2026/6/2
2026年5月29日、東京都が「国の首都直下地震における被害想定の分析と首都東京の強靭化に向けた都の見解」を公表しました。そこから見えてくるのは、二つのことです。ひとつは、東京の防災対策が着実に成果を上げていること。もうひとつは、国の被害想定について、より実態に即した見直しの余地が指摘されていることです。そして今、この被害想定は副首都構想の議論とも深く関わっている。

1. 東京は10年で着実に強くなっている
まず、東京都が公表した資料によれば、過去10年間(2012→2022)で東京の地震への備えは明確に前進しています。
住宅耐震化率:81.2% → 92.0%
木造住宅密集地域:約1.6万ha → 約0.86万ha(ほぼ半減)
インフラの停電率:17.6% → 11.9%
水道管路の耐震化(重要施設接続部):92% 全国平均は45%──東京は2倍以上の水準
下水道耐震化(重要施設接続部):87%(全国平均53%)
都内重要施設853施設の非常用電源配備率:100%
復興まちづくり実施率:97%(全国平均68%)
これらの取組により、建物全壊の想定棟数は12万棟から8万棟へ、火災焼失も20万棟から12万棟へ減少すると推計されています。東京は、自治体として打てる手を着実に重ねてきた。その積み重ねが、数字としてはっきりと表れている。これが現在地があります。
2. 国の被害想定をめぐる3つの論点
昨年12月に国(首都直下地震対策検討ワーキンググループ)が公表した被害想定について、都は分析の結果、いくつかの論点を提起している。
論点①:電力需要
国の想定は「真夏のピーク需要」を発災後も維持される前提に立っている。ただし、現実には大規模災害が起きれば社会経済活動は急減し、お盆期間と同程度(約36%減)まで需要が落ちる可能性がある。需要側の変動を織り込むかどうかで、停電率の見え方は大きく変わってくる。
論点②:電力供給
火力発電所の9割が停止し、1か月復旧しないという想定。事業者の被害軽減対策や段階的復旧、広域融通、柏崎刈羽原発の運転再開といった状況変化も反映の余地があるのではないか、というのが都の指摘である。
論点③:災害関連死
都市構造も医療資源も大きく異なる東日本大震災等の数字を東京に横引きする手法について、より実態に即した推計が望まれている。この点は内閣府自身も問題意識を共有しており、2026年1月から推計手法の見直しに着手している。これらはいずれも、国の想定を否定するものではなく、より精緻な数字に近づけるための論点として受け止めるべきものだろう。
3. 副首都構想と「前提となる数字」
ここで、もう一つ大きなテーマに触れたい。副首都構想との関係です。いま日本維新の会が推進し、政府でも具体化が進められている「副首都構想(副首都法案)」。その主要な根拠の一つに掲げられているのが、首都直下地震など大規模災害時に東京の中枢機能が止まるリスクへの備えです。大阪府市の検討資料でも、副首都が必要な根拠の筆頭に「災害リスクの分散」が挙げられています。副首都構想そのものには、東京一極集中の是正、地方の活力向上、文化的多様性といった別の文脈での意義もあり、議論する価値は十分にあります。ただ、災害リスクを主要な根拠の一つに据えるのであれば、そのリスクの大きさを示す数字こそ、最も丁寧に検証されるべきではないでしょうか。
副首都構想は、行政機能の二重化、立法・司法機能の分散、関連インフラの整備など、長期的には大規模な財政負担を伴う取組である。TOKYO強靭化プロジェクトが2040年代までに17兆円(うち地震対策9.6兆円)の投資を予定しているのと並行して、もう一つの大きな国家プロジェクトが動こうとしている。その意思決定の前提となる数字について、都の分析が提起した論点は、丁寧に検討する価値があります。
4. 必要なのは「正確な前提」に基づく議論
首都直下地震のリスクを軽視してよい、ということでは決してありません。災害関連死を一人でも減らすために、できる備えはすべて尽くすべきです。ただ、政策判断の前提となる数字は、できるだけ実態に即したものであってほしい。最悪値を積み上げた数字と、実態に即して打ち手を組み立てるための数字では、果たす役割が異なります。
東京都は2026年5月、防災会議の下に「地震部会」を設置し、2027年(令和9年)3月を目途に、東京の実態に即した新たな被害想定を策定する予定です。ライフライン・避難者・帰宅困難者の3項目に絞り、スピード感を持って取り組むという。副首都構想を進めるにせよ、進めないにせよ、その判断の土台となる数字は、できるだけ正確であってほしい。この点に注目していきたい。
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