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熊谷 俊人 ブログ

【費用便益が3.57から0.87に モノレール延伸構想の杜撰さ 拙著抜粋企画 行財政改革③】

2020/10/27

【費用便益が3.57から0.87に モノレール延伸構想の杜撰さ 拙著抜粋企画 行財政改革②】

■ 間に合ったモノレール延伸の凍結

 公共事業の中で投資効果に疑問があるものを止めることが必要でした。
 前述した通り、私は大型公共事業に反対ではありません。実際に、千葉駅西口再開発は当時に戻れば違う判断もありえたものの、既に土地はほぼ取得済み、かつ開発しなくとも地権者に毎年多額の補償料を支払う必要があったため、事業を続行することにしました。

 問題は千葉都市モノレールの延伸事業と蘇我スポーツ公園整備事業です。
 モノレール延伸事業は、市議になる前から注目していた事業です。私自身はモノレール沿線に住んでいたので、かなりの頻度で利用しているユーザーではありましたが、延伸事業の根拠となる試算には疑問を抱いていました。

 当時の試算は建設費が176億円、延伸によって増える乗客数が1日8770人、公共事業の妥当性を図る費用便益という指標は3.57と、延伸することが妥当である、となっていました。
 しかし、県庁前路線を整備した際、競合するバスが100円運賃という対抗値下げを行い、この路線には現状ほとんど乗る人がいないことを考えると、延伸した場合に千葉大学附属病院や市立青葉病院に向かうバス路線の乗客全てがモノレールにシフトするという試算には懐疑的にならざるを得なかったのです。

 また、蘇我スポーツ公園についても、 20面のテニスコートや陸上競技場といった、財政が危機的な中で整備する優先度が高いものではありませんでした。

 そもそも、千葉市には天台に県の総合スポーツセンター陸上競技場があり、青葉の森にも陸上競技場があります。なぜ、さらに陸上競技場を作る必要があるのか尋ねたところ、「それらは県の施設なので、市の陸上競技場が必要」との話でした。
 確かに県の総合スポーツセンター陸上競技場は県レベルの大会が多いので市が自由に使えるわけではありませんが、青葉の森の陸上競技場は市の大会を多く開催しており、県から引き取ったらどうだと言われるくらいの施設です。県の施設だ、市の施設だ、といった話は市民には関係がありません。

 こうした施設は整備するイニシャルコストだけではなく、毎年維持するためのランニングコストも必要となります。少なくとも市民の税金を将来にわたり支出するに足るだけの検討がなされている事業ではありませんでした。

 就任後、さっそく両事業の見直しを指示したわけですが、これらの見直しはスムーズ、かつ速やかに行うことができました。
 実は、これら事業の見直しを私が公約として打ち出し、選挙期間中に私が優勢であるとの情勢分析を報道機関が出した時点で、当時の都市局長の徳永幸久さんは、ひそかに両事業を見直す場合の選択肢について研究に着手していました。 60年続いた助役出身者が市長になる慣例が破れ、大幅な市政の転換が現実味を帯びてきて庁内が混乱している中、粛々と来るべき時に備えてくれていたわけです。

 冷静な徳永さんのおかげで、就任後すぐに提示された選択肢を元に吟味し、モノレール延伸事業は凍結、蘇我スポーツ公園整備については陸上競技場等の施設整備は止めて多目的に使えるグラウンドを中心とする見直しを行い、総事業費を圧縮することとなりました。

■ 10年間の道のりに決着

 その後、 10年が経過し、脱・財政危機宣言も解除されるなど急速に財政は健全化されました。そこで、私はモノレール延伸事業について、延伸するべきか改めて検討することを指示しました。

 実はこの 10年間、財政健全化に向けた苦しい道のりをともに歩んでくれた議会は、投資判断が極めて冷静、的確となっており、モノレール延伸事業について検討再開を求める声は全く上がっていませんでした。議会も、庁内も「あれは終わった話」という感が強かったのです。このまま凍結のままにしてしまった方が私にとっても、市政にとっても短期的には良かったと思います。

 しかし、結局モノレール延伸事業はどの程度の効果があったのか、うやむやにするべきではないと私は考えました。
政治的に安定しており、職員も議会も投資判断が的確な今ならば、延伸ありき、延伸反対ありきといった先入観や政局抜きに、大型公共事業の是非を判断・検証できるのではないか。後世、モノレール延伸を訴え、当選した市長の下で、冷静な検証なく延伸され、それが失敗に終わるリスク、逆に延伸すべきだったにも関わらず私が凍結したために、永遠に延伸できないリスクもありました。

 無風・中立の状態で丁寧に検証した結果、モノレール延伸事業は当時の見通しよりもはるかに少ない乗降客数しか見込めず、費用便益は1を切り、事業として妥当ではないということが判明しました。当時の試算がいかに楽観的で、延伸ありきの無理な前提条件で算定していたかが白日の下にさらされたのです。

当時公表されていた試算
・乗客:8,770人
・費用便益:3.57

新たな試算
・乗客:3,200人
・費用便益:0.87

 実はこの新たな試算は、当時モノレール社が内々で試算していた数字とあまり変わりありませんでした。当時、市が楽観的な試算を示す裏側で、モノレール社の独自試算ではもっと低い数字が出ていたのですが、そのような不都合な試算は当時表に出なかったのです。

 当時のトップが延伸ありきで突き進み、都合の良い試算が示され、誰も止められない、これは千葉市でなくともどこにでもある話です。
 私が2009年に就任していなければ、その後、設計・着工と進み、次の2013年の市長選挙ではもはや止められない状態になっていましたので、ぎりぎり踏みとどまることができたわけです。

 このモノレール延伸を巡る 10年間は、止められない公共事業を正しく、冷静に見直したモデル事例として、全国の参考になるでしょう。

 千葉市は極めて安易な発想で作られた公共施設が多すぎます。100万人に満たない自治体が、自前のレジャープール、動物園(以前は遊園地も併設)、アイススケート場、野球スタジアム、サッカースタジアムなどフルセットで持っています。こんな都市はありません。
 「きぼーる」などは400億円以上を投じたにも関わらず、中に何の施設を入れるかビジョンも無いまま、土地取得・開発ありきで作られました。

 道路整備等の都市インフラ整備は投資効果もありますし、投資案件の中には当時は良い施策と思っていたものが後に振り返ると過ちだったこともありますが、千葉市に関しては当時の判断そのものが甘い、そもそも投資判断がなされていないケースが散見されます。

 市長就任後、資産経営部を新設し、野放図に整備されてきた公共施設の最適化を時間をかけて職員とともに取り組み、一定の成果を挙げることができました。
 千葉市は 10年先の各公共施設の老朽化状況を勘案しながら、集約化や効率的な配置を資産経営部を中心に構想し、実行に移しています。今の職員、議会であれば、これからも賢い資産経営をしてくれると確信しています。

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費用便益というのは一般の方にはなじみがないかもしれませんが、公共事業の公益性を図る最も基礎的な指標です。

費用対便益が1を切っていた、公共事業として不適当だったと言うと、収益性と勘違いされた方が「公共事業を黒字か赤字かで判断してはいけない」と反応されるケースが少なくありません。
モノレールのような公共交通事業は黒字にならないからダメということではありません。それによって多くの市民・乗客が利便を得て、モノレールにシフトすることで渋滞が解消されるといった公益的価値も入れて計算しています。

さすがに費用便益を3.57といっていたものが本当は0.87というのは無責任極まりない公共事業で、私が当選していなければこの事実は永遠に闇に葬られていたかと思うと、政治と選挙というものの恐ろしさを感じざるを得ません。

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著者

熊谷 俊人

熊谷 俊人

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