福島第一原発の事故によって全村避難を余儀なくされていた川内村は、遠藤雄幸村長が1月31日に行った「帰村宣言」を受け、4月1日から行政機能が再開する。
村内にはまだ警戒区域となっている場所もあるのに、これはあまりにも早い措置ではないかと憤るのは、遠藤村長の対抗馬として、4月22日投票の市長選挙に立候補を表明している西山千嘉子さんだ。「住民がバラバラになったら自治体ではありません。主役の住民が地元にいないのに、選挙で村長を選んでおけば民主主義だというやり方は、自治体を運営する方法として適切ではない」と話す。
西山さんは村会議員を1期務める中で、村がもつ特有の政治文化に異を唱えてきた。かつての選挙では、立候補者からお金(賄賂)を渡されたこともある。受け取れませんと突っぱねると、暗に嫌がらせを受けた。村内に起こったゴルフ場建設問題では、意見対立によって村八分にされる人の存在も見た。
こんなのはおかしいと感じた西山さんは、少しずつ集会などで発言するようになった。「その頃はね、『みんな同じ村なんだから、仲良くしましょうよ』なんて言ってたんですけどね、甘かったわ」と笑う顔には、闘士としての苦労が伺える。
何とか村を「真っ当」にしていきたいと議員に立候補し、2回目の挑戦で当選した。「でも、議会の中にいてはね、変わらないんですよ。多数決だから、1人では決められないし」。議会の決定事項は自らの意思ではないことを表明するために2期目には立たず、村長選に立候補することを決めた。
だが、今回の選挙は困難を極めることが予想される。有権者である村民がどこに避難しているかわからないため、直に政策を訴えることができないからだ。選挙の法定ハガキも郵送できない。訴えを届けるために、村民の避難先の住所を教えてくれないかと役場に掛け合ったところ、個人情報の保護を理由に断られた。では教えてくれなくてもいいから、代わりに役場から選挙ハガキを送ってもらえないかと打診したが、それは候補者がやるものだと断られた。
「こんな状況じゃ、どうしたって現職が有利なんですよ」と西山さんはため息をつく。
川内村の選挙管理委員会はこうした西山さんの訴えに対し、理解は示すものの、特別措置は講じないという。担当者は「避難している方には、期日前投票と不在者投票で対応します。選挙公報も作って、有権者に郵送します」と対応をアピールする。
肝心の村民は、こんな事情を知らない。西山さんが「話をしたいのに、誰がどこにいるかわからなくて困っている」と言えば、役場が住所を教えてくれないことに同情してくれる人はいる。でも多くの村民は、選挙を通して代表を選ぶ過程で政治に参加しているということに意識を向けているわけではないし、そもそも、政治活動や選挙運動自体、川内村では珍しいものだという認識がある。
前回の村長選は無投票で、議会選挙でも選挙運動はほとんど行われないという。選挙運動をやらないで、有権者はどのように候補者の品定めをするのだろう?
「組織票か、宴会なんです」
宴会とは、立候補関係者の家などで行われる飲食を伴う集まりのことで、公職選挙法で明確に禁止されている。「そういうところなのよ」と西山さんは力なく笑う。
避難先として借り上げられている住宅のいくつかには街頭演説で訪れるつもりだが、それでも福島県外に避難しているとみられる400人余りには、接触しようがない。そこで西山さんは、インターネットに希望をつなげる。
支援者がホームページを立ち上げ、日々の思いをブログに書き綴る。近々、政策を動画で配信する予定もある。川内村の住民はインターネットに疎遠な人も多く、どれだけ有権者に届けられるかわからないが、西山さんは「インターネットを使っている皆さんの力をお借りしたい」と話す。
有権者には届かないかもしれない。それでも、今回の選挙では、有権者の選ぶ権利と立候補者が正当に選ばれる権利がないがしろにされているという事実を訴えたい。できれば、村長選という目の前の戦いだけではなく、村という小さな単位での民主主義の在り方について、みんなが考えるきっかけにしたい。
「皆さんに、現状を知っていただきたいんです。川内村は私のふるさとだから、こんなところ、と思うんだけど、諦められないんです。多くの皆さんに目を向けていただいて、できれば川内の外からもおかしなことには声をあげていただきたい」と語る西山さんの思いは、ネットユーザーに届くだろうか。
この記事をシェアする
選挙ドットコムの最新記事をお届けします