「直接民主制」とN国党・立花氏の目指すもの(海保けんたろー)
2019/09/05
参議院議員選挙後の臨時国会閉会から約1か月が過ぎた。この間、世間の注目を集めてきたのは、間違いなく「れいわ新選組(以下・れいわ)」と「NHKから国民を守る党(以下・N国)」の2つの新興勢力だった。
政党要件を満たさない政治団体が参議院議員選挙で議席を獲得するのは、2001年に「非拘束名簿式」が採用されてから初めてのことだ。両党とも選挙中は「諸派」扱いをされ、テレビや新聞で取り上げられることはほとんどなかった。その大きなハンディキャップをインターネットの活用で克服し、国政政党の座に躍り出た。
しかし、当選後の評価は大きく異なる。れいわに関する話題が「希望」や「新しい風」として語られる一方、N国を巡る話題は「騒動」や「脅威」として語られることが多かった。これまで主要メディアで報じられることが少なかった「新興勢力」の登場に、日本社会は明らかに戸惑っていた。
れいわから当選した2人の参議院議員、舩後靖彦と木村英子は、当選直後から国会の対応に変化を生んでいる。重度の身体障害者である両議員は、従来の国会の設備では議場に入ることができない。そのため、参議院の国対を中心に素早い対応が取られ、議場の改修工事が速やかに行なわれた。また、「起立採決は介助者の挙手による代理賛否表明」「PCの持ち込み可」「中央玄関にスロープを設置」などのバリアフリー合意も進んだ。
「今まで国会は何をしていたのか」という批判もあった。しかし、全く対応できない国ではなかったことにわずかな希望を感じる。
一方で不十分な点もある。今回、舩後・木村両議員の国会内での介護費用は参議院が暫定的に負担することが決まった。しかし、両議員が問題提起したのは、現行制度が重度障害者の社会進出や労働を妨げている現状だ。二人の当選をきっかけに、制度を作る立法府本来の仕事があらためて問われている。
今回、れいわは参院選比例区で228万253票(得票率4・55%)を獲得し、特定枠の舩後・木村の2人を国会に押し上げた。山本太郎代表自身は落選したが、参議院比例区の全候補者中最多の99万1756票を獲得した影響は大きい。選挙後は山本へ各メディアからの取材が相次ぎ、世間に露出する機会が大幅に増えている。メディア側に大きな変化が起きたのだ。
メディアが政治団体や候補者を取り上げる際、判断材料の一つとなるのが「政党要件(国会議員5人以上、もしくは選挙区か比例代表で全国2%以上の得票)」だ。これはあくまでもメディア側の自主規制だが、政党要件をクリアしたことで、れいわが得たメリットは計り知れない。インターネットを使わない層にも情報が届くため、党の認知度は高まる。金銭面でも国からの政党交付金を得られる。今後は日本に9つしかない国政政党の一つとして、多くの有権者から厳しい評価の目が向けられるだろう。この機会を活かせるかどうかが、れいわの大きな課題となる。
ちなみに山本代表は「次期総選挙では100人の候補者を立てたい」「総理大臣を目指す」と明言している。筆者が『週刊プレイボーイ』8月19日号で山本にインタビューした際にも、「野党がしっかり共闘していくと示してくれれば、『お楽しみカード』の一つとして私を使ってもらえる」と語っていた。
同誌で取材をした際、筆者は次期総選挙での山本の選挙区について、神奈川2区(現職・菅義偉)、山口4区(現職・安倍晋三)、神奈川11区(現職・小泉進次郎)はどうかと聞いた。すると山本は「東京12区も面白い」(筆者注・公明党の太田昭宏元代表が選挙区での出馬を見送り、岡本三成が予定候補として公認済)、「麻生太郎さんの福岡8区も面白い」と応じた。彼が発した「どこでも行けますよ」の言葉を不気味に思う政治家は少なくないだろう。
れいわは9月17日に、赤坂見附に新しい党本部を構える。そして翌18日からは全国ツアーが始まる。スタート地点は北海道の利尻島。日本を縦断しつつ、次なる戦いの仲間たちを募っていくことになる。全国の有権者は、れいわをどう迎えるのだろうか。
筆者は参院選前から指摘してきたが、あらためて言う。N国は単なる「お騒がせ政党」ではない。運だけで国政政党になったわけでもない。2013年の結党以来、N国は地方選挙での経験を重ね、選挙結果を分析し、戦略を練ってきた。その結果、参院選比例区では98万7885票(得票率1.97%)で1議席を獲得した。全国の選挙区での得票率が3.02%となり、政党要件も満たした。
N国に一票を投じた有権者の思いはそれぞれだろう。しかし、変わらないのは当選の事実だ。選挙に行かなかった人も含め、有権者は選挙結果をしっかり受け止める必要がある。
N国に限った話ではないが、「選挙は投票して終わり」ではない。当選者が「特別職の公務員=社会全体の奉仕者」としてふさわしい仕事をしているかどうか、有権者は監視し、よりよい政治家に育てていくことが必要だ。
参院選での議席獲得直後から、N国の立花孝志党首は活発に動いて世間の注目を集めてきた。7月29日には、北方領土に関する「戦争発言」で日本維新の会を除名された丸山穂高衆院議員を党員として迎え入れた。
翌8月1日には渡辺喜美参院議員と立花が同席し、新会派「みんなの党」の結成を発表した。渡辺は入党しなかったが、会派を組むことでN国の発言の場は拡大した。さらに立花は「国会議員5人」を目指し、秘書へのパワハラで捜査を受けている石崎徹衆院議員(自民)や、他の無所属議員にも声をかけていることも明かした。勢力拡大に向け、なりふりかまわず声をかけるN国は、間違いなく世間の目を引いた。一方、それ以外の政党はN国ほど“派手な動き”ができなかった。
N国が党の存在を世に知らしめるツールとして使ってきたのはYouTubeだ。立花は自身のYouTubeチャンネルに連日動画を上げ、視聴回数を増やすことで広告収入を得てきた。当選後は「国会議員ユーチューバー」を名乗り、各地に出向いて声を上げ、発信を続けた。その結果、視聴者数は参院選で議席を獲得する前の3倍以上に増え、1日あたり50万円ほどの広告収入が入るまでになった。
結党以来、折に触れてN国を取材してきた者として言う。N国を従来の常識で図ろうとするのは無理だ。理解できない。それは立花自身が「常識はずれのことをあえてやり続ける。ヒール(悪役)をやめることはない」と発言し続けていることからも明らかだろう。
N国に対して「国政政党としてふさわしくない。品がない」という批判をしても、全く響かない。常識はずれの行動は、YouTubeで格好のネタになるからだ。立花が訪れる“騒動の現場”には多くの動画配信者が集まり、N国の行動を全国に拡散する。立花自身が“台風の目”だと言ってもいい。N国にとっても、配信者にとっても「おいしい」関係が続いている。炎上であろうがなんであろうが、常に話題を提供することが、人を集める「N国の新常識」なのだ。
立花は、次のようにも言っている。
「嫌われてもいい。有権者40人のうち、1人に投票してもらえれば当選できるんです」
実際、N国が得意とする大選挙区では、40人に1人、つまり2.5%の票を得られれば議席を獲得できる。N国はこれからもあの手この手で話題を提供し続けるはずだ。
8月4日に投開票が行なわれた柏市議会議員選挙には、N国から前朝霞市議の大橋昌信が公認候補として立候補した。
大橋は今年4月、任期途中で朝霞市議会議員を辞職した際、筆者の質問に答える形で辞職理由を次のように明言している。
「朝霞市議は歳費が安い。柏市の方が歳費が高いので、朝霞市議をやめて柏市議選に立候補する」
大橋は柏市議選の直前となる7月には、参院選東京選挙区にも立候補した。結果は12万9628票で落選だったが、N国から立候補した選挙区の候補者としては唯一、供託金返還ラインを超えた(得票率2.25%)。
この参院選の選挙期間中、筆者は東京選挙区で活動中の大橋にあらためて聞いている。
「朝霞市議を任期途中で辞職して柏市議選に挑戦するというのは、朝霞市の有権者に対して『悪いな』とは思いませんか?」
大橋は胸を張って答えた。
「全く思いませんね! 朝霞では今度、N国から別の人間を立てますし。朝霞でNHK集金人からの被害に苦しむ人には、電話をもらえればこれまでと変わらず対応しますんで」
駅前で大橋が演説していると、通りがかりの男性が大橋に対して無言で中指を立てながら、その中指が一緒にフレームに収まるように写真を撮影して去っていった。それを見た大橋は「はいはい、かわいそうな人ですね」とマイクを通してため息をついた。
続く柏市議選では、N国と一般市民との間でトラブルも起きている。柏駅前で大橋の応援に立花が立った際、聴衆の男性がたった一言、「嘘つき」とヤジを飛ばしたのだ。
「嘘つきって言ったの誰?」
立花は男性の一言を聞き逃さず、演説の途中でマイクを持ったまま男性を追いかけはじめた。立花に続いてカメラを持ったN国の支援者や配信者たちも集団で後を追った。
立花が「選挙の自由妨害」を盾に詰め寄ると、N国の支援者たちも男性を取り囲んで声を上げた。男性がタクシーに乗り込もうとすると、立花は「逃亡の恐れがある」という理由で男性を「私人逮捕」した。立花は一部始終をモザイクなしでYouTubeにアップした。
動画のタイトルは「柏市議会議員選挙中に選挙妨害があり妨害者が逃亡を企てたので現行犯逮捕して柏警察に引き渡しました」。たった一言のヤジが選挙妨害にならないことは、過去の事例からも明らかだ。従来の常識や道徳、倫理観をもってすれば「スルー案件」だが、N国は「選挙の自由」をタテに詰め寄る。「今までの有権者は『選挙の自由』への認識が甘すぎる」と主張する立花に、従来の常識は通用しない。
残念ながら、主要メディアはN国のこうした過激な面を報じてこなかった。公職を目指す候補者や政党について、選挙前から多様な情報を伝えることもメディアの役割だろう。
筆者がそう考えたのは、選挙中にこうしたトラブルがあったにも関わらず、大橋が柏市議選で当選したからだ。しかも、3003票を獲得し、定数36人中14位。投票率が34.22%だったとはいえ、有権者はこうしたN国の騒動を知った上で投票をしたのだろうか。もし、それを知った上でN国のような激しい政治家を求めているのだとしたら、それはそれで驚くべき現象であり、十分に取材対象になるだろう。
さらに8月に入ると、N国は東京MXテレビの前で抗議活動をしはじめた。7月29日に放送された同局の番組『5時に夢中!』において、タレントのマツコ・デラックスがN国や支持者を「気持ち悪い人たち」と評したことがきっかけだった。
立花党首は自身のユーチューブで、マツコ・デラックスを「権力の犬!」「ワンと鳴かせてやる!」と罵った。さらには「番組スポンサーである崎陽軒のシューマイ(正式名称「シウマイ」)不買運動をする」とまで宣言し、対決姿勢を鮮明にした。
しかし、この抗議行動に対する世間の風当たりが強くなると、N国の態度は軟化した。2回目の抗議となった8月19日、MXテレビ前に現れた立花は「謝罪じゃなくて弁明をしてほしい」「マツコさんを個人的にこれ以上責めるつもりはない」などと急速にトーンダウン。崎陽軒のシウマイを片手に「(不買運動は)勇み足。崎陽軒さん、すいません。積極的に買う」と謝罪した。
立花は現在、MX前での抗議行動は行なっていない。しかし、MXとマツコ・デラックスを相手に原告1万人の集団訴訟を起こす方針を示している。ちなみに、立花自身は原告に加わらないという。
さらに9月9日、立花はかつてN国に所属していた二瓶文徳・中央区議への脅迫容疑で警視庁から任意で事情聴取を受けた。
今年7月以降、立花は自身のYouTubeチャンネルで、今年4月の統一地方選挙にN国党から立候補して当選後、除名処分となった二瓶文隆・江東区議とその息子である二瓶文徳・中央区議らを攻撃する動画をアップしていた。
立花は7月にYouTubeにアップした動画(現在は削除されている)で、「オレ、この子のお母さん、彼女も知ってますよ。徹底的にこいつの人生、ボクは潰しにいきますからね。二瓶親子、とくに息子、覚悟しておけ。お前ら、許さんぞボケ!」と発言していた。
(立花は9月13日の定例記者会見で、「当然、彼女やお母さんに対して自由を奪おうとは思っていなかった」と釈明した。)
今年4月の統一地方選後、N国は一時的に39人の地方議員を抱える勢力になった。しかし、その直後に開かれた総会で、立花は「現職議員は130万円を党に入れてほしい」と発言。これを拒んだり疑義を呈したりした10名の地方議員を除名処分にしている。
筆者は大量の除名者が出た後、立花に話を聞いた。その際、立花は、「ぼくは去る者は負わないんですよ。むしろ、NHKから国民を守るつもりがない人たちがいなくなってよかった」と語っていた。それだけに、一転して攻撃性の強い動画がYouTubeにアップされたことに驚いた。これでは、いつ、誰に矛先が向くかわからない。
筆者が懸念するのは、相手を選ばない悪目立ち行為が続くことにより、世間に「N国に関わると面倒なことになる」という空気が蔓延することだ。N国をアンタッチャブルな存在にしてしまえば、N国の実態がますますぼやける。メディアが常に監視をし、冷静に情報を提供していかなければ有権者も判断できない。「反NHK」というイメージだけを流通させることは、有権者にとっても危険なことだ。
N国は、NHKという巨大な組織を批判することで勢力を拡大してきた。NHK問題に対してほとんど動かない政治家たちを“既得権者”として批判もしてきた。
しかし、政党要件を獲得したことで、N国自体もすでに「既得権」の側に立っている。議員歳費はもちろん、政党助成金も支払われる。次の衆院選で当選者を出せなくても、候補者を立てれば「得票数の割合」に応じて政党交付金が手に入る仕組みも手に入れた。しかも、国会議員をリコールすることはできない。「政党要件を満たす」というのは、大変な既得権なのだ。
税金が投入されるにふさわしい政治家とは、どんな人物なのか。今一度、有権者一人ひとりが冷静に考えることが必要だろう。
(文中敬称略)
(記事中の写真の撮影・畠山理仁)
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