2023/4/5
◆私が総理大臣へAIを利用した質問をした理由
私が総理大臣へAIを利用した質問をした理由として、まず考えたことは、生成AIがここまで進化しているという体感値を国民の皆様と共有したいと考えました。
国会は1億2500万人いる日本国民のルールや制度、年間約100兆円の予算配分を決める国民の代弁者である議員の集まりであることから、議院での総理大臣への質疑は、国民の皆様からも関心を持って頂けます。
今回は現在のAIにどんなことができるのか、その活用方法、規制のあり方、教育、防衛、選挙、民主主義への影響など幅広いテーマで総理大臣、官房長官などに質疑を行わせて頂きました。
そうした中で、各メディアの皆様方にご注目を頂きましたのは、日本の憲政史上はじめてということになったかと思います「AIが生成した質問を国会で行い、総理が答弁した事例」でした。
アテンションエコノミーの概念が色濃く反映される現代社会において、情報の質よりも人々の関心や注目を集める話題性を追い求めた方が経済的利益が大きいと考えられている風潮が強くあります。この現況下では、様々な議員が日々研鑽を積み重ねた中で行われている質疑の内容よりも、例えば「ガーシー」氏が国会に来なかったことなどが優先的に報じられ、私たち政治家から見た本来有益な質を持つと考えている情報がニュースバリューとはミスマッチしている結果、届けたいと思う情報がなかなか届きにくい環境があります。
そうした中において、私がこの日に行った質疑時間の総数は、50分20秒。その内、総理にAIの作成した質問を問うた時間の一連のやりとりが4分50秒(9.6%)。全体時間の1割にも満たない時間のやりとりでしたが、この部分だけが切り取られて情報が広く配信されました。
結果として、非常に多くの方にご覧を頂き、反響も大きくありましたので、嬉しい限りですが、二次情報・三次情報の断片的な情報を誤解して事実とは異なるお問い合わせを頂くことも多くありました。参考に一次情報として議事速報全文(未定稿)を掲載させて頂きますので、ご興味関心のある方は、よかったらご高覧ください。
◆AIなどに関する総理・官房長官等との質疑内容の全文
https://go2senkyo.com/seijika/75109/posts/621689
ただそれでも、賛否評論を含めて政界への一石を投じられたこと、国民の皆様に広く生成AIというのはどういうものか知って頂けたこと、そして本質部分の残り45分程度の質疑内容をしっかりとキャッチアップをして下さりレスポンスをくださった方々に対して、本当にありがたく思いました。
◆テクノロジーの進化による懸念とリスク
テクノロジーの進化は本来、労働の効率化につながり、その結果、生産性を大きく向上させることで、人々の生活を豊かにし、より良い未来を切り開くためにあるものであると信じております。
しかしながら、経営者や株主のみがテクノロジーの恩恵を総取りし、労働者や社会に対して適切に配分されないことがあれば、双方共にミスリードが起こり、イギリスの産業革命時代に起こってしまった「機械の打ち壊し運動」(機械の浸透が仕事を奪うのではないかと恐れを抱いた労働者が機械などを破壊した)のような哀しい歴史を繰り返すことになるのではないかと危惧をします。
人は、「知らないこと」・「未知のもの」・「存在意義を脅かすもの」に恐怖心を持つことがあります。だからこそ、テクノロジーの進化による「労働」・「仕事」の変化に対応した、社会のあり方を真剣に考える必要があります。
また、その時代に対応した「市場の開拓」と「適切な人材配置」などを「政府」や「経営陣」などが俯瞰的に捉えることが重要ですし、労働者側もテクノロジーの進化に歯止めをかけるような運動ではなく、どのようにして富の分配を行うのかという議論を上層部へ投げかけることが本来大切です。
具体的には、効率化によって生まれた余剰時間を労働者に「給与」や「休暇」という形で配分して、労働者に還元するという本来あるべき姿を訴えることが重要です。わかりやすく言えば、今までと同じ給与で週休を2日から3日、4日と増やしていくなど生産性の向上に対する恩恵をしっかり分配させるということです。
また更に時代が進んだ時には、ベーシックインカムの議論が本格化すると想定します。私は国会において、諸外国のようにベーシックインカムの実証実験の検討をした方が良いと大臣に衆議院で提案したことがあります。
スペインでは、新型コロナウイルスの影響で困窮する低所得家計に1世帯当たり月5万5000円から12万円程度を支給するベーシックインカムを導入しました。またドイツやイタリア、フィンランドなどにおいてもベーシックインカムの実証実験や導入検討が行われております。
フィンランドがベーシックインカムの実験で実施したアンケート調査によると、ベーシックインカムの受給者のほうが、生活への満足度が高いという結果が出ました。精神的なストレスを抱えている割合が少なく他者や社会、組織への信頼度がより高く、自分の将来にもより高い自信を示したとのことです。
私自身は、ベーシックインカムの発想は格差が開き過ぎる社会において当たり前の議論だと思っておりますので、そのあり方を含めて更なる検討を行いたいと考えております。
またAIを発展させるにあたっては、なぜ、何のために、どのようにAIを進化させるのか、基本的な価値観や倫理原則を定めながら歩を進める必要があります。
世界的にも経済協力開発機構(OECD)や主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)などの国際会議の場で基本原則の議論が行われておりますが、AIのリスクをコントロールするためには、一部の国や企業、組織だけが優れたAIにアクセスできる状態ではなく、あらゆる人たちが豊かになるための行動指針を定めることが重要です。
◆AIと教育のあり方
日本の経済が成長していかないのは、教育や若者に対する支出を渋り続けた結果、少子高齢化が大きく進み、あらゆる格差が拡がるなど、人への投資ができていないことに加え、生産性、効率性を高めるDXが行き渡っていないことが大きな要因であると考えております。
AIのようにこれまでになかったテクノロジーが勃興する社会の中で教育をどのように進化させていくのかについては、次代を育てる観点からも極めて重要な課題です。
現在のリベラルアーツを考えた時に、社会を生き抜くための基礎教養は大きく変化しています。
第4次産業革命時代に必要となる人材を確保するには、問題設定、問題解決を図る能力や情報を正しく取り扱うデータサイエンス、データエンジニアリングなどの基礎的なリテラシーを持つ人材育成を目指す必要があります。また、ディーセントな価値観の醸成し、情報モラルを身につけることも大切です。
AIをツールとして使いこなすためのプログラミング教育も有用であり、やってもらいたいことを正しくAIに伝えるコミュニケーション能力が必要です。
学校教育においては、ChatGPTなどの簡易に利用できる生成AIが登場し、教育機関の対応も様々です。
学生がChatGPTを使ってレポートなどの宿題を作成する可能性があるなど便利なチャットボットに子どもたちが依存し、思考力を奪うとして規制をする動きが出始め、オーストラリア、フランス、アメリカの一部地域(ニューヨーク、シアトル、ロサンゼルスなど)では、学校での利用を禁止した事例があります。
その一方で、アメリカのその他の地域や韓国、シンガポールなどではデジタル教育の新潮流だと捉え、教育現場での活用を進めている事例も散見され、むしろ現状の教育システムの改善に向けた動きも見られます。
私自身は、テクノロジーの進化を止めることは時代の潮流を考えても不可能であり、仮に日本の教育現場でChatGPTのようなAIの使用を禁止したとしてもAIは今後も大幅に性能が向上し続けるという現実を踏まえれば、あえて遠ざけるのではなく、教育者と生徒がAIをどのように使いこなすことができるかということを考えた方が日本の教育を健全に発展させると思います。
コペルニクスが、天動説が主流の時期に地動説を唱えた時のように、物事の見方が180度変わってしまうコペルニクス的転回に対応しなければならないことはいつの時代にも訪れますので、日本政府や教育現場の皆様方には、AI活用をむやみに排除するのではなく、教育におけるAI活用のあり方を考え、学習の質の向上や業務の効率化に役立てることに対してリードしていただきたいと考えています。
先日の質疑で官房長官にその旨をお伝えしましたところ、「どういった形で社会に有用に活用していけるか、そのことをしっかりと検討してまいりたいと思います。」とのことでございますので、今後に期待したいと思います。
◆政治・行政におけるAIの利活用
AIなど様々なテクノロジーの勃興で各職種の生産性を向上させ、自動化が進むことになります。
私は、この生成AIを活用すれば立法府・行政府の生産性・透明性を著しく向上させられると考えています。
例えば、弁護士がウェブ上で無料相談に応じる「みんなの法律相談」を運営する弁護士ドットコムが、ChatGPTを使った新たな無料法律相談サービスを今春に始める方針を明らかにしています。
これまで蓄積した100万件以上の法律相談のやり取りを、AIに学ばせ、法律的な見地から正しいコメントをする相談専用の対話型AIをリリースする計画ですが、この方法は本来的には日本の立法府・行政府でも同様のサービスをリリースすることができます。
機密情報を除く、公開されている立法府・行政府、双方の議事録や資料、いわゆるオープンデータをAIに読み込ませ、正しい見地からコメントを生成できる対話型AIをリリースすることができたならば、立法府・行政府に携わる者の生産性を飛躍的に向上させるのみならず、国民にとっても立法府・行政府で行われてきたことがわかりやすくなり、透明性・公正性が格段に高まります。
そこで、行政府の長であり、立法府の与党総裁である、岸田文雄総理大臣に立法府・行政府の公開されている情報を学習させた対話型AIの開発を進め、デジタル民主主義を進化させるべきだと提案したところ以下のような答弁がありました。
「生成AIを適切に使用することにより、今後は、行政に関わる職員がより多くの情報を効率的に利用する、あるいは高度な情報処理を行うことができるようになるといった可能性があるとも認識をしています。ただ一方で、行政においてセキュリティーを確保した上で生成AIを活用するに当たっては、費用面やデータの取扱い、また、AIを政府自身が独自に開発することが適当かどうかなどについて整理すべき点もあることから、その活用の進め方については、今後検討を進めてまいりたいと考えます。」
ということで、今度、検討を進めていくとのことでした。
大規模言語モデルを仮に自ら開発したとしても、現時点のレベルのものであれば数百億円で開発できると思いますし、日本がAI革命のインパクトについていくための費用と考えれば有効な投資であると考えますので、自前でこうした開発を進めることも検討いただきたいと思います。
◆AIが政策の立案や評価をできるようになった時の政治家の役割
「人が想像できることは、人が必ず実現できる」
これは、サイエンス・フィクション(SF)の父・ジュール・ヴェルヌの言葉ですが、実際に私たちの生活においても、数十年前にこんな未来が来るかもと想像していた多くのことが実現されています。
例えば、アニメ・ドラえもんは、近未来を想像しやすい物語ですが、SFの秘密道具が現実世界でも、それらに近いかたちで実装されています。
具体的には、 個人で空を飛べる道具『タケコプター』は、ジェットエンジン搭載のフライボードというかたちで実現されました。
また、『ほんやくコンニャク』というどんな言葉でも操れるようになる道具は、ウェアラブル翻訳端末というかたちで実装され、インターネットも6G(第6世代移動通信システム)が主流になる時代がくれば、どこの国の人とでもほぼストレスがなくスムーズにコミュニケーションが取れる時代になると思います。
流石に『タイムマシン』は出来ないだろうと思っていたら、メタバースとブロックチェーンの発展で実質的なタイムリープが体験できます。
例えば、過去の疑似体験として戦国時代に本能寺の変で織田信長が死んでなければどんな時代になっていたのかなどフィクションストーリーのシミュレーションを行うことや未来の予測として若者向けのべーシックインカム政策を導入したら出生率、婚姻率、就業率、労働力率、自殺死亡率などにどのような変化があるかなど仮説検証を行うことが可能となります。
また10年後に、自動運転車が普及すれば、『ロボット・カー』が実装することとなり、現在のドライバーの職務は、機械のメンテナンスや、運転以外のサービス提供にリソースを割くことになると思います。
ペロブスカイト型の薄膜太陽電池、ひみつ道具風に言えば、『ハイパワーの太陽電池』がEV自動車に実装される時代がくれば、ガソリンスタンドの業務などもこれらの自動車のメンテナンスなどが主業務になると推察します。
そして、AIがより高性能に進化し、ロボットに搭載される時代になれば、まさに『ドラえもん』が誕生することになります。
このような社会の変化に、ワクワクする一方で、テクノロジーの進化による社会構造の変化にしっかりと対応し、国民生活を豊かにするといった使命を与えられている国会議員として、その非常に重たい責任を与えられていることに対し、緊張感を持っております。
当然、その他の職務と同様に議員の存在意義や立法府・行政府がAIをはじめとしたテクノロジーをどのように使いこなすべきか問われる場面が必ず来ますので、最適解を示せるように今後も更なる研鑽を積んで参りたいと考えております。
技術革新に対応できなかった国や組織は、いつの時代も新興勢力に打ち負かされて衰退してしまうという現実は、歴史を振り返っても明らかです。
最強と言われた武田の騎馬隊が、織田勢が導入した新兵器である鉄砲を用いた戦略の前に大敗した歴史は、日本人にも馴染みの深いところです。
こうした教訓から学べることは、テクノロジーの進化を止めることは時代の潮流を考えても不可能であるため、進化をあえて止めるような動きをするのではなく、健全に発展させて、その恩恵を公平公正に分配していく知恵が求められているということだと考えます。
そうした中、現在の日本は、世界のリーダーとして第4次産業革命を牽引し、先端技術を活用した社会のデジタル化、スマート化を進めるのか、あるいは現状のルートをただそのまま進み、自らもう先がないというジリ貧状態に追い込まれるのかという岐路に立たされていると私は考えています。
AIに関しては、名古屋大学の佐藤理史教授がわかりやすく説明をして下さっており、『誤解を恐れず平易にいいかえるならば、「これまで人間にしかできなかった知的な行為(認識、推論、言語運用、創造など)を、どのような手順(アルゴリズム)とどのようなデータ(事前情報や知識)を準備すれば、それを機械的に実行できるか」を研究する分野である』であると述べております。
AIがAI自身でより賢いAIを作っていくこれからの時代のことに関しては、凡人の私には今は想像も尽きませんが、少なくとも今から5年から10年くらいの間のAIは既知の知識を吸収し、情報の最適化と生産性の向上、自動化の促進に寄与をしてくれる技術であると仮定して理解するのであれば、政治家の役割は、「無知の知」即ち分からないことに気づき、分からないことに向き合い続け、その答えを国民の皆様に示すことが求められると考えています。
政治家・中谷一馬としては、パターン化された作業はできるだけAIにまかせて、テクノロジーの進化に対応した0から1を生み出す創造性を発揮する仕事を進め、国民にその健全な発展と恩恵の公正な分配のあり方のビジョンを示し、その未来ビジョンからムーンショット型で必要な政策を逆算して推進していきたいと考えています。
これからも、未来の“スタンダード”を創るべく、10年後の常識はどういう時代かを推察しながら、先端技術を活用したDXを進め、豊かな日本を再興できるように頑張りますのでご注目ください。
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