戦端を開くか憲法改正、それにしても稚拙すぎる自民の草案:参議院選挙2013

2013/07/10

コラム

選挙ドットコム

竹内謙(ジャーナリスト)

 マスコミはときどきの選挙についてよく「最大の争点」などという言葉を使う。そんなことをだれが決めるのだろうか。もちろんマスコミにそんな権限はない。多くの場合は政権政党や有力野党が自らの選挙戦略上の都合で争点を言い出す。マスコミはほとんど有力政党の言いなりの報道になるから、それがいつの間にか定着する。マスコミの自主性らしきところといえば、政党間の対立が鮮明になる方が部数や視聴率が上がるので、何か問題になりそうな言動があると対立を煽って争点づくりに励む程度のことだ。
今度の参院選の場合、マスコミのいう最大の争点は「アベノミクスの評価」。報道を見ていると、アベノミクス関連の「景気・雇用」や「社会保障・福祉」が有権者の関心事の上位に位置している。これは安倍政権にとっては思うつぼ。昨年12月の衆院選に圧勝した後「参院選まではもっぱら経済」と党内で示し合わせた自重戦略がまんまと図に当たった形だ。
本来、争点とは選挙の主人公たる有権者が独自に決めるべきことだろう。震災復興、原発再稼働、財政再建…。なかでも憲法改正こそが「最大の争点」と考える人も多いはずだ。なぜなら、「戦後レジームからの脱却」を標榜する安倍晋三首相は、憲法の3大基本原理である平和主義、基本的人権、国民主権を大幅に後退させようとしている。参院選で改憲勢力が3分の2を上回れば一気に改正に動き出す可能性がある。3分の2には満たなくとも与党が過半数を確保すれば、国民投票法の見直しや集団自衛権の解釈変更など改憲へ向けて環境整備に着手する構えを見せている。自民党結党以来の宿願である憲法改正が現実化する可能性が極めて高くなっているからだ。
自民党は昨年4月、「日本国憲法改正草案」を発表した。これが憲法改正を党是としてきた政党の答案か、と疑いたくなるほど稚拙極まる代物なのだ。憲法とは何ぞや、の基礎知識も欠いている。それでも必要な議席数さえそろえば突き進まざるを得ないのが政治の現実だ。こんな憲法が罷り通っては大変なことになる。
自民党の憲法改正のポイントは、まず第9条(戦争放棄)第2項に定める戦力の不保持(陸海空軍その他の戦力は保持しない)と交戦権の否認(国の交戦権は認めない)を削除、「国防軍」を創設し、「自衛権の発動を妨げるものではない」に改める。この条文のタイトルは「戦争放棄」から「安全保障」へ、要は戦争のできる国にするのだ。さらに表現の自由(第21条)に「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」という条文を追加したように、基本的人権の規定にはことごとく「公益及び公の秩序を害さないこと」という条件を課した。一方で、国旗国家尊重義務、領土資源確保義務、憲法尊重擁護義務など国民の義務を数多く書き入れた。家族の助け合う義務といった道徳まで混入している。そして改正を容易にするために第96条の発議要件を衆参両院での「3分の2以上」から「過半数」に緩和し、これを先行して改正しようという姑息な手を企てている。
そもそも憲法は、個人の権利、自由の保障を目的に、国民が公権力の行使を縛るものであり、それが近代立憲主義だ。ところが、自民党草案は国家が国民を縛る逆立ち発想があちこちに滲み出ている。党内には「現行憲法は国民の権利ばかり書いてあって義務が少なすぎる」という不満が長年にわたってくすぶり続けてきた。それがいくつもの義務規定となって現れたのだろうが、憲法は国民の権利擁護が目的なのだから義務規定が少ないのは当然のこと、憲法を尊重する義務は権力側に課されるべきものであって、国民の義務にはなじまない。この点も憲法が解っていない証といえる。 現行憲法の前文書き出しは「日本国民は、」だが、自民党の草案は「日本国は、」で始まる。こんなところにも自民党の憲法に対する基本的誤解が象徴的に現れている。
憲法改正は主権者たる国民から澎湃として改正の声が起こり、それを受けて国会が発議の手続きを進めるべき性格のもので、国民の声もないのに政党が選挙公約に憲法改正を掲げること自体が本末転倒している。まして憲法に縛られている権力側が改正のハードルを引き下げるよう提案するとは厚かましいにもほどがある。
参院選の公示を前に7月3日、日本記者クラブで9党党首による討論会が開かれた。その席上で安倍首相は、福島瑞穂・社民党党首の「憲法は国家権力を縛る立憲主義です。自民党の憲法改正案はこれに則ったものでしょうか」という質問に対して、驚くべき発言をした。
「憲法は権力を縛るという側面が確かにあります。しかし、全て権力を縛るものであるという考え方は、王権の時代、専制主義的な政府に対する憲法という考え方であって、今は民主主義の国家である以上、権力を縛ると同時に国の姿について書き込んでいくものなのだろうと私達は考えております」
これは全くのめちゃくちゃである。王権の時代に政府を縛る憲法があったなどとは聞いたことがない。市民が王政を打倒し、民主主義的な国家をつくる過程で、王政時代の横暴を繰り返させないために権力を縛るよう定めたのが憲法である。民主主義の国家だからこそ立憲主義なのだ。これは日本の首相が立憲主義や民主主義国家を否定した破廉恥発言として歴史に残るだろう。安倍首相の改憲病も膏肓に入った感がある。
マスコミの調査によれば、憲法改正に対する有権者の関心は低い。経済政策で投票先を決める人が多ければ、憲法や原発はいよいよ危機に陥る。「選挙の争点」は投票者自身が決めなければならない。

以下に憲法改正をめぐる各党の態度を簡単に整理しておく。改憲勢力といわれるのは、自民、維新、みんなの3党。公明、民主、生活、大地、みどり、共産、社民の各党は96条改正反対で足並みを揃える。
◆自民:「日本国憲法改正草案」を発表(2012年)
◆維新:首相公選制、道州制、一院制など統治機構の改革。96条先行改正
◆みんな:一院制や首相公選制など統治機構の改革。9条は自衛隊のあり方を明確化。96条の先行改正は「憲法改正の前にやることがある」(渡辺代表)と慎重姿勢に転換
◆公明:環境権などを加憲。9条は堅持(自衛隊の存在は加憲で明記)。96条維持
◆民主:未来志向の憲法を構想。96条の先行改正反対。「憲法提言」を発表(2005年)
◆生活:平和主義に基づく自衛権行使、国連平和活動への積極参加。96条堅持
◆大地:9条堅持、自衛隊の位置づけを明確化。96条維持
◆みどり:憲法を守り育てる。96条の改正反対
◆共産:改憲阻止。全条項を守る。9条、96条改定反対
◆社民:改憲阻止。9条、96条改定反対

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