竹内謙
2011年4月13日
都道府県と政令市を対象とする統一地方選前半戦が終わった。その夜、NHKテレビが伝える開票速報を見ながら、何とも情けない気分になった。いったいこの選挙は何だったのか。大震災後の針路を定めなければならないというのに、政党は有権者に選択肢を用意できなかった。国民に明日を語り掛ける言葉もなかった。日本はどこを目指すのか、皆目見当も付かない。2011年、日本の政治は漂流を始めた。
選挙結果を簡単にまとめてみよう(▼はデータ)。
選挙結果を一言で言えば、既成政党は軒並み振るわず、議席を伸ばしたのはみんなの党と大阪、愛知の地域政党だった。みんなの党が健闘したのは渡辺喜美代表の地元の栃木県議選と江田憲司幹事長、浅尾慶一郎政策調査会長の神奈川県議選、横浜市議選など地域が限定されており、かつて河野洋平氏が企てた新自由クラブや細川護煕氏の日本新党のような全国的な広がりはなかった。
いったい、この選挙の勝者は「誰?」だったのか。大阪、愛知の地域政党、栃木、神奈川のみんなの党が元気だったことはわかるとしても、「大阪維新の会」のほかは勝者とまでは言えまい。有権者はそっぽを向く、勝者はいない、こんなわけのわからない選挙をやっていていいのか、私が情けない気分になった1つは、そのことだ。
その夜のテレビにもっとも颯爽と登場したのは4選を果たした石原慎太郎・東京都知事だった。防災服姿で、支持者の待つ選挙事務所に早々と現れ、得意の慎太郎節を炸裂させた。まずは、投票終了の午後8時になった瞬間に当選確実を報じるテレビに「開票も始まってないのに当選確実って、民主主義の選挙のあり方として好ましくないよ」と、ひと理屈捏ねながら挨拶を切り出した。
「4選して何をやるかと言ったら、同じ事をやるしかない。プラスアルファで災害対策だ。東京は日本のダイナモ。東京が止まれば日本も止まる。日本はこれから大変だ。『我欲』を抑えて、生活をつましくしないと日本はもたない。微力ですが私もがんばる。日本人全体がスクラムを組みながら肩を組んでやろう」
「日本の電力消費は世界的に見たら奇形だよ。パチンコと自動販売機で合わせて1千万KW近い量が使われている。ちょうど福島原発の発電量ぐらいだ。自動販売機は便利かもしれないが自分の家で冷やせばよい」
「(民主政権は)無知で未熟な連中が集まって、『政治家で、政治家で』と役人を使わない。この事態になぜ一番ノウハウ持っている事務次官会議をやらないのか。役人をいかに使うかが政治家の力量。こんな政府は前代未聞だ」
「福田バカ内閣のときに、バカ財務省が法人事業税の分割基準を変更して、東京の財布から4000億円かっぱらった。それを取り返して、東京をさらにしっかりしたい」
乱暴な言葉を織り交ぜながらの慎太郎節の全開だった。この場の言葉だけを素直に聞けばごもっともな話なのだが、この人の過去と照らし合わせると、些か辟易する。自らの欲望をほしいままに贅を尽くした人から「我欲を抑えて」「生活をつましく」と言われても、こちらの胸にはすとんと落ちない。選挙期間中にも「私は原発推進論者」と明言したが、かつての東京湾原発建設論はまだ生きているのか疑問も残る。
石原氏は1968年から参院議員1期、衆院議員8期、東京都知事4期と長い政治生活を続けきた。それを可能にしたカギは、作家との兼業にある。石原慎太郎研究のもっとも優れた著作であるノンフィクション作家佐野眞一氏の『てっぺん野郎-本人も知らなかった石原慎太郎』(講談社、2003年発行)から石原政治の本質を要約すれば、虚実をとりまぜて理想と現実を確信犯的に錯誤させて語る物書きと政治家の発言を綯い交ぜにしながら、人びとの耳目を集めることに優先的な重きをおいた彼独得のポピュリズム的政治手法が、毒舌や暴言というかたちで日本人の隠されたホンネをあぶりだしてきた。世間は彼の発言をあえて暴言、妄言と問題にせず、笑い飛ばして済ますことが、あたかも世の中をうまく渡っていくマナーのようなものだと考えている人が、異をとなえる人をはるかに凌駕しており、いつも最初の掛け声は勇ましいが、結果は尻すぼみに終わるパターンを繰り返してきた。
いま、日本中が心配し始めたことは「政治家がいない」という現実である。民主党にも自民党にも、この国難を背負える人物が見当たらない。それが最大の国難である。既成政党への不信に対し、石原慎太郎東京都知事、橋下徹大阪府知事、河村たかし名古屋市長といった首長が支持を集めるのは、中身の善し悪しは別にして、自分の言葉で自分の考えを語り掛けているせいだろう。裏返して言えば、中央の政治家は政治家の命たる言葉を失ってしまったといえる。石原氏のような作家政治も危うい。日本の明日をしっかりと語ることのできる本物の政治家がいない責任は有権者の側にもある。日本人全体がスクラムを組んで考えるべきは、そのことだと思う。
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