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「女性議員が増えることで、本当に、暮らしやまちは良くなるのか?」(柿沼とみこ埼玉県議会議員へのインタビュー・聞き手:池田麻里)

2019/3/6

池田麻里

池田麻里

2018年5月に成立した「候補者男女均等法」では、女性候補の割合を50%にするよう政党に努力義務を求めている。女性議員の増加は、政治や社会にどんな変化をもたらすのだろうか。

今回は埼玉県議会議員の柿沼とみこ氏。自由民主党所属の2期目。高校卒業後に埼玉県庁へ入庁、働きながら、子育てをしながら、嫁業もこなしつつ、学業を続け、埼玉県庁で女性初の環境防災部長に就任した元祖スーパーウーマン。知事特別秘書を務めたのち、2008年3月、県内初の女性町長として大利根町町長に当選。加須市、騎西町、北川辺町との合併を成功させる。2011年から埼玉県議会議員。私が最も尊敬する女性です。2019年の仕事始め、埼玉県新年会の後にお話を伺いました。

今回お話を伺った埼玉県議会議員の柿沼とみこさん

一日24時間では足りない毎日からプロ意識を育む

-では最初に、高校をご卒業後、県庁職員を目指されたきっかけをお聞かせください。

私達の時代-50年以上前の話になりますと、女性が働ける場がそれほどありませんでした。そこで、伯父から「公務員なら試験を受ければ社会進出できる、男女関係なく働ける」と埼玉県庁を勧められ受験して入庁しました。
今、思い返すと、県民のためという思いを基本路線にすれば良いので、私に適していたのだと感じています。

-当時の女性職員は毎朝同僚にお茶を出していたと聞きましたが・・・。

お茶くみには全く抵抗はありませんでしたね。私も毎日出していました。お茶どころかコーヒーとか、あらゆるものを出していましたよ(笑)その分、重い物とか高い所の物を取るということが私は苦手なので、男性職員がやってくれましたしね。

ただ、私が公務員としてのプロ意識を認識するきっかけが何度かありました
ひとつは労政事務所へ異動になった時。その頃、人事異動の着任日は5月1日でした。
でも、5月1日ってメーデーですから。労政事務所の全職員が出払ってしまっておりました。
私にとっては勤務初日です。勤務場所の労政事務所へまいりましたが、誰もいない訳です。
当時は労使の対立も激しかった頃だから、ストライキもあちこちで起きていて「俺が今日勤めに行けない分の賃金をどうしてくれるんだ!」とか苦情の電話がじゃんじゃんかかってきました。でも私はまだ辞令も受け取っていなくて、どこへ配属になるかも、業務内容ももちろん分かっていません。だから「今、誰もいなくて留守なのですが・・・」と答えたら「あんた、県職員だろう?あんたがいるだろう。」と返ってきました。その言葉を聞いた瞬間、私はもうプロなのだと自覚しなければ!と思い知りました

その後のことですが、私が電話に出ると「何だ、女か。男は誰もいないのか。」と言う人もいるのです。そこで「私がおります。何でも仰ってください」と応じると、「あんたに分からないだろう」と返ってきて。だから、「分かるか分からないかは用件を伺ってみなければ分かりません」と頑張ってどんどん仕事を受けました。

もうひとつは海外での経験です。
私が労政事務所の主任になった頃、海外研修へ派遣する職員の対象が主任にまで広がりました。私は「女性・若年労働の現状と労使関係への行政の介入について」というテーマで論文を書いて応募しました。海外研修に選ばれるのは、部から一人です。
当時、上司は直接私には言わないけれど「うちの部には男はいないのか…」とぼやく状況です。とはいえ、私は最終審査に通り、論文のテーマに沿った勉強をするため、ヨーロッパへ行きました。
訪問先では「あなたはどんなスキルを売って給与を得ているのか?」「仕事の基本は何か?」など色々な質問を受けました。大平内閣のときでしたので「日本では大平内閣が成立したが、あなたはそれについてどう考えているか?」とも聞かれました。日本の公務員、それも一主任が、なかなかそういう観点で物事を見ないでしょう?
はっとさせられました。どこへ行っても、どんな時でも、日本の代表という自覚を持ち、どれだけ自分が仕事をできているかと意識しながら取り組まなければならないなと実感させられました。

同時に、私はもともと読書好きでしたので、シェイクスピアやルソー、モンテーニュなど世界の思想史とか文学全集を読んでいました。けれど、ヨーロッパで相手が尋ねてきたのは、近松門左衛門や井原西鶴について。とにかく自国の歴史文化をきちんと捉えておくことが大前提だとも気づかされました。それからは、東洋思想を勉強し、現在も安岡正篤研修会などを続けています。

そうやって、仕事と人間としての土台について認識を改めさせてもらい、プロとして、公務員として生きていくのだという覚悟ができました。

私達の頃は産休が産後の3ヶ月のみでしたから3ヶ月したら出勤しました。産前は休まなくてもよいのです。法的には「休んでもよい」と書いてあるだけで休まなければならないとは書いていませんからね。産後3ヶ月は休まなければならない、だからその分は休んだ。けれどそういう時に同僚が私の仕事を代わってやってくれるわけでしょう?それは、県庁に対する私の借りだ、仕事の借りだと。この借りはいつか返す。そう思いましたね。そういう思いで仕事に取り組んでいました。

一番大変だったのは、子どもが百日咳になった時。百日という通り3ヶ月ほど、生きるか死ぬかの状態が続くのです。預けていても、時にはチアノーゼ状態のように真っ青になったり、自宅でも、いよいよ息を引き取ったかというようにわなわな震えているところを脚を持ち上げてさかさまにして、叩いて、息を吹き返させるなんて場面が何回もあったので、毎日毎日医者に連れていかなければならない。相当大変でした。水疱瘡やおたふく風邪のように、1、2週間ではないでしょう?でも、子どもの病気で休めないから大変でした。今と違い、夫は子どもが病気をしたことなんか全く気付かないくらいでしたから。

-うーん、ちょっと時代が・・・。

そうね、だからお産以外で休んだことが無いわね。病気したことがありませんね。

-気力が体力を補っていたんですねぇ。すごい。
-ご入庁の同期には女性はいらっしゃったのですか?

います。沢山いましたよ。
でも定年まで残っていた人は本当に何人もいませんね。昇任試験を受けるのは当然だと思っていました。
当時の係長試験、受けた人は沢山いましたが、女性の合格者は私一人でした。試験が大変だったのは確かです。その頃の新聞に「妻子を帰して試験勉強」というコラムが出たほどだから。だけど、私は妻子を実家へ帰すどころではないでしょ。育児、家事も全部引き受けて難関を突破しました。

-ご家族は結婚後も仕事を続けることにはご理解があって?

当初、夫はいつまでもやるのではないだろうな、というスタンスでした。
働き続けることは承知の上で結婚しましたが、近所に工業団地があったので、そこへパートに出る程度と思っていたようです。私自身は埼玉県庁で当たり前にフルタイムの仕事をやっていくという姿勢でしたので、そのズレはありました。
「うちはお前ひとりを食わせられないわけじゃないんだから・・・」とか「柿沼家の嫁はおまえ一人で、県庁には代わりがいっぱいいるのだから、勤めよりも長男の嫁として舅と姑に気を使い、柿沼家の家風は絶対に守ってくれ」と。

-お嫁さんとしてのプレッシャーもありつつ、子育ても・・・。その上、お勤めされながら勉強も続けられたと以前に伺いましたが。

えぇ、そうね。
私の通った女子校では良妻賢母教育はここで十分習得できますから、女の子は大学へ行く必要はないという風潮でした。
しかし、県庁に入庁後、やはり法律をもう少し勉強しなければと通信教育を受けました。毎日の通勤中に法律書を勉強する日々でしたね。電車の中では大抵本を読んでいました。あとは、座れれば原稿を書く。それは今でも続いていますけれど。本当に当時は、自然と目が覚めるまで寝てみたいというのがひとつの願望でしたね。

-女性初の環境防災部長に就任されましたね

同時期にもうひとり女性部長なった人がいますが、彼女は健康福祉部長で、私は環境防災部長。制服を着て、警察や自衛隊の人達とヘリコプターに乗ったりしていました。

-労政事務所もそうですが、硬派な職場ばかりですね(笑)

そうね。いわゆる女性が担当していそうな部署ではないわね(笑)
環境防災部が所管している廃棄物だって色々あるじゃない(笑)土屋知事には「ひとりで夜道を歩かないように」と心配していただきました。「俺の手を見ろ!」なんて言ってくる人には「あら、まだ右手が残っているじゃない」と返してみたりね(笑)
最終処分場などの現場に行くと、10メートルもの穴が掘ってあったりするから、そしたら、わざと大声で「記念写真撮りましょうよ」「ここで後ろからドンとやって埋めたら全然分からなくなっちゃうね」なんて言ったりもして。

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池田麻里

池田麻里

池田麻里。 1975年生まれ。早稲田大学在学中に代議士事務所でインターンを経験。民間企業勤務を経て枝野幸男秘書へ。2007年さいたま市議会議員に初当選。3期12年にて引退。女性を政治の場へ送り出すために活動中。

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