けつけた。東口ロータリーはライトグリーンでいっぱいになった。

40分ほどで最終演説が終了すると、土井氏は選挙カーに乗り込み、そこから最後の遊説に出発した。残った人たちはライトグリーンの服を着たまま駅頭で存在を誇示している。

一方の東陣営が忍ケ丘駅西口にやってきたのは19時45分。東陣営のスタッフジャンバーは目に優しい緑色だった。

最終演説に集まった支援者は約30人。数の上では大阪維新の会に負けていた。東陣営は応援弁士も立てず、選挙スタッフと候補者本人による演説だけで終わった。東氏は20時にマイクを納めた後も、支援者一人ひとりと丁寧に言葉を交わして回った。

選挙運動は投票前日の23時59分59秒までできる。しかし、マイクはもう使えない。残り時間にできることは、肉声での呼びかけしかない。

「23時からは、忍ヶ丘駅を利用するみなさんにマイクを使わずご挨拶します。どうしても夜の遅い時間にしか会えない方もいらっしゃいますからね」

東氏が23時からの行った駅立ちには、後援会長、事務局長、候補者の姉、妻、そして数人のスタッフだけで臨んだ。東氏は改札から見える場所に立ち、駅を利用する人たちに深々と頭を下げる。

「こんばんは。一週間、ありがとうございました」

ときには「がんばって!」と声もかかる。しかし、反応がないことも多い。それでも東氏は駅の利用客に頭を下げ続けた。

12月26日午後23時50分。東氏は日付が変わる前に最後の利用客を見送り、新型コロナウイルスに翻弄された選挙戦を終わらせた。

 

強豪同士の選挙戦の結果は…。

12月27日、投開票日当日の午後10時30分。東氏は選挙事務所近くの公民館に現れた。即日開票の結果、2期目の当選が確実になったからだ。私は開票所で開票を見守り、東氏の得票が土井氏を上回るとわかった時点で公民館に向かった。

今回の四条畷市長選挙の結果は次の通りである。

【四條畷市長選挙・投票率44.45%(前回42.18%)】
  東修平 12,970票
  土井一慶 7,212票

東陣営は、当初は支援者とともに喜びを分かち合う予定だった。しかし、新型コロナの感染拡大を防ぐため、支援者を集めることは取りやめた。当選発表の会場に入れるのも、後援会のメンバーと妻、数人の選挙スタッフ、そして報道陣だけだった。

先にも述べたように、東氏は無所属だ。企業、団体からの推薦も断ってきた。選挙現場に政治家が応援に来ても、特別扱いはしない。政治家も全員がボランティアスタッフとして。個人的に選挙を手伝ったり演説を聞きに来たりしている。政策協定も結ばずに選挙戦に挑んでいた。あえて「無所属」という茨の道を歩む理由を、東氏は次のように説明した。

「市長は住民一人ひとりが『どういう街を作っていきたいのか』ということを聞き、その後押しをすることが役割だと思っています」

事前に政策協定を結べば、住民の意志を縛ってしまう。だから協定は結ばない。
「その点を市民のみなさんにご評価いただいたことが、今回の結果につながったんじゃないかなと思っています」

東氏は一期目の4年間で目に見える成果を出してきた。市の人口は11年ぶりに増加した。財政状況は31年ぶりに健全化した。市税収入も増やした。全国初となる住民票オンライン請求も導入した。そして四條畷市には、住民が直接、市長に意見をする「市長への意見箱」という仕組みもある。
https://www.city.shijonawate.lg.jp/site/ikenbako/15488.html
 
他の自治体と違うのは「必ず答えます」としているところだ。この取り組みは2期目も続けるのだろうか。

「もちろん続けます。あくまで主権は、みなさんお一人おひとり。私はその代理を務めているにすぎません。より多くの方が発言でき、意志を反映させることができる街づくりが僕の思う街づくりです。これからもブレることなく続けます」

東氏は4年間の実績を評価されて勝った。ただし、7212票を得た土井氏の力、大阪維新の会の組織力、機動力は無視できない。もし、現職候補が東氏でなかったら、選挙結果は違っていたかもしれない。

 

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畠山理仁

畠山理仁

フリーランスライター。第15回開高健ノンフィクション賞受賞作『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)著者。他に『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)など。興味テーマは選挙と政治家。

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