「あくまでも庶民目線で 政治に“えっ”となる視点を忘れずにいたい」『恋と国会』西炯子(にし・けいこ)さんインタビュー

2020/03/23

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若林良

政治がテーマの恋愛漫画!「恋と国会」(C)小学館

累計150万部を突破し 映画でも話題になった『娚の一生』をはじめ、『三番町萩原屋の美人』『姉の結婚』など、恋愛をテーマにしたさまざまな名作で知られる漫画家・西炯子さん。先日第1巻が発売された『恋と国会』は、西さんにとってはじめての「政治」をテーマにした作品。

主人公となるのはともに25歳で、衆議院の1年生議員のふたり――元地下アイドルで、まっすぐな心根を持ちながらも政治には素人の(!)山田一斗(やまだ・いっと)と、政治家一族の三世議員で、元首相を父に持つ良くも悪くも「政治通」の海藤福太郎(かいとう・ふくたろう)だ。先入観のないまっさらな視点から、国会の場で次々と政治への疑問を口にする一斗と、政治の限界を感じながらも、それでも自分にできることの模索を続ける福太郎という対照的なふたりは、ある時は反発しあいながらも、やがて交流を深めていく。

構想のきっかけや主人公のキャラクター、執筆の過程で変化した「政治」への意識など、今回お話をいただいた。

元地下アイドルの女の子と、三世議員の男の子

西さんが描いた自画像

――政治という題材に挑まれた経緯について、お聞かせいただけますか。

もともと、女の子が総理大臣になるような少女漫画を構想していました。ただ、少女漫画と政治って食い合わせが悪くて、「政治」というワードだけで読者から敬遠される傾向があったんです。このアイデアはどうにか形にできないかと思っていた中、幸運にも、編集の方から青年誌で執筆してみませんかと言っていただきました。そうしてビッグコミックスピリッツで、『恋と国会』の連載が始まりました。

――一斗、および福太郎のキャラクターはどのように考えられたのでしょうか。

まず、女の子である一斗は、どこにでもいる庶民が成り上がっていくのが面白いだろうと感じ、そのイメージを採用しました。となると、男の子の方は対照的なキャラクターで、お金持ちの、普通に暮らしていたら手が届かない階層にいるのが望ましいと思いました。生活レベルとか何かの才能とか、「差」のある男女がつながっていくのが少女漫画のセオリーでもありますし、庶民の恋愛の夢として、夢があると思ったんですね。

――細部のディティールはどのように詰めていかれたのでしょうか。

最初は、政治に造詣の深い編集者やライターに話を聞きました。お聞きした話の中でエピソードを形作って、フィードバックをお願いして、さらにブラッシュアップをさせて、という感じです。私自身がそこまで政治に詳しくなかったこともあり、「これは事実とずれている」といった指摘もありました。最初のあたりはストーリーを進行させるよりも、まず主人公が置かれた世界を説明することで精いっぱいでしたね。

国会で日常的に行われる「さしかえ」

――(政治についての)西さんがお聞きした面白いエピソードについて、お話いただけますか。

まず、1巻に出てくる「さしかえ」ですね。常任委員会で与党が法案を決めたいと思ったら、本来出席する議員の代理で来た別の議員が、決議で「はい」と手をあげるだけ。その人は何の知見もなかったとしても、多数派の与党の議員がみんな手を挙げれば、その法案は通ってしまうんです。最初に聞いたとき、やっぱり「えっ」と思ったんですよね。

また、お祝いにもらう「蘭」についての話も衝撃的でした。選挙での当選とか、さまざまな機会に政治家の事務所に送られるんですけど、廊下をふさぐからとか、スペースの問題で捨てられてしまうんです。一鉢が10万円以上する高価なものなのに、その処分は日常茶飯事なのだと。驚きでしたし、これは自分の筆でも伝えなければと思いました。

もちろん、それにはみんな知らないだろうと思いもあったんですけど、その過程でちょっとしたアクシデントがありました。ある女性議員がInstagramで蘭の写真をあげて、「これをみんな捨ててるんだって、信じられる?」みたいな発言をしているのを見つけたんです。「あ、先にやられてしまった」とは思いましたね(笑)。

――「(国会に)国のリーダーにふさわしい人がいない」とか「さしかえはおかしい」とか、一斗の言っていることは「まっとうなこと」なんですよね(前者はあんまり大きな声では言えませんが)。「まっとうなこと」が守られていない現状を考えると、政治の場と私たちの感覚には、意識の差があるように感じられます。

本作を執筆する過程で気をつけているのは、政治家の感じに自分は慣れないようにすることでした。あくまで一庶民としての視点で、「えっ」となる気持ちを忘れずにいたい。そのため、過度に政治家と仲良くならないように気をつけています。仲良くなると、人間関係で悪く書けなくなるかもしれないので(笑)。

――政治家の発する言葉が形骸化している、言い換えれば言葉から際立った知性や、独自の表現力が感じられないところが面白いと思います。福太郎自身も自分の支援者の人たちへの挨拶について、「テンプレ」なんて形容を使っている。

「テンプレ」については、漫画だからそうした表現を使ったわけではなく、じっさいに今の政治家は、昔の政治家に比べて言葉が貧しいとは感じています。良くも悪くも、舌先三寸で人を丸め込むのが政治家の仕事だと思うんですけど、今の政治家は本当にテンプレの言葉づかいしかしないし、演説を聞いて、私たちが感じ入ったりすることもまずありません。むしろもっとうまい言葉や表現で、私たちを騙してほしいと思うんです。

――それには、政治家がちゃんと批判されなくなっている状況も作用しているかもしれません。ひとつには、今の政治家には、「キャラクター」の面で消費される部分はあると思います。たとえばかつての石原慎太郎、また麻生太郎のように、極端な発言をする政治家が「堂々と自分の意見を述べている人」みたいに、ホワイト解釈がなされてしまう一面は否定できません。

そうですね。麻生さんについては、少し前の「マイナンバーなんて使ってないし、メリットがない」という記者会見での発言は好例かもしれません。政治家にはまず許されない発言なんですけど、麻生さんだから仕方ないとか、そういう風に受け止められてしまう。本来は、もう少しメディアが糾弾しなくてはいけないことではあります。

――『恋と国会』における首相も国民の声を「雑音」と口にするなど、あまり好感が持てない人物として描かれていますが、それは現実と乖離した設定とは思えません。なぜ、信頼できる政治家が出てこないのでしょうか。

強烈なリーダーシップを持った人に対する、本能的な危機感のようなものがある気がしています。「強いリーダー」に従うと、取り返しのつかない惨事が起きるかもしれないから、憧れはするけど、そういう人を内心で欲さないようになってしまう。

私は第二次世界大戦周辺の話がすごく好きなんですけど、あの時代にはヒトラー、ムッソリーニ、スターリンと、世界に名を轟かせたリーダーが生まれていますよね。彼らの影響は自国に留まらず、まさに世界を熱狂させた。日本もそれに引きずられて、大戦に突入した過去があるので、それが恐怖感となって刻まれているのかもしれません。ものすごいカリスマが出たら困るので、政治家は小物でいいんだという、暗黙の了解があるような感じです。

――ただ、一斗は「大物」になりそうな気がしています。

一斗はみなしごなので、親類がいません。一斗が大物になるとすれば、それが大きいと思います。守るべきものがないことは、命を懸けられることにもつながる。私自身も、一斗が政治のために命を懸けるという場面を、これから書くことになるのではないかと思います。親族のつながり、言いかえれば束縛の強い福太郎には難しいことでもあるでしょうし、政治家としてのふたりの評価の分かれ目は、ここから生まれてくるのかもしれません。

――福太郎は既得権益の側にいることもあり、やや保守的ではありますけど、人の名前をしっかり覚えていたり、ニュースにも万全に目を通したりと、職業倫理の高さは感じられます。一斗と福太郎、このふたりが合わされば理想的な政治家になる感じがしますね。

本能でしか生きられない政治家と、本能以外のところで生きようとする政治家ですね。本能と理性が合わされば、確かに理想には近づくかもしれません。


政治に興味を持つには何が必要か

――一斗が政治家を目指すきっかけとして、アイドルグループで一緒だった女の子が自殺したことが語られますが、まず自身の経験があったというのは強いですね。これは政治の語りにくさにもつながるなと思っていて、私たちは日常で社会問題に大きく直面する機会が限られているから、主体的に社会問題を語りづらくなっている状況はあると思います。

今日、堀潤さんがパーソナリティを務められているラジオ放送(時事解説番組「Jam the WORLD」)を聞きました。品川の入国管理局を取材した際のエピソードを話されていたんですけど、収容されている、不法滞在で送還される人が窓から手を出して「助けて」と口にするところを見て、衝撃だったと。こういうことを日本人は知らないと堀さんは語られていたんですけど、実際、「え、そんな施設あるの」となる人が大部分だと思います。

――移民の問題もそうだと思いますが、たとえばコンビニで外国人労働者の方に接客されるとかはあっても、それ以上の経験を持ってはいない。

そうですね。ベトナムから来た技能実習生の方にしたって、隠されたところで働いているじゃないですか。タコ部屋にぶちこまれて逃げられないようにされていることも、それも含めて、彼らに対して非人道的な扱いがなされていることも、まず日常で知る機会はない。知ろうと思わない限り、情報が入ってこないんです。

――政治に興味を持つためには、何が必要だと思われますか。

自分が不利な目にあうことですね。それがない限りは難しい。ただ逆に言えば、不利な目にあう機会は、生活のいたるところに存在するはずなんです。たとえば社会人になると、給料から税金が天引きされますけど、その割合はだいぶ高いですよね。「なんでこんなに高いの」「その使い道は何なの」と、「なんで」という疑問を持つことは大切だと思います。

「国会」と「国民」の意識の差

――西さん自身のそうした経験としては、何がありますか。

子どもの頃から児童会とか生徒会とか、小さなコミュニティの中で「長」という役割になることが多かったんです。決まったことに従う立場ではなくて、自分の決定に人を従わせなくてはならない経験を数多くしていたから、そこが大きいと思います。

――なるほど。上の立場になると、こうした方が合理的だけど、しかしそれは民主的なのかというジレンマもあると思います。

そうですね。多少強権的にふるまわなければいけないところもあるし、それに対して文句を言われると、その文句をどう抑えるかを考える。そういうことを重ねるうちに、束ねる立場の人への理解が生まれたところはあります。ふり返ると、すごく汚い子どもでしたね(笑)。

――さしかえについても、「煩雑さを減らす」とか、理解を示すことはできます。ただ、いいか悪いかという以前に、多くの人がそうした制度を知らないことに問題があります。

法律についても、どういうプロセスで決まるかはほとんどの日本人は知りません。ラグビーやサッカーの大会が行われているうちに、変な法案が決まったりもする。

連載を始めてから、「記者の目」が私の中で育ったところはあります。芸能人の麻薬所持とか不自然な事件が相次ぐと、何か政治的な裏があるのではと。この時期にこういう事件が起こるということは、政治の動きから目をそらさせる目的があるのではないか…という(笑)。

――政治のニュースはよくご覧になられますか。

以前は食い入って見るような感じではなかったんですけど、連載を開始してからは入念に目を通すようになりました。国会中継もよく見ます。国会を描く上では、全体像をはっきりと提示しなくてはならないので、答弁をしている人だけではなく、脇であくびをしているような人たちも観察しています。

――最近の政治のトピックでは、何に関心がありますか。

「桜を見る会」についてですね。ただ問題そのものというより、政治家の方たちの向き合い方に疑問を覚えています。コロナウイルスの問題がここまで深刻化しているのに、「桜」の問題がいまだに国会での論点になっているのはなぜなのだろうかと(※編集部注:インタビューは2月下旬に行われました)。

外の目線からすれば、いったん目先の対立は置いておいて、まずコロナ対策を集中的に行いませんかと思うんですけど、それができないのならば、国会は国民とは隔絶した世界なんだなと思えてきます。私たちの危機意識とシンクロしていない。

――読者へのメッセージをお願いします。

本来の自分の持ち分ではあるんですけど、「恋もちゃんとやるから、期待してくださいね」とはお伝えしたいです。今のところ、恋の進展は地方自治を扱った『恋と軍艦』(講談社)に比べても、ずっと遅くなっています。緻密さが求められることもあって、これまでは「恋と国会」の「国会」ばかりに気を取られてはいたので、それは反省点ですね(笑)。今後は「恋」の進展も楽しんでいただければと思います。

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若林良

1990年神奈川県生まれ。ドキュメンタリー批評誌「neoneo」編集委員。「週刊現代」「週刊朝日」「好書好日」「ヱクリヲ」「DANRO」などで映画・文学・歴史分野を中心に執筆。著書に『偉人たちの辞世の句』(辰巳出版)、共著に 『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』『アニエス・ヴァルダ 愛と記憶のシネアスト』(neoneo編集室)。

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